『下血により死んだライトノベル作家・常陸之介寛浩は転生するとフンコロガシになっていた件』》

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第2章『うんちコンテスト!』

第12話『ライバルはクサすぎる』

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 ──そのフンは、ひと嗅ぎで、周囲十メートルの虫たちを黙らせた。

「……くっ、こ、これは……っ!」

「鼻……鼻がっ……! っていうか触角だけど……!」

「ク、クサァァァァ……!!」

 転がし広場の中心に置かれた、それは──
 まぎれもなく“フン”だった。
 だが、“ただのフン”ではなかった。

 直径30センチ。
 ほのかに蒸気をまとい、黒曜石のような深い艶。
 周囲の空気が歪み、まるで重力を持つかのような存在感。

 《黒熟魔球・終末熟成型(コードネーム:デスうんち)》

 そしてそのフンの傍らに、そいつは立っていた。

 

「……ふん、今年も……始まったか。愚かなる虫どもよ──」

 

 体高12センチ超の大型フンコロガシ。
 全身黒光りの甲殻。角の先まで完璧な研磨処理。
 そしてなにより、“香りの圧”が異常だった。

 周囲の虫たちはすでに数匹、スメルショックで気絶していた。

「ま、また出たぞ……!」

「五年連続優勝……“転がしの王”……!」

「“圧倒的臭気(プレッシャー)”──その名は……!」

 

「名乗るまでもないが……覚えておくがいい。
 我が名は……クサ丸」

 

 ◆

 その異様な登場に、当然ヒロヒロたちも反応していた。

「こ、これが……クサ丸……!」

「ヒロヒロ、目を合わせないでっ! 匂いでやられる!」

「って、もう遅い! 鼻が……鼻がバグる……!!」

 ころりんが慌ててハッカ葉の香り袋を取り出してヒロヒロの顔に押し当てた。
 一瞬、視界が回復する。

「はぁ……はぁ……これが“香気部門最強”ってやつか……!」

「しかもあの人、見た目通りの実力なの。転がしも造形も、全部“プロ級”。
 しかもフンの原料、どうやって手に入れてるのか誰も知らないのよ……」

「まさか、幻の“ラーテル糞”じゃ……!?」

「それ絶滅種だよ!? やばいやつだよ!?」

 ころりんの声が震えている。
 フン界の歴史において、ラーテルのフンは“最も危険で、最も神に近い”とされた伝説の糞。
 それに似た芳香を放つ時点で、クサ丸の異常性は明らかだった。

 

 ◆

 そんななか、クサ丸がふとこちらに視線を向けた。

「……ふむ? 見ぬ顔だな。見習いか?」

 ヒロヒロが一歩前に出る。
 匂いにめげず、意識をしっかりと前に向けて──

「……いえ、出場者です。ヒロヒロっていいます。聖糞村の、転がし手です」

 クサ丸の目が細くなる。

「……“ヒロヒロ”……貴様か。
 聞いているぞ。“光るフン”を転がしたという、“人間崩れ”が」

「崩れてないです! 虫として再構築されただけです!」

「──我が鼻に、嘘は通じん。
 この世界において、“輝くフン”は、“神に選ばれし者”にしか転がせぬ」

「それ、俺、たまたま拾っただけだったんですけど──」

「黙れ。お前の存在、鼻につく。
 今大会、貴様は我が“臭圧”に沈む。せいぜい楽しむがいい」

 そして、彼は去っていった。
 残されたのは、残り香。
 ──強烈な、残り香。

「うっ……これは……ダメだ……」

「ヒロヒロぉぉぉぉぉ!!」

 ヒロヒロ、再び倒れる。

 その夜、ころりんが焚いたミント湯でようやく意識を取り戻したヒロヒロは、ぼそりと呟いた。

「……勝ちたいな」

「……え?」

「勝ちたい。あのクサ丸に。“命”の重さで、勝ちたい。
 俺は、“きれいなフン”じゃない。
 だけど、“誰かの記憶”を、一番転がせるのは──俺だ」

 ころりんが、ゆっくり頷いた。

「うん。あたし、香りの調合、全力でやる。
 一緒に、いこう。“命が光るうんち”で──勝負しよう」

 ヒロヒロところりんの手が、そっと“勝負フン球”に重なる。

 

 ──勝負は、明日。
 命を懸けた、うんちの戦いが始まる。
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