1 / 88

【プロローグ】 ──青春ラブコメが書けない理由(わけ)──

しおりを挟む
  「萌えって……なんなんだろうな……」   夜の勉強机に肘をつきながら、俺はそっと溜息を吐いた。
 画面に映るのは、真っ白なワード文書と、点滅するカーソルだけ。
 何度目になるのかもわからない。
 毎晩、俺はここで立ち尽くしている。いや、正確には座り尽くしている。
 目の前にはノートパソコン。脳内には、何十人ものヒロイン候補たちが駆け巡る。
 ツンデレ、ヤンデレ、無表情系、ギャル、妹、くのいち、お嬢様、転校生、VTuber。
 だが、キーボードに手を置いた途端──すべてが、消えるのだ。   俺の名前は、久慈川幸喜(くじかわこうき)。
 高校二年生。そして──
 現役書籍化作家だ。   書籍化したのは異世界転移戦国歴史改変ファンタジー『関ヶ原から始める伊達政宗との天下統一』。
 ありがたいことに三巻まで重版がかかり、少しだけ“プロ”としての自覚が芽生え始めた頃だった。
  ──にもかかわらず。
 俺は今、青春ラブコメの一行すら書けずにいた。
  「読んでるラノベは全部、ラブコメなのにな……」   皮肉だ。
 俺は“萌え”が好きで、“青春”に憧れて、ラブコメを書こうとしてるのに、
 なぜか出てくるのは、火縄銃と甲冑と戦国武将たちの熱い魂ばかり。
 そんな自分に、俺は絶望しかけていた。

 

    ***

  「先生。……また神棚に柏手打ってたでしょ?」   呆れたような、でも慣れた声が俺の部屋の引き戸の向こうから聞こえてくる。
 言うまでもない。
 この声の主は──

「歩美。俺は本気なんだよ……“萌え”ってやつに。頼むから、真剣に祈る男を笑わないでくれ」

「いや、笑うでしょ普通。何あれ?“萌え萌えキュンキュンヒロインを我が前に降臨せしめ給え”って……神様も困惑してるよ」

 振り返ると、家事エプロンをつけた幼なじみ──袋田歩美が眉を寄せて俺を見ていた。
 この家に住んでいるのは俺と妹だけだが、隣に住む彼女は“ほぼ家族”だ。
 いや、正確には──
 《俺の青春ラブコメを書けなくしている最大の原因》と言ってもいい。

「先生、じゃなかった……幸喜。あなた、自分の周囲を見てごらん?」

「周囲?」

「この作品のどこに“恋の芽”が生える余地があるのよ」

「……戦国時代には側室文化があったから?」

「現代の話をしろ!!」

 怒鳴りながら歩美は台所へと去っていった。
 鍋からは、グツグツと音を立てて鮟鱇が煮えている。
 今夜は──俺の希望で鮟鱇鍋。
 茨城の冬のソウルフードだ。これを食べないと小説の筆が乗らない。

 だが──俺は知っている。

 歩美は、俺がラブコメを書けない理由を、本当は知っている。

 それは──
 彼女自身が、俺の「理想のヒロイン」に近すぎるからだ。

 だから俺は、筆が止まる。 だから俺は、物語の中で誰とも恋をさせられない。 誰が彼女を超えるんだ? 誰が歩美の強さと優しさを越えられるんだ?
 そんなヒロインを“創作”できるわけがない。

 ──だったら。
 この現実がラブコメになればいいのに。

 

    ***

  俺の部屋の本棚には、三段すべてを埋め尽くす“萌えフィギュア”たちが並ぶ。
 タペストリーには、**お気に入りVTuber†黒薔薇ノ戦姫ちゃん†**のセリフがプリントされている。
 毎晩、夢の中では彼女と告白イベントをしている。
 でも、現実は。

 現実は俺の目の前で、エプロン姿の歩美が言うのだ。

「ねぇ……恋って、そんなに難しいの?」

 

 彼女の何気ないその言葉が、俺の脳と心をぐちゃぐちゃにかき乱す。

 

 ……だから、俺は決めた。

 この茨城県北の田舎町で──
 この、鮟鱇の香りが似合う場所で──
 青春ラブコメを、リアルでやってみようって。

 

 物語の舞台はここだ。
 “萌えの聖地”じゃない、秋葉原でも池袋でもない。
 茨城県で──
 俺は青春ラブコメを書く!

 いや、
 “体験”してみせる──この身を賭して!!

 

 神様、見ていてくれ──
 “萌え萌えキュンキュン”は、ここから始まる。

 青春と、ラブコメと、鮟鱇鍋の物語が──!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...