霊界からのお届け物

ココナッツ

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01 幼馴染は蘇る

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 僕には幼馴染がいた。

 物心付いたときから彼女はずっと近い存在だった。

「ハルくん、こっちだよー!」

 太陽のように眩しい笑顔を常に浮かべ、どこまでも活動的だった彼女。

「ハルくん、だいじょうぶ?」

 いるだけで植物のような安らぎを与えてくれる、どこまでも優しかった彼女。

「ハルくん、はいどーぞ!」

 生命の輝きともいえる暖かい心を持った、どこまでも一緒だった彼女。

 このままお互いに大きくなると思っていた。


――もうあれから五年も経ったんだね、真莉マリ

 夏の終わり、僕は懐かしい記憶に想いを馳せていた。

 気が付けば涙が零れてる。毎年そうだ。でもこればかりはどうしようもない。

 カバンから花を取り出して墓前に供える。真莉の大好きだった、黄色の太陽のような花だ。

 小さな墓の周りにもそれはたくさん咲いている。それこそ真莉の象徴だったから。太陽に向かって咲くこの花の一つ一つが、真莉の千変万化な表情のそれぞれに見える。


 急に訪れた真莉との別れは本当に唐突だった。

 あの日、ちょっと真莉の容態が悪そうだから僕は早めに家に帰った。

 自分の部屋で宿題をしてると、ふと外が騒がしいことに気付いた。大人達がドタバタしてるし、救急車のサイレンも……?

 嫌な予感が一瞬で頭の中を駆け巡り、がむしゃらに真莉の家へと向かい、そして現実を見た。

 簡単に言うなら重篤の感染症。真莉の入院は必至だった。急いで治療しても容態は一向によくなる気配を見せない。

 僕はただ真莉がもう一度目を開くのを祈っていたが…… 結局、それも叶わなかった。


 人とは残酷なもので、僕はもう真莉がいない世界に慣れてしまった。その運命を受け入れていた。

 悲しい過去は乗り越えるもの。振り返っても、もう変えることはできないから。

 でも、もし叶うのならば……

――またもう一度、姿を見たい

 そんな夢みたいな想いを抱いた瞬間ときだった。

「……ん?」

 墓石が段々と白く眩しく、光を纏い始めた。

 夏の日差しが激しく反射してるだけなのかと思っていたけど、すぐにそれがどうもおかしい事態だと気づいた。

 同時に真っ白な墓石から何かが飛び出してきた。

 掌に収まりそうなほどに小さい人型。よく見ると半透明の羽が生えていて、まるで精霊みたい。

 何事かと思ってるとその精霊はくるりと向きを変え僕と顔を合わせると言葉を発した。

「お久しぶり、ハルくん」

 その顔はよく見知ったもので、その声もよく聞きなれたもので……

「……真莉?」
「そうだよハルくん。いや、遥時ハルトキくん」

 明らかに大きさが違うのに、纏う雰囲気を含めて全てが懐かしい。それは紛れもなく数年前に失ったもの。

 目の前で自分のことをそう語る少女、真莉のものだった。

 信じられない光景が広がっている。ありえないと思うがそうであってほしいという矛盾。頭の処理が追い付かずに混乱してしまう。

 そんな様子に真莉はくすりと微笑んで言葉を続けた。

「私、こうして蘇ったよ。……いや蘇ったというのは間違いかな。霊体のままだけど帰ってきたよ」

 これは夢なのかな。悲しみと理想が呼び起こした幻覚なのかな。だってこんなことありえない。

 触れるのかな、と手を伸ばしてみると真莉も手を伸ばす。そして僕の指先に真莉の手が触れる感覚をちゃんと捉えた。

「精霊なのに、触れれるんだな」
「うん。あくまで感覚だけだけどね。残念だけど質量はないみたいで、大体のものは透過してしまうらしいけど」

 そう言ってすーっと移動する真莉は、目の前の墓石を確かにすり抜けた。

「見ての通りだよ。でも確かに私はハルくんと会話ができる。意思疎通ができるんだ」
「信じられないけど…… 本当にこれが現実なのかなって」
「そりゃそうだよね。私だって信じられない」

 でもね、と目線をしっかり合わせて真莉は言った。

「ハルくんにこれ以上悲しんで泣いてほしく無かったから。神様が叶えてくれたんだよ」

 夢物語のようなのにそれが真実と感じさせるような強い語調。普通なら御伽噺だと笑って言い捨てるのを、僕はそうすることができなかった。

 同時にこのありえない出来事を現実だと思い始めていた。

「真莉……だよな?」
「もう、何回その質問するの? 伊藤 真莉です。椎名 遥時の幼馴染の」

 度重なる確認しさすがに真莉は呆れたように苦笑いしながら返す。その反応も記憶とピッタリ重なる。

 懐かしい、何もかもが。僕は無意識に涙を流していたらしい。

「泣かないでほしいから戻ってきたのに、泣かれたら本末転倒でしょ。ほら泣かないで」
「うぐ……なんとも面目ない」

 それでも無茶を言うなというべきだ。半ば真莉を睨むと彼女は笑いながら頭を撫でてくる。まるでそよ風のように優しい手つきで。

 しばらくそうしていたら気持ちが落ち着き、すっかり真莉がいる現実を受け入れていた。

「それでどうするの? この後。まさか真莉の姿を他の人に見せるわけにもいかないし」
「あーそれなんだけど…… 私の姿はおそらくハルくん以外には見えないから大丈夫だよ。会話も言葉に出さなくたって念じればできるはず。神様はそう言ってた」

 その神様かどうか知らないが有能だな。ちゃんと後先を考えている。確信に欠けているところが怖いけど。

 万が一は何にだってある。真莉もそれを考えているらしい。

「でも極力見られないに越したことはないよね。だってハルくんの家族・・と会うわけだから。そうだハルくんの……」
「ち、ちょっと待って。なんで僕の家に来ること前提なの」
「だってそれ以外にどこに行くの? 私の居場所はハルくんの近くくらいでしょ」
「むぐっ、それもそうだけど」

 かと言ってプライベート空間に侵入していいかどうかは別問題。特にそれが異性ならばだ。

 もうあの頃の自分達じゃない。お互いそういうのは気にする身。それなのに簡単に自室に入れるというのは抵抗があるわけで。
 
「ハルくん……私達、幼馴染だよね」
「それとこれに何の関係が?」
「幼馴染の間に秘密事はしてはいけない」
「それは酷すぎないか!?」

 無茶苦茶だ、と叫べばあらゆる言葉を並べて意見を通そうとする真莉。お互いに大事なものを賭けている。

「もうっ、だったら私も強硬手段に出る」

 そういうと真莉は、僕の羽織ってた上着の内ポケットに入り込んだ。

「ここで籠城する。意見は貫かせてもらうもん」
「真莉はすり抜けられるから無意味だと思うけど……」
「そういう屁理屈言わない! すると言ったらするの!」
「ひーっ 理不尽だーっ」

 自分の家の場所は知られてるし、鍵をかけても物体をすり抜けることができる。その上に羽で飛行も可能という最早無敵。

 そんな真莉の強硬手段に叶うはずもなく……

「あーもう、分かったよ……」

 仕方なく屈してしまった。


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