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第三章『妹独占ルート暴走編』

第32話 『恋人です──妹、記者会見』

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 ──昼休みの教室。

 そこは、いつもならのどかで、誰かの笑い声が響いていて、
 弁当の香りが満ちていて、平和そのものだった。

 でも、今日の教室には──沈黙しかなかった。

 

 全員が、口を開けたまま、呆然と立ち尽くしていた。

 その原因はただひとつ。

 前方、教壇の前に立つ1年B組・久慈川幸香。

 俺の妹。

 そして今、全校放送もされていないのに、全校レベルで波紋を広げている女。

 

 彼女は──はっきりと言ったのだ。

 

「私……兄と恋人関係にあります♥」

 

 ……それは、
 心臓を撃ち抜く銃声のように、空気を裂いた。

 

 

 ***

 

 ──10分前。
 場所は俺の教室、2年A組。

 いつものように昼休みを迎え、俺は机で弁当を広げようとしていた。

 そのとき、ドアが開いた。

 

「やっほーお兄ちゃん♥」

 

 制服姿の妹・幸香が、両手を振りながら入ってくる。

「お、おい、なんでお前が俺のクラスに……」

 

「うふふ、大事な“発表”があってね♥」

 

 その瞬間、嫌な予感が背筋を這い上がった。

 だが、止める暇もなく──彼女は、教壇に立った。

 そして、堂々と。

 教室をぐるりと見渡しながら言い放った。

 

「みなさん、こんにちは。
 私、久慈川幸香は──兄と、恋人関係にあります♥」

 

 ──教室、凍結。

 弁当の箸が落ち、ジュースがこぼれ、携帯のシャッター音が連続で鳴った。

 どこかの女子が「ッッハ!?」と変な悲鳴を上げ、
 男子たちは「まじ?」「ガチ?」「尊い……けど犯罪スレスレ?」とザワつき始める。

 

 そして、クラスの隅。

 

 ・袋田歩美(幼なじみ)──箸を握り潰す音がした。
 ・舞香・A・C・リーヴス・天城(転校生)──紅茶の湯気が震えていた。
 ・磐城玲奈(図書委員)──眼鏡をクイッと上げ、「……審議開始」と呟いた。

 

 ──ヒロインたちが、同時に立ち上がった。

 

 

 ***

 

 教室の裏庭。
 昼休み残り5分。

 俺は、ヒロインたちに囲まれていた。

 その場には幸香もいる。

 いや、“立たされている”といった方が正確かもしれない。

 

 歩美「説明してもらおうか、幸香?」

 舞香「“兄と恋人”って、これは死刑宣告に等しいですわよ」

 玲奈「刑法では禁じられていても、ラブコメ的には許されると? その論理、論破します」

 幸香「え? だって、もうバレてるし、いっそ認めちゃったほうが楽だしぃ~♥」

 

 ──開き直ってる。

 しかも、全力で。

 

 俺「なぁ、幸香……頼む、今からでも“冗談でした”って言えないか……?」

 

 妹は、にっこりと笑った。

 そして、鞄から──何かを取り出した。

 

【婚姻届(再掲)】
 ・兄の名前入り
 ・日付は空白
 ・欄外に「♥これが運命♥」と書かれている
 ・香水の香りつき(妹ブレンド)

 

 舞香「処分するべきですね。文化的に」

 歩美「これ、燃やしていいよね?」

 玲奈「焼却炉へ」

 幸香「ちょっと!?!?大事な書類なんですけど!?!?」

 

 俺「──俺は今、本気で転校を考えてる……」

 

 

 ***

 

 放課後。
 机に伏していた俺の耳に、廊下からの会話が聞こえる。

「聞いた? 久慈川くん、妹と恋人らしいよ」
「マジで!? え、じゃあ妹エピソードってリアルだったの……?」
「……リアル妹とラブコメって、倫理観バグってるな」
「けど……それでも惹かれちゃうのが“妹萌え”ってやつなんだよ……」

 

 俺(……頼む、理解するな)

 

 その夜、俺のスマホには無数の通知が。

 #妹ルート正妻説
 #リアル妹が正義
 #久慈川兄妹尊い

 

 ──地獄は、まだ始まったばかりだった。
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