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第二章『アニメ化騒動編』

第27話 『推し声優にバレた瞬間』

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 ──その一言が、すべての均衡を崩した。

 

 場所は某アニメ制作会社の音響スタジオ、打ち合わせブース。
 収録予定日を前にして、関係者と仮読み合わせを行うという場に、俺は立ち会っていた。

 

 俺、久慈川幸喜。
 ラノベ作家。
 そして──九条ことねのガチファン。

 

 そう、今日この場に、来てしまったのだ。

 

 “推し”が。

 

 ──九条ことね。
 透明感あるボイスと、包み込むような優しさ。
 多くの深夜アニメでヒロインを演じてきたカリスマ声優。

 そして、今作──
 俺のラノベ『俺はプロラノベ作家なのに、青春ラブコメの中にいた』のメインヒロイン役に抜擢された彼女が。

 今──目の前にいる。

 

 しかも、俺に向かって──

 

「原作、読みましたよ。すごく素敵です」

 

 ──と、満面の笑みで言った。

 

 

 ***

 

 時が止まる。

 正確に言えば、俺以外の全ヒロインの動きが止まった。

 

 背後に控えていたのは、いつものメンバー:

 ・袋田歩美(幼なじみ)
 ・舞香・A・C・リーヴス・天城(転校生)
 ・磐城玲奈(図書委員)
 ・久慈川幸香(妹)

 

 全員、笑っていた。

 ……が、目が笑っていなかった。

 

 ことね「ラノベって、こんなにリアルで、感情が生々しくて……すごくドキッとしました。まるで本当に隣にいるみたいなヒロインたちで……」

 

 歩美「──へぇ」
 舞香「“本当に隣に”……いるみたい、ですか」
 玲奈「“リアル”……ですね」
 幸香「“まるで”じゃなくて、“本物”なんだけどね♥」

 

 ことね「あっ……皆さんは?」

 渋谷「原作者のご友人、いわば……モデルの皆さんですね」

 

 ことね「っ!? あっ、あの、あれは……あくまで創作で……」

 

 俺「やめてええええええ!!! そこ深掘りしないでえええ!!!」

 

 ──だが、止まらなかった。

 ヒロインたちは、“あくまで穏やかに”進行した。

 

 歩美「ちなみに、どのキャラが一番“好き”なんですか?」

 舞香「演じていて“感情移入しやすい”キャラとか」

 玲奈「“私”と“ヒロイン”の違いって、ありますか?」

 幸香「私、演技指導できるよ♥ 本物だから♥」

 全員「だから黙れ地雷!!!」

 

 

 ***

 

 その後の打ち合わせは、完全に“尋問”だった。

 ことねは、声優スマイルを崩さず、ひたすら対応し続けた。
 しかしその背中には、どこか冷や汗のオーラが浮かんでいた。

 

 監督(小声)「……あれ、女子4人って、リアルにモデルいたの?」

 P(小声)「マジだったんだな……今、ことねさん、ちょっと泣きそうだぞ」

 音響「録音じゃなくて、放送できねぇこの空気」

 

 俺「……誰か俺を、音響ブースに埋めてくれ」

 

 

 ***

 

 打ち合わせ終了後、建物を出た瞬間。

 俺は無言のヒロイン4人に囲まれていた。

 ……誰も喋らない。

 だが、心の中で炎が燃えているのが分かる。

 

 歩美「……良かったね、“ことね様”に褒められて。浮かれてたしね?」

 舞香「顔、真っ赤になってたわよ。“この女”に褒められた時だけ」

 玲奈「心拍数、220でした。人間の限界を超えていました」

 幸香「……でも私のこと“匂い”で覚えてくれてるんだもんね♥」

 全員「黙れ地雷!!!(本日3回目)」

 

 俺「いや、待って!? 俺、なにも悪いことしてないじゃん!? 好きな声優さんに作品褒められたってだけでしょ!?」

 

 歩美「でもその“好き”の顔がねぇ……違ったのよ。見たことない“メスの顔”だったのよ」

 

 舞香「“よだれ”出てたわよね?」

 玲奈「目、潤んでましたよ。“推しを見たオタクの目”でした」

 幸香「“浮気未遂”で訴えられる前に、結婚しよ♥」

 全員「だーーーまーーーれーーー地雷ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」

 

 

 ***

 

 夜。

 俺は布団に横になりながら、天井を見つめた。

(推しに作品を褒められた。嬉しかった。
 でも……“命の危機”も、感じた)

 

 スマホには渋谷からのLINEが届いていた。

 渋谷「ことねさん、ヒロインたちからの圧が凄かったって笑ってた」
 渋谷「でも“こういう修羅場があるから、演技に深みが出る”ってさ」
 渋谷「やっぱ、現実が一番面白いよな」

 

「誰かもう俺の現実をアニメにしてくれ……(切実)」
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