『下血により死んだライトノベル作家・常陸之介寛浩は転生するとフンコロガシになっていた件』》

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
7 / 15
第1章『うんちと再誕』

第6話『うんち転がし訓練、はじめました』

しおりを挟む
「よし、まずは“基本姿勢”からだよ!」

 ころりんの元気な声が、朝の森に響く。

 草木の間を小さな風が抜け、土に落ちる朝露が光を受けて煌めいていた。
 虫たちが目覚め、翅を震わせ、そして──今日も、誰かがうんちを転がし始める。

 ここは《聖糞村》から少し外れた訓練場。
 土の柔らかさと傾斜のバランスがよく、初心者でも安全に転がしを学べるフン界公認の“練習スポット”だった。

 

 ◆

 

「“基本姿勢”? なんか、体育の授業みたいだな……」

 ヒロヒロは、指示された位置に立ち、前脚を軽く曲げる。

「そう。で、後ろ脚はフンの下に添えて……あ、そうじゃない。腰、ちょっと引いて!」

「え、虫の腰ってどこ!? 腰って概念、あるの!?」

「あるよ! 虫なめんな!」

 ころりんが本気で怒ると、意外と迫力があった。

「じゃあ、フンを少し転がしてみようか。今の姿勢のまま、力をかけずに……」

「え、力入れないの? 転がすのに?」

「ちがうの。フンは“押す”んじゃない、“誘う”の!」

「……誘う?」

 ころりんは、まるでダンスを踊るような優雅な動きで、自分の小さなフン球に脚を添えた。
 すると──ふわりと浮いたように、フンがくるりと回転する。

「回そうとしない。“感じて”」

「完全に武術の達人が言うセリフなんだけど……」

「“回すより、感じろ!”っていうの、これフン界の格言なんだよ!」

 ころりんのフンが、軽やかに舞う。
 まるで空気と踊るように、土を撫でるように。

「すげぇ……」

「うんちってね、ひとつひとつに“個性”があるの。
 硬さ、重さ、湿り気、繊維の入り方、温度……それを感じながら転がすのが、聖糞虫の技なんだよ」

「……まるで……小説だ……」

 思わず呟いた。
 構成、文体、キャラの性格、プロット──それらを“感じながら”書く。
 無理に動かすんじゃない。
 動きたい方向に導いていく。
 ──それは、まさしく“転がし”だった。

「よし、じゃあ次。実践いこっか!」

「うおっ、実践!?」

「《三種のフン訓練》、はじめるよっ!」

 ころりんが、地面の上に三つの球体を転がして並べた。
 いずれも直径20センチほどのフン球。
 でも、その質感と香りはまるで違っていた。

「左が《ヤギ系》。中が《ウサギ系》。右が《ヒト型調合》──」

「まってヒト型!?!?!?」

「だいじょうぶ! フレーバーだけだから! 実際のヒトフンじゃないから!」

「ホッとしたけど、なんか嫌だ!!」

 ころりんは無邪気に笑う。
 だがその目は、真剣だった。

「一番転がしやすいのは、ヤギ系。粒子が細かくて均等。
 ウサギ系は跳ねやすくて初心者泣かせ。
 ヒト型は……個性が強すぎて、正直、初心者には“香りでやられる”よ!」

「罠じゃねぇか!!」

「でも、挑戦したい気持ち、あるでしょ?」

 ころりんの言葉に、ヒロヒロは苦笑した。

「……ある。転がしてみたいって思っちゃってる自分がいるのが怖い……」

「よし! それが“フン力の芽”ってやつ!」

 まずはヤギフン。
 土に適度に沈み込む柔らかさ、香ばしい牧草の香り。
 転がすと、スルスルと動いた。

「おぉぉぉ……! これ、転がるぅ……!」

「うんうん、いい感じ!」

 次にウサギ系。
 丸くて軽いが、跳ねる。地形の凹凸にめっぽう弱い。

「うわあああっ! 跳ねた! 跳ねたぁっ!? なんで跳ねるの!?」

「ほら! 角度っ! 体重かけすぎないで!」

「ダメだあああああ!」

 最後に──ヒト型。

「……ころりん、香り、ちょっと……強くない?」

「うん……でも、それがいいって虫も多いんだよ。“記憶が深い”って」

 ヒロヒロは、そっと脚を添えた。
 それだけで──脳裏に、“誰かの暮らし”が流れ込んできた。

 パンの香り。
 コーヒーの渋さ。
 フローラルな柔軟剤。
 寝不足。
 不安。
 でも、たまに笑う子どもの声。

「……これ……人間の……」

「うん。“人間の命のかけら”が、そこにある」

 ヒロヒロの脚が、震えた。

「すごいな……うんちって、こんなに、誰かを語れるんだな……」

「でしょ? あたしたち、転がしてるけど──実は、読んでるんだよ。命を」

「……俺も、読んでたんだ。ずっと。
 誰かの気持ち、誰かの本音、物語の中に込められた“言葉にならない想い”を──
 ラノベって、そういうもんだと思ってた」

 ころりんが、にこっと笑った。

「だったらきっと、ヒロヒロは、すっごいうんち転がしになるよ」

 その言葉が、胸に沁みた。

 日が暮れ始めた頃。
 ヒロヒロは、地面に寝転がって、空を見上げていた。

 疲れた。
 でも、清々しい。

「なぁ、ころりん」

「なに?」

「うんちってさ……」

「うんちって?」

「……尊いな」

「ふふっ、わかってきたじゃん」

 うんちは、命だった。
 それを転がすことは、誰かの人生を受け止めること。
 それを導くことは、命の続きを描くこと。

「回すより、感じろ」
 この世界のすべてが、その一言に込められている気がした。

「明日も、練習しよ?」

 ころりんの声が、夕焼けのなかに響いた。

「うん。俺──もっと、感じたい。
 この世界を。
 命を。
 うんちを──」

 

 ──そうして、ヒロヒロの“うんち修行”が、幕を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

ナナの初めてのお料理

いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。 ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。 けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。 もう我慢できそうにありません。 だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。 ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう! ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。 これは、ある日のナナのお留守番の様子です。

処理中です...