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第1章『うんちと再誕』
第6話『うんち転がし訓練、はじめました』
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「よし、まずは“基本姿勢”からだよ!」
ころりんの元気な声が、朝の森に響く。
草木の間を小さな風が抜け、土に落ちる朝露が光を受けて煌めいていた。
虫たちが目覚め、翅を震わせ、そして──今日も、誰かがうんちを転がし始める。
ここは《聖糞村》から少し外れた訓練場。
土の柔らかさと傾斜のバランスがよく、初心者でも安全に転がしを学べるフン界公認の“練習スポット”だった。
◆
「“基本姿勢”? なんか、体育の授業みたいだな……」
ヒロヒロは、指示された位置に立ち、前脚を軽く曲げる。
「そう。で、後ろ脚はフンの下に添えて……あ、そうじゃない。腰、ちょっと引いて!」
「え、虫の腰ってどこ!? 腰って概念、あるの!?」
「あるよ! 虫なめんな!」
ころりんが本気で怒ると、意外と迫力があった。
「じゃあ、フンを少し転がしてみようか。今の姿勢のまま、力をかけずに……」
「え、力入れないの? 転がすのに?」
「ちがうの。フンは“押す”んじゃない、“誘う”の!」
「……誘う?」
ころりんは、まるでダンスを踊るような優雅な動きで、自分の小さなフン球に脚を添えた。
すると──ふわりと浮いたように、フンがくるりと回転する。
「回そうとしない。“感じて”」
「完全に武術の達人が言うセリフなんだけど……」
「“回すより、感じろ!”っていうの、これフン界の格言なんだよ!」
ころりんのフンが、軽やかに舞う。
まるで空気と踊るように、土を撫でるように。
「すげぇ……」
「うんちってね、ひとつひとつに“個性”があるの。
硬さ、重さ、湿り気、繊維の入り方、温度……それを感じながら転がすのが、聖糞虫の技なんだよ」
「……まるで……小説だ……」
思わず呟いた。
構成、文体、キャラの性格、プロット──それらを“感じながら”書く。
無理に動かすんじゃない。
動きたい方向に導いていく。
──それは、まさしく“転がし”だった。
「よし、じゃあ次。実践いこっか!」
「うおっ、実践!?」
「《三種のフン訓練》、はじめるよっ!」
ころりんが、地面の上に三つの球体を転がして並べた。
いずれも直径20センチほどのフン球。
でも、その質感と香りはまるで違っていた。
「左が《ヤギ系》。中が《ウサギ系》。右が《ヒト型調合》──」
「まってヒト型!?!?!?」
「だいじょうぶ! フレーバーだけだから! 実際のヒトフンじゃないから!」
「ホッとしたけど、なんか嫌だ!!」
ころりんは無邪気に笑う。
だがその目は、真剣だった。
「一番転がしやすいのは、ヤギ系。粒子が細かくて均等。
ウサギ系は跳ねやすくて初心者泣かせ。
ヒト型は……個性が強すぎて、正直、初心者には“香りでやられる”よ!」
「罠じゃねぇか!!」
「でも、挑戦したい気持ち、あるでしょ?」
ころりんの言葉に、ヒロヒロは苦笑した。
「……ある。転がしてみたいって思っちゃってる自分がいるのが怖い……」
「よし! それが“フン力の芽”ってやつ!」
まずはヤギフン。
土に適度に沈み込む柔らかさ、香ばしい牧草の香り。
転がすと、スルスルと動いた。
「おぉぉぉ……! これ、転がるぅ……!」
「うんうん、いい感じ!」
次にウサギ系。
丸くて軽いが、跳ねる。地形の凹凸にめっぽう弱い。
「うわあああっ! 跳ねた! 跳ねたぁっ!? なんで跳ねるの!?」
「ほら! 角度っ! 体重かけすぎないで!」
「ダメだあああああ!」
最後に──ヒト型。
「……ころりん、香り、ちょっと……強くない?」
「うん……でも、それがいいって虫も多いんだよ。“記憶が深い”って」
ヒロヒロは、そっと脚を添えた。
それだけで──脳裏に、“誰かの暮らし”が流れ込んできた。
パンの香り。
コーヒーの渋さ。
フローラルな柔軟剤。
寝不足。
不安。
でも、たまに笑う子どもの声。
「……これ……人間の……」
「うん。“人間の命のかけら”が、そこにある」
ヒロヒロの脚が、震えた。
「すごいな……うんちって、こんなに、誰かを語れるんだな……」
「でしょ? あたしたち、転がしてるけど──実は、読んでるんだよ。命を」
「……俺も、読んでたんだ。ずっと。
誰かの気持ち、誰かの本音、物語の中に込められた“言葉にならない想い”を──
ラノベって、そういうもんだと思ってた」
ころりんが、にこっと笑った。
「だったらきっと、ヒロヒロは、すっごいうんち転がしになるよ」
その言葉が、胸に沁みた。
日が暮れ始めた頃。
ヒロヒロは、地面に寝転がって、空を見上げていた。
疲れた。
でも、清々しい。
「なぁ、ころりん」
「なに?」
「うんちってさ……」
「うんちって?」
「……尊いな」
「ふふっ、わかってきたじゃん」
うんちは、命だった。
それを転がすことは、誰かの人生を受け止めること。
それを導くことは、命の続きを描くこと。
「回すより、感じろ」
この世界のすべてが、その一言に込められている気がした。
「明日も、練習しよ?」
ころりんの声が、夕焼けのなかに響いた。
「うん。俺──もっと、感じたい。
