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第三章 一番星の光
第26話 本音とは
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家に戻ってからも、茉莉はソファに座ったまま、落ち着かない様子でこちらを見ていた。
膝の上で指を絡めたりほどいたりして、視線だけが何度も俺を追ってくる。
俺は、気持ちを落ち着かせるため、冷蔵庫を開けて一番最初に目に入ったお茶をごくごくと飲んだ。
さっきまでの泣き顔が、まだ脳裏にこびりついて離れない。
あんな風に取り乱す茉莉を見るのは初めてのことだった。
まだ元彼は茉莉にとって、それほど大きな存在なんだと、しょうもないことにもイライラする。
……ああ、もう。
俺はいつから、こんなふうに感情に振り回されるようになったんだ。
茉莉が、京介という元彼とのことで苦しんでいるのは、始めから知っていた。
だからこそ、二股だなんだという噂が会社で流れたときも、そんな馬鹿な話があるか、と一蹴できたはずだった。
信じていなかったわけじゃない。
それは、間違いない。
——ただ、どうして、俺に言わなかった。
会社にまで嫌がらせをされるまで、そんな風に拗れるまで、どうして。
彼女が相談せず