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第二章
2-8 仁義礼智信厳勇は武術好きの合言葉かも
しおりを挟むライガから今回の事を聞いて以来、シャムスヌール帝国と自分の接点をずっと考えていた。
よくよく考えたら、私が実際に会った事のあるシャムスヌール帝国の人って、剣大会で出会ったコフィナさんとピーターソンさんだけなのだ。
大昔の噂話を辿って私に会いに来たというより、特定の誰かから私の話を聞き何某かの目的を持ってやって来たと考える方があり得る話だ。そして、その場合の誰かは、私を直接に見知った人間だろう。
つまり、消去法で、あの二人しか残らない。
まあ、ビー達が情報を売っている説も、なくはないけれど。
だけど、「ヌンジュラ様。コフィナさんとピーターソンさんは、あなたの配下ですか?」という私の言葉に、一瞬その瞳孔が開き、肩に力が入ったのがわかった。
彼は、驚いたのだ。
つまり、配下かどうかは別にしても、彼はコフィナとピーターソンの名前を知っているのは確かだということ。
「……いや、知らないな、そのような名は。私の配下ではない」
「そうですか。この推理は当たってると思ったんですけどね」
流石に場数を踏んだ海千山千の一筋縄ではいかない人間らしく、彼はすぐにポーカーフェイスに戻った。
(いいでしょう。この勝負、互角みたいね。でも、私も負けないわ。こっちだって、伊達に年とってないわよ)
そう考えながら、私は表情筋を最大に稼働させ、ますます素晴らしいニッコリ顔をつくる。
「はい、ではヌンジュラ様の番ですよ。質問して下さいませ」
「そうだな……。ふむ、あなたは兄の不在期間中、公爵代理として公地を治めていたと聞く。あなたにとって、公民とは何だ? どういう存在だ?」
「公民……がどういう存在か……?」
これまた予想の斜め上行く質問に、頭が真っ白になる。
公民。ナルニエント公国の、民たち。
どういう存在と言われたら……。
「公民は、そうですね。私にとって……彼らは仲間、でしょうか」
「仲間……。公民のほとんどは平民であろう? しかも、ナルニエントには、他の土地より北の民や他国の者も多く存在すると聞いている。仲間というには、身分が違い過ぎないか?」
「私はそうは思わないですね。うちの民は皆、ナルニエントを愛しています。平和で自由なナルニエントという土地を維持するという、共通の目標を持っています。身分はあまり気にならないです。そもそも、私の夫も平民ですし」
この2つ目の質問。本当は嘘と真を織りまぜた答えを言って、フワッと煙に巻くつもりでいた。
でも、公民が私にとって何かという質問を聞いて、いい加減に答えたくはないと思った。
身分を区別するのはいい。でも、同じ人間として、身分で存在の重さをはかりたくはない。
日本で40年生きてきた私には、根っからのお貴族様思考は持てないし、持ちたくない。
できる範囲で、身分の差を縮小させたいし、女性の自立と地位向上は言わずもがなだ。
「そうか、あなたにとって、身分差はさほど大きな問題ではないのだな。興味深い。ならば、あなたは何をもって、人を区分するのだ?」
「そうですね。本来であれば、次の質問で答えるところですが、おまけでちょこっとヒントを差し上げます。私が仲間に求めるのは、仁 、義 、智、 信、 勇といったところでしょうか」
「じん、ぎ……しん……? 何の呪文だ、それは?」
仁義礼智信。
孔子や孟子、武士道で知られたこの言葉。
厳勇が追加されて拳児という八極拳のマンガでも有名になったり、どれも過ぎるのはよくないと伊達政宗さんが使ってたり、八徳、十徳としてあちこちで言われたり。
個人的にも、人として在るべき姿が凝縮された濃厚なパワーワードだと思う。
ただ、これを全部きちんと身につけられる人間が、はたしてどれほど存在するのだろうか。
自分自身を振り返っても、まあ、このゴールに程遠いのはわかる。
それでも、私にはできないと自分を諦めたくはない。
そして、人と出会った時には、この仁 、義 、智、 信、 勇の5つの部分をその人がどれ位持っているのかを、無意識に見ている気がする。
他者を思いやる心。
道理、正義を貫く姿勢。
正しく判断できる力。豊富な知識と経験、広い視野と人間洞察力、それを求め続ける意志。
誠実さ。
勇気。
(あー、まー、ね。自分で出来ていない事を、他人に求めるのは厚かましいわよね。わかってる、わかってる……。私はそんなたいした人間じゃないって)
それでも、そのゴールを目指して生きていきたい。
そして、人間としての根幹をなす大事な部分であると私が考えているこの5つが、大きく欠如している人とは、仲良くなれないと思う。
やはり、ある程度の類似点がないと、親しくなるのは難しいから。
不思議そうな顔で私をみる彼を、真っすぐに見つめ返す。
ゴージャス氏は、どうだろう?
仲間になれるのかしら?
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