この世界を。
命を。
うんちを──」
──そうして、ヒロヒロの“うんち修行”が、幕を開けた。
ころりんの元気な声が、朝の森に響く。
草木の間を小さな風が抜け、土に落ちる朝露が光を受けて煌めいていた。
虫たちが目覚め、翅を震わせ、そして──今日も、誰かがうんちを転がし始める。
ここは《聖糞村》から少し外れた訓練場。
土の柔らかさと傾斜のバランスがよく、初心者でも安全に転がしを学べるフン界公認の“練習スポット”だった。
◆
「“基本姿勢”? なんか、体育の授業みたいだな……」
ヒロヒロは、指示された位置に立ち、前脚を軽く曲げる。
「そう。で、後ろ脚はフンの下に添えて……あ、そうじゃない。腰、ちょっと引いて!」
「え、虫の腰ってどこ!? 腰って概念、あるの!?」
「あるよ! 虫なめんな!」
ころりんが本気で怒ると、意外と迫力があった。
「じゃあ、フンを少し転がしてみようか。今の姿勢のまま、力をかけずに……」
「え、力入れないの? 転がすのに?」
「ちがうの。フンは“押す”んじゃない、“誘う”の!」
「……誘う?」
ころりんは、まるでダンスを踊るような優雅な動きで、自分の小さなフン球に脚を添えた。
すると──ふわりと浮いたように、フンがくるりと回転する。
「回そうとしない。“感じて”」
「完全に武術の達人が言うセリフなんだけど……」
「“回すより、感じろ!”っていうの、これフン界の格言なんだよ!」
ころりんのフンが、軽やかに舞う。
まるで空気と踊るように、土を撫でるように。
「すげぇ……」
「うんちってね、ひとつひとつに“個性”があるの。
硬さ、重さ、湿り気、繊維の入り方、温度……それを感じながら転がすのが、聖糞虫の技なんだよ」
「……まるで……小説だ……」
思わず呟いた。
構成、文体、キャラの性格、プロット──それらを“感じながら”書く。
無理に動かすんじゃない。
動きたい方向に導いていく。
──それは、まさしく“転がし”だった。
「よし、じゃあ次。実践いこっか!」
「うおっ、実践!?」
「《三種のフン訓練》、はじめるよっ!」
ころりんが、地面の上に三つの球体を転がして並べた。
いずれも直径20センチほどのフン球。
でも、その質感と香りはまるで違っていた。
「左が《ヤギ系》。中が《ウサギ系》。右が《ヒト型調合》──」
「まってヒト型!?!?!?」
「だいじょうぶ! フレーバーだけだから! 実際のヒトフンじゃないから!」
「ホッとしたけど、なんか嫌だ!!」
ころりんは無邪気に笑う。
だがその目は、真剣だった。
「一番転がしやすいのは、ヤギ系。粒子が細かくて均等。
ウサギ系は跳ねやすくて初心者泣かせ。
ヒト型は……個性が強すぎて、正直、初心者には“香りでやられる”よ!」
「罠じゃねぇか!!」
「でも、挑戦したい気持ち、あるでしょ?」
ころりんの言葉に、ヒロヒロは苦笑した。
「……ある。転がしてみたいって思っちゃってる自分がいるのが怖い……」
「よし! それが“フン力の芽”ってやつ!」
まずはヤギフン。
土に適度に沈み込む柔らかさ、香ばしい牧草の香り。
転がすと、スルスルと動いた。
「おぉぉぉ……! これ、転がるぅ……!」
「うんうん、いい感じ!」
次にウサギ系。
丸くて軽いが、跳ねる。地形の凹凸にめっぽう弱い。
「うわあああっ! 跳ねた! 跳ねたぁっ!? なんで跳ねるの!?」
「ほら! 角度っ! 体重かけすぎないで!」
「ダメだあああああ!」
最後に──ヒト型。
「……ころりん、香り、ちょっと……強くない?」
「うん……でも、それがいいって虫も多いんだよ。“記憶が深い”って」
ヒロヒロは、そっと脚を添えた。
それだけで──脳裏に、“誰かの暮らし”が流れ込んできた。
パンの香り。
コーヒーの渋さ。
フローラルな柔軟剤。
寝不足。
不安。
でも、たまに笑う子どもの声。
「……これ……人間の……」
「うん。“人間の命のかけら”が、そこにある」
ヒロヒロの脚が、震えた。
「すごいな……うんちって、こんなに、誰かを語れるんだな……」
「でしょ? あたしたち、転がしてるけど──実は、読んでるんだよ。命を」
「……俺も、読んでたんだ。ずっと。
誰かの気持ち、誰かの本音、物語の中に込められた“言葉にならない想い”を──
ラノベって、そういうもんだと思ってた」
ころりんが、にこっと笑った。
「だったらきっと、ヒロヒロは、すっごいうんち転がしになるよ」
その言葉が、胸に沁みた。
日が暮れ始めた頃。
ヒロヒロは、地面に寝転がって、空を見上げていた。
疲れた。
でも、清々しい。
「なぁ、ころりん」
「なに?」
「うんちってさ……」
「うんちって?」
「……尊いな」
「ふふっ、わかってきたじゃん」
うんちは、命だった。
それを転がすことは、誰かの人生を受け止めること。
それを導くことは、命の続きを描くこと。
「回すより、感じろ」
この世界のすべてが、その一言に込められている気がした。
「明日も、練習しよ?」
ころりんの声が、夕焼けのなかに響いた。
「うん。俺──もっと、感じたい。
この世界を。
命を。
うんちを──」
──そうして、ヒロヒロの“うんち修行”が、幕を開けた。
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