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02 幼馴染といつもの朝
しおりを挟む――起きて、ねえ起きて!
意識の外から聞き覚えのある声が聞こえる。
暗い水底に沈んでいたような感覚が一気に明らかになっていく。声のする方向に意識が導かれる。
その先に明るい場所が。そこには小さな精霊が羽をパタパタと動かして飛んでいた。
あぁ、そうか。そういうことなんだな。
ゆっくりと重い瞼を上げて僕は呟いた。
「知らない天井だ」
「見知ってるでしょ!」
思いっきりツッコミを入れられ、正気に戻ってやっと理解した。
「なんだ真莉か……」
「なんだじゃないでしょ。寝ぼけてないで早く起きて」
「あーちょっと待って……昨日の出来事を思い出すから」
そういえば昨日、真莉が蘇って自分に付いてくるとかという奇妙奇天烈なことが起こったような……
特に言って何も無かった。家族に紹介するわけでもないし、そもそも見えないのだから。真莉は外に出かけて自分が認知されないことを確かめてた。
その後真莉は自室にいてずっと本を読んでいた。本を捲ることくらいは何とかできるらしい。これで一カ月くらいは持つだろう。
そして真莉は精霊ということで眠気は感じないらしい。でもスリープモードというべきか、疑似的に寝ることは可能らしいので問題では無かった。
ついでにモーニングコールを任せて、今に至るというわけだが。
「いかんせん、慣れないと困惑する日々が続くなー……」
「そのうち慣れるから大丈夫」
「慣れたらそれはそれでマズいかも」
今こうして真莉と話してるのも、他の人にとっては”無”と喋ってるように見える。それは常に注意しなければいけないことだ。
今はその緊張感があるが、それがやがて薄れるといつかボロが出かねない。それだけは避けないと、面倒なことになるだろうし。
それもさることながら早く準備をしなければ。着替えは後でするので寝間着のままリビングへと降りた。
◇◆
月曜日の学校はとても憂鬱だ。坂の上にある高校が地獄の峠に思える。
自転車がとても重い。向かい風かつ急傾斜というデスコンボを食らってるよう。
「ほえー、こんなに街並み変わったんだね」
「お前は気楽で良いよな」
そんな内心は露知らず、真莉は周囲の風景に見惚れていた。それもしっかり自転車に並走して飛んでいる。疲れ知らずでかなりのスピードで飛べるとは羨ましい限りだ。
溜息を一つ吐き、ギアを変えてペダルに力を込める。坂もあと一息、一気に駆け上がってしまおう。
「ハルくんも制服似合ってるよ」
「それついさっき着替えた後に聞いた」
ちなみにこの会話は言葉に発していない。念話というべきものだ。言葉に出さずに伝えたいことだけを念じるというのは中々に難しい。ふと口に出てしまったのを聞かれてないか、と心配になる。
真莉はそれがデフォルトだから一切苦に思ってないようだが。……あれ、真莉ってチートじゃね。
そんなことを思ってるうちにようやく校内へ。指定の置き場に自転車を置いてスマホを使う。
時間をある程度潰していると、肩をポンっと叩きながら挨拶をかます男子生徒が一人。
「おうハル、お久しぶりだな」
「おうおひさー」
その行動だけで主は分かるので振り返りもせずに返事をする。
「ハルくん、この人は誰?」
「えーとこいつはな、神崎 蓮って言う僕のクラスメイトだ」
真莉の質問には念話で。特に多くを語る必要もない。気の知れた仲だということは一目瞭然だろうし。
真莉はふーんと小さく呟き、蓮のことをじろじろと見る。かなり失礼だな。真莉の姿が見えていないのが幸いだ。
校舎へ歩きながらふと蓮が言う。
「それにしても二学期は行事が少なくて面白くないなー」
「だなー。とはいっても、研修合宿くらいはあるけどね」
僕の学校では三年生に対する配慮なのか文化祭も体育祭も一学期にある。そのため本来なら密度の濃いはずの二学期が一番行事の少ないのんびりな学期になる。
