88 / 88
第八章《声優が、教室にいる日》編

第88話 『次のセリフは──私が、あなたのヒロインです』

しおりを挟む
 ──選抜戦、最終日。
 校庭の特設ステージは、朝から人だかりで騒然としていた。

 

「まさか、声優本人が“最終スピーチ”ってマジ?」
「SNSでトレンド入ってるぞ、《るりあvsリアルヒロインズ》」
「今日、何か“物語”が終わる気がする……」

 

 でも、俺──久慈川幸喜にとっては、
 ここが始まりでもある気がしていた。

 

 

 ***

 

 ステージ上。
 マイクの前に立つ、姫崎るりあ。

 制服のまま、髪を結い直し、
 今日だけは“声優”でも“ヒロイン役”でもなく、一人の女の子として、立っていた。

 

「こんにちは。姫崎るりあです」

 

 その声が響くだけで、観客は静まる。

 

「私は、今日、“最後のセリフ”を言いに来ました」

 

 そう言って、胸元から取り出したのは、アニメ版『黒薔薇ノ戦姫』第12話、最終回の台本。

 

「──これが、私が演じてきた“ヒロイン”の最後のセリフです」

 

 ページを開き、るりあは、まっすぐ俺を見つめたまま朗読する。

 

「“たとえあなたが、私を選ばなくても。
 私があなたを選んだことは、永遠だから”」

 

 一拍の間。

 

「──でも、今日は“アニメのヒロイン”としてじゃなくて、
 “久慈川幸喜くんが描く物語”のヒロインとして、言わせてください」

 

 そして、台本を閉じ、言った。

 

 

「“次のセリフ”は──私が、あなたのヒロインです」

 

 

 ***

 

 沈黙が、拍手より先に満ちた。

 舞香も、歩美も、玲奈も、黙ってそれを見守っていた。

 

 それは、“戦い”ではなくなっていた。

 もう、誰も競ってはいなかった。

 

 るりあの言葉が、あまりに真っ直ぐで、
 あまりに“声”ではなく“想い”だったから。

 

 

 ***

 

 俺は、ステージに一歩踏み出した。

 観客席のざわめきが遠のいていく。

 

 壇上で、俺はマイクも使わずに、静かに言った。

 

「……俺は、今でも“答え”を決められない」

 

「歩美も、舞香も、玲奈も。るりあも。……そして幸香も」

 

「全部が大切で、全部が“ヒロイン”で、
 でも、誰かを“選ぶ”ことが、今の俺にはまだ、怖い」

 

 るりあが、小さく俯く。

 でもそのとき、俺は言った。

 

 

「……だから、俺は、君たちと“続きを書きたい”って思ってる」

 

 

 その言葉に、舞香が目を伏せ、微笑み。
 玲奈が胸元をぎゅっと掴み。
 歩美が、涙をこらえながら笑った。

 

 そして、るりあもまた、静かに微笑み返してくれた。

 

「──それ、めっちゃラブコメ主人公のセリフじゃないですか」

 

「……うん。でも、それが俺の、“今の”答えだ」

 

 

 ***

 

 数日後。
 るりあは元の仕事スケジュールへ戻った。

 でも、学校に“たまに戻ってくる”という形で、
「物語の続きを演じること」が続いていた。

 

 俺は、ラノベの続きを書き始めた。
 タイトルは──

 

『俺はプロラノベ作家なのだが青春ラブコメが書けない』

 

 ──第2部開始、と大きく掲げて。

 

 

 ***

 

 放課後。
 教室に戻ってきた俺に、誰かが声をかける。

 

「ねえ、こうき。今日の“添い寝ローテーション”、どこまで進んだっけ?」

 

 歩美だ。

 

「兄、今日のスケジュールは“右腕:私、左腕:玲奈”です」

 

 幸香だ。

 

「“お風呂”の予約は空いてますわよ? 二人で」

 

 舞香も、笑っていた。

 

 ──そして、スマホの通知。

 

 🟦姫崎るりあ
「今日、録音あるけど、終わったら“あの続きを演じる”時間ある?」

 

 俺は、キーボードを叩きながら呟く。

 

「うん。まだまだ、俺たちのラブコメは書き終わらない」

 

 

 ──物語の“本当の最終回”なんて、まだ遠い。
 だから俺は、何度でも言う。

 

 

「次のセリフは──誰のものになるのか。
 それを決めるのは、きっと“明日”の俺だ」

 

 

 ***

 

 📚【完】
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

mr.otaku
2020.06.27 mr.otaku

最初に感じたのが『今では珍しいほどベタだ。』の一言です。
ですが、変に捻った小説が多い中、このドストレートなまでのベタさが本当に大好きです。
(何か故郷に帰ってきた様な、『うん、此れ此れ』と言いたくなる様なスッと入り込める感じがする。)

解除

あなたにおすすめの小説

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。