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第二章
2-9 モハードとの再会
しおりを挟む「それで、君とお嬢様はどの程度の仲なのだろうか? その答えにより、私の答えもかわってきますよ」
向かい合って座るモハードからの問いに、ライガはどう答えるべきか迷った。勝手に、彼女の前世の事を話してもよいのだろうか。
心を見透かすような強くまっすぐなモハードの視線に、ライガは腹に力を入れた。
この方には、ごまかしはきかない。
ライガは、覚悟を決めた。
「ジェシカお嬢様は、私にとって何よりも大切な存在です。私達は、愛し合っています」
「そんなことは、とっくにわかっていますよ。あなたは、彼女が助かるのであれば、引き換えに自らの命を差し出せますか?」
そんなことは当たり前だ。だが、いつも彼女に言われている通り、ライガはそれが出来ないことをわかっている。
「……お嬢様は、私が死んで彼女だけが生き残る事を喜ばない。私も彼女も、二人ともが生き残る道を、最後まで諦めずに探す。彼女と約束している事なので、オレはそれを違えることは出来ない」
「フム。なかなか良い答えですね。それから? 他に、彼女とあなたの絆の深さをはかるエピソードはありませんか?」
「モハード先生! オレは一刻も早く城に戻りたいのです! お嬢様をお守りせねば……」
「だからこそです、ライガ君。私にとっても、ジェシカお嬢様は大切な方だ。いい加減な対応はできないのです。あなたとお嬢さんが本当に運命共同体なのか、それとも普通の愛し合う夫婦なのかで、私の話せる内容はかわります」
モハードは口に笑みを浮かべながらも、しかしその目は鋭くライガを威圧する。
戦士とも、王族とも、一族の者とも、流れの荒くれ者とも、違う。七〇歳に手が届く、けっして若くはない年齢の筈なのに、彼の体全体から発せられる強いオーラは、近くにいる人間を圧倒する。
モハードの威に圧されながらも、ライガは引くわけにはいかないと自分を奮い立たせた。
「モハード先生。オレは、彼女を、チカという人間を愛しています。違う世界で生きていた記憶を持つ、オレの母より年上の、この国の常識にとらわれない、変わり者のお嬢様を心から大切に思っています。彼女が平民になろうと、この先何があっても、オレは彼女の側から離れない」
ライガの心からの言葉に、モハードは目を見開き、そして、笑った。
「ホ、ホホホッ……。そうですか、あなたはチカさんの事情を既に知っていましたか。なるほど、なるほど。いいでしょう。あなたと彼女は、間違いなく一蓮托生の仲のようだ」
「モハード先生、では教えて下さい。この状況からどうやって彼女を救い出せばいいのか……!」
「ライガ君、私の話を聞いたら、本当に後戻りはできないよ」
「オレにとって、重要なことは、チカと共に生きる事。その為なら、どんなことでも呑もう」
「わかりました。まずは、上田知花さんに手紙を書きましょう。なに、そう時間はかかりません。少し待って下さい。その後に、君に説明しましょう。知花さんと私の、この世界での役割について」
アーシヤがチカの能力により、城に戻ってきたあの日。ライガはチカと話をした後、ひとりナルニエント公城を後にした。
モハードの住む山奥の小屋までは、どんなに馬でとばしても丸2日かかる距離だ。
ほぼ休憩なしの強行軍でやって来たライガは、モハードが書をしたためている間に、強い眠気におそわれた。
だめだ、今眠ってはだめだ。オレは、すぐにでも、チカの元に帰らなくては……。
木の机の温もりを感じながら、ライガは睡魔に勝てず突っ伏した。モハードが手をとめ、眠りに落ちた彼に目をやる。
「ふむ。本当に、彼は知花嬢のことを大切に思っているようですね……。私も、休暇を切り上げる時がきたのでしょうか。どう思いますか、アリ?」
モハードの言葉に、部屋の端から黒猫が姿をあらわし、トンと机の上に乗った。
『あなた、さんざん長い休暇を楽しんだでしょう? そろそろ働きなさいよ』
「それは、あなたも同罪でしょう。この自然豊かな田舎暮らし最高だと、動こうとしなかったではないですか」
『ちょっと、人のせいにするのは止めてよ。私はあなたが動かないと、動けない。知ってるでしょ』
黒猫は、女性でも男性でもない、不思議な声を発し、モハードを威嚇した。
『でも、この子健気でかわいいじゃない。相手が知花ちゃんじゃなければ、記憶を消して私の伴侶にしてあげたいくらいだわ』
「そちらこそ、問題をややこしくするのは止めて下さいよ。あなたの色恋沙汰の尻ぬぐいをするのは、もうごめんですからね」
『はいはい、まあ今回は大人しくしておくわ。出発はいつ?』
「ライガ君にはこのまま睡眠をとってもらい、夕食時に話をした後、ではどうですか?」
『わかったわ。そのつもりで、準備をしておくわね。久しぶりのお出かけ、ワクワクするわ』
黒猫は楽しそうにそう言うと、机から優雅に飛び降り、ドアの隙間から外へと消えた。
モハードは、ライガの寝息を聞きながら、独り言ちた。
「まあ、上田知花さんは大人で、仕事を持っていたやり手さんだ。今回は、上手くいくと期待したいですね」
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