その代わりなのか研修合宿というのが存在するのだが、今はまだ関係ないお話だ。
「そういえば週末課題終わってるか?」
「小学生かよ。そんなの自己責任に決まってるだろ」
「そんで結局ハルは?」
「……別にご期待には沿うつもりはないぞ」
蓮がどんな期待をしてるかは知らないが。普通なら「課題見せて下さいお願いします」の遠回しな言い方なのかもだけど、蓮に限ってそれはない。「課題終わってないのか?」という期待だとしても生憎僕は終わらせている。
「全く、つまらないやつだなー」
別に普通だと思うけどな。ませているわけでもないと思う。
下駄箱、廊下と通り一年一組の教室へ。扉を開けると多くの人が手を振り挨拶をする。
「おおー、ハルくん人気者」
「……いや違うから。よく見てみろ」
感動と驚きの声を上げる真莉に僕は遠い目をしながら指摘した。
周りのクラスメイトの視線はただ一人、蓮へと向けられていた。対して注目を浴びてる蓮は爽やかな笑顔と挨拶で返す。
「あー…… さっきからやたらと周りの視線がこっち向いてるなー、と思ったら」
「蓮は好評嘖々なやつだ。成績優秀、容姿端麗、才徳兼備…… 褒め言葉は数多にある」
天は蓮の上に人を作らず、と言われるほどの人格者であり神の祝福を授かってるのでは、とも生徒の間で囁かれてる。そしてそれが過大評価と言い切れない。
「ただ、ある欠点を除けばな……」
それが神崎 蓮という人物だ。それこそ僕とは、本来ならば一生涯無縁であっただろう存在。
「そんな人を親友に持つハルくんも大概だね」
「まあ…… 色々あったんよ」
たびたび疲れることもあるが、蓮と親友になったことを後悔するつもりはない。
アイドルのように囲まれてワイワイしてる蓮はさておいて僕は自分の席に向かう。鞄から荷物を取り出して無造作に机に詰めていく。
「……おはよう、椎名くん」
そこに丁度やって来た隣の席の女子が挨拶をしてきた。その顔と声を見て真莉が目を丸くする。
「えっ、紗楽ちゃん!?」
「おはよう白鳥さん」(そうだよ、白鳥 紗楽。小学校からずっと同じだ)
「わー、紗楽ちゃんだー! ってそうだ、話しても気づかないんだった」
歓喜し、またしょぼーんとする真莉。なにせ彼女は真莉の昔の友達こと白鳥 紗楽なのだから。
自分も真莉を通じて知り合い、昔から話す仲だ。今は席が隣なので話す頻度は増えてる。
「そうそう、これ。面白かった」
「ああ、ありがとう」
白鳥さんは鞄から本を取り出して僕に渡す。その表紙を見て真莉は呟いた。
「ふーん、紗楽ちゃんもそっちの道歩んでるんだね。ハルくんとおそろいだ」
「文句でもあるか?」
「ないよ。紗楽ちゃんが昔からゲームとか好きだったの知ってるし。それに私も抵抗ないから」
世の中ではサブカルチャーと呼ばれる類の書物。やはり真莉にも抵抗はあるのかな、と心配したけど杞憂だったみたい。そういえばそうだな。昨日、僕の本棚を見てるわけだし。
「……椎名くん、何ずっと見てるの」
そんな思考を脳内に巡らせていたところ、冷気のように凍てついた声が飛んできた。はっと我に返れば、目線の先にいた白鳥さんがジト目で睨んでいる。
「そうだよハルくん、このスケベっ」
「僕は真莉を見てただけだからな。お前が見えてないのが原因だ」
もちろん白鳥さんの顔に見惚れていたとかそんなのは無い。真横でパタパタと浮いてる真莉に視線を合わせてただけだ。
とは言え真莉は見えないわけだから誤解は必至になる。これは今後気を付けなければいけない課題だな。
「おいお前ら、席に座れー!」
そこにやって来たホームルーム担任が鶴の一声を上げる。そういえばもうそんな時間だ。
朝の雑談が終わると延々と続く授業だ。それを考えるとどうして鬱な気持ちにならざるを得なかった。
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