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第二章(第2巻分目)『戦国を歩む伊達藤次郎、春の烽火』
『夜を裂く刃、眠りを護る影』
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中村城。
令和の時代なら福島県相馬郡と言う地。宮城県に近い福島県の上のほうと言えばわかりやすいだろうか?
この新たな拠点に到着した日、私はすっかり疲れ切っていた。
秋の終わりを感じる風が、城下の木々を揺らしていた。米沢を出てからの長い道のりと、途中で見た景色の数々、そしてこの城の、まだ馴染まぬ冷たい石の感触。
そのすべてが、心身を削っていた。
夕餉の膳を前にしても箸は進まず、喜多姉様に心配され、無理矢理に三口ほど白飯を口にしてから、私はふらふらと寝所へと向かった。
「主さま、布団はあたたかくしておきましたからね~」
「ほら、伊佐、あんま布団に潜るなって!」
「だって冷えるっしょ、夜!」
黒ギャルくノ一の伊佐と小夜の明るい声が、寝所の入り口から漏れ聞こえてきたが、私にはそれに応える気力もなかった。
やわらかい布団に倒れ込むと同時に、意識は霧の中へと落ちていった。
夢の中では、どこかの海辺を歩いていた。
松川浦か、あるいは――かつて前世で見た、どこか異国の入り江かもしれない。
ざざぁ……と波の音が近くに聞こえる。
しかしそれは、次の瞬間に変わった。
――すっ。
風を切る音。
私は夢の中で、その音に違和感を覚え、反射的に目を開けた。
次の瞬間、寝所の障子が音もなく開いていた。
月明かりに浮かぶ、黒ずくめの影。
――侵入者だ。
私は声を上げようとしたが、身体はまだ眠気の呪縛に縛られていた。
影は私の布団に向かって、短刀を抜いたまま無言で迫る。
刹那、障子の外から黒い影がふたつ、矢のように飛び込んできた。
「誰に断って、うちの主の寝顔を拝んでんのよッ!」
「バ~カ♡ 忍びは忍びに始末される運命っしょ♪」
伊佐と小夜。
伊達家の秘密部隊・黒脛巾組の中でも、私に仕える双璧のくノ一である。
伊佐の手裏剣が、侵入者の短刀を弾き、小夜の刃がその首元へ迫る。
だが、相手もただの間者ではないらしい。
刃を交わし、逆に背後を取ろうとした瞬間。
伊佐の足技が閃き、膝を砕く音が聞こえた。
「がっ……!?」
呻き声を上げた侵入者の喉元に、小夜の短刀が静かに突き立てられた。
しばしの沈黙。
私は息を殺し、布団の中で見守るしかできなかった。
「主、もう大丈夫っす」
「おやすみの邪魔しちゃってゴメンねぇ~♡」
そう言って笑うふたりの影を、私はただ見つめることしかできなかった。
死に瀕した現実を、たった今、彼女たちは撥ね退けた。
「……ありがとう」
かすれた声でそう呟くと、伊佐と小夜は顔を見合わせて、にっこりと微笑んだ。
「それが、くノ一の仕事っすから」
そう答えたふたりの背は、今夜ほど頼もしく見えたことはない。
私は再び、布団の中に沈み込んだ。
だが、今度は恐れの中でではなく。
安心という名のぬくもりに包まれながら――。
外では、夜風が静かに、そして確かに吹き抜けていた。
令和の時代なら福島県相馬郡と言う地。宮城県に近い福島県の上のほうと言えばわかりやすいだろうか?
この新たな拠点に到着した日、私はすっかり疲れ切っていた。
秋の終わりを感じる風が、城下の木々を揺らしていた。米沢を出てからの長い道のりと、途中で見た景色の数々、そしてこの城の、まだ馴染まぬ冷たい石の感触。
そのすべてが、心身を削っていた。
夕餉の膳を前にしても箸は進まず、喜多姉様に心配され、無理矢理に三口ほど白飯を口にしてから、私はふらふらと寝所へと向かった。
「主さま、布団はあたたかくしておきましたからね~」
「ほら、伊佐、あんま布団に潜るなって!」
「だって冷えるっしょ、夜!」
黒ギャルくノ一の伊佐と小夜の明るい声が、寝所の入り口から漏れ聞こえてきたが、私にはそれに応える気力もなかった。
やわらかい布団に倒れ込むと同時に、意識は霧の中へと落ちていった。
夢の中では、どこかの海辺を歩いていた。
松川浦か、あるいは――かつて前世で見た、どこか異国の入り江かもしれない。
ざざぁ……と波の音が近くに聞こえる。
しかしそれは、次の瞬間に変わった。
――すっ。
風を切る音。
私は夢の中で、その音に違和感を覚え、反射的に目を開けた。
次の瞬間、寝所の障子が音もなく開いていた。
月明かりに浮かぶ、黒ずくめの影。
――侵入者だ。
私は声を上げようとしたが、身体はまだ眠気の呪縛に縛られていた。
影は私の布団に向かって、短刀を抜いたまま無言で迫る。
刹那、障子の外から黒い影がふたつ、矢のように飛び込んできた。
「誰に断って、うちの主の寝顔を拝んでんのよッ!」
「バ~カ♡ 忍びは忍びに始末される運命っしょ♪」
伊佐と小夜。
伊達家の秘密部隊・黒脛巾組の中でも、私に仕える双璧のくノ一である。
伊佐の手裏剣が、侵入者の短刀を弾き、小夜の刃がその首元へ迫る。
だが、相手もただの間者ではないらしい。
刃を交わし、逆に背後を取ろうとした瞬間。
伊佐の足技が閃き、膝を砕く音が聞こえた。
「がっ……!?」
呻き声を上げた侵入者の喉元に、小夜の短刀が静かに突き立てられた。
しばしの沈黙。
私は息を殺し、布団の中で見守るしかできなかった。
「主、もう大丈夫っす」
「おやすみの邪魔しちゃってゴメンねぇ~♡」
そう言って笑うふたりの影を、私はただ見つめることしかできなかった。
死に瀕した現実を、たった今、彼女たちは撥ね退けた。
「……ありがとう」
かすれた声でそう呟くと、伊佐と小夜は顔を見合わせて、にっこりと微笑んだ。
「それが、くノ一の仕事っすから」
そう答えたふたりの背は、今夜ほど頼もしく見えたことはない。
私は再び、布団の中に沈み込んだ。
だが、今度は恐れの中でではなく。
安心という名のぬくもりに包まれながら――。
外では、夜風が静かに、そして確かに吹き抜けていた。
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