『下血により死んだライトノベル作家・常陸之介寛浩は転生するとフンコロガシになっていた件』》

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
8 / 15
第1章『うんちと再誕』

第7話『トイレ神殿の洗礼』

しおりを挟む
 その日は、空気が少し、重たかった。
 空に浮かぶ雲が、いつもより低く、太陽の光がまるでフィルターを通したようにぼんやりしていた。

「今日は、“特別な場所”に連れてってあげる」

 そう言ったのは、ころりんだった。
 昨日の転がし訓練を終えたばかりのヒロヒロに、ぽそっと囁いたのだ。

「特別な場所?」

「うん。“トイレ神殿”。あたしも一度しか入ったことないんだけどね。
 そこに行けば、きっと“あんたのこと”がわかると思う」

「……俺の、こと?」

 ころりんは笑わなかった。
 普段ならくしゃっと笑って軽口を叩く彼女が、その時だけは、どこか“祈るような顔”をしていた。

 

 ◆

 

 トイレ神殿──正式名称《大洗殿(だいせんでん)》。
 聖糞村の南端、森を抜けた奥にひっそりと存在する“遺跡”だった。

 巨大な便器の形をした石造。
 入口は、便座の裏側から地中へと続いていた。
 湿気を帯びた空気と、土と苔と、かすかなアンモニア臭。
 けれど、ヒロヒロにはなぜか懐かしく感じた。

「ここは、虫たちが“命の還る場所”って呼んでるとこなの。
 でも本当は──“神がうんちをした場所”なんだって」

「神が……うんち?」

「うん。すべての命は、“神の便意”から始まったっていう伝説があるの。
 この世界の“始まり”は、“神が排泄したフン”だったって」

「……なんか、笑っちゃいけないけど……でも、すげぇスケールだな……」

 ころりんは微笑んだ。

「昔、神様は“命を作るためにうんちをした”って言われてる。
 その一発のうんちが“ビッグ・ボム”って呼ばれてて──世界の中心に今も眠ってるらしいよ」

「完全に宇宙誕生説じゃん……ビッグ・バンならぬ、ビッグ・ボム……」

 だが、神話はさらに続く。

「でもね、ある時──神は、“排泄を恥じる者”たちに怒ったの。
 自分のフンを“汚い”って言った者たちを、“命を理解しない存在”として分離させたんだって」

「……それって、もしかして……人間?」

「かもしれないね。
 だから私たち虫たちは、“フンを神聖なもの”として受け入れ続けてる。
 だってそれが、命の流れだから」

 ヒロヒロは、立ち止まった。
 目の前に、“一際大きな石板”があった。
 そこには虫の文字でこう記されていた。

【此処に神ありき。
 便座の熱にて誕生し、
 黄金の玉を転がし、
 やがて我らとなる。】

「……“神も転がしてた”のか……」

 ころりんが、後ろから小さく囁いた。

「うん。“神は最初の転がし手”。それが、フン界の真理」

 その瞬間だった。

 ズゥゥン……!

 地面が微かに振動した。

「……なに、今の……?」

「……“祈りに、応じた”んだよ」

 奥へと進む。
 最深部には、“黄金の便器”が安置されていた。
 そしてその中心──便器の底に、ひとつだけ転がる球体。

 それは、
 光っていた。

 うんちが。
 黄金のうんちが。

 まるで、心臓のように脈打ちながら、静かに、そこにあった。

「……これが、“神の一玉”」

 ころりんがつぶやく。

「神様が、最初に転がした“命の原型”。
 触れると、その人に“答え”が返ってくるって言われてる」

「……“答え”?」

「うん。あんたが“なぜここにいるのか”。
 “なぜフンを転がす運命なのか”。
 あたしには、それがわからない。でも、あんたには必要でしょ?」

 ヒロヒロは、近づいた。
 不思議と、怖くなかった。

 脚を伸ばし、静かにその黄金の球に触れた瞬間──

 

 ──視界が、反転した。

 

 暗闇。
 土の匂い。
 誰かの鼓動。
 体温。
 人の声。
 ざわめき。
 便意。
 排泄。
 ──感情。

 

 そして──

「“うんちなんて、汚いだけじゃないよ。だって、わたしの命が、ここにあるんだもん”」

 少女の声だった。
 どこかで、聞いた気がした。
 まだ人間だったころ──
 きっと自分が、どこかで読んだか、書いたかした“物語の中の言葉”。

 目が覚めたとき、
 ヒロヒロの頬(らしき部分)は、わずかに濡れていた。

 

 ◆

 

「……ヒロヒロ、大丈夫?」

 ころりんが、心配そうにのぞき込んでいる。

「……うん。
 ちょっとだけ……“思い出した”気がする。
 俺が、“何を描きたかったか”を」

「描きたかった?」

「……誰かの“命の続きを”──書きたかったんだ、ずっと。
 ラノベって、そういうもんだったと思うんだよ。
 ハーレムでも、異世界でも、バトルでも、
 誰かの“もう少し生きたかった”って気持ちを、続きを、書いてあげるのが俺の仕事だった。
 それを、今……転がしてる気がする」

 ころりんは、何も言わなかった。
 ただ、そっと隣に座った。

「ここが、“始まりの便器”なんだね」

「うん。そして、たぶん──俺の“物語の再出発点”でもある」

 世界は、小さなうんちの球から始まった。
 だとすれば──それを転がすことは、世界を繋げること。
 命を回すこと。

 ヒロヒロは、黄金のフンに向かって、そっと脚を添えた。
 その一瞬、たしかに球が──転がった気がした。

 

 ──神は、笑っていた。
 自分のうんちが、また誰かの未来を運んでいくことを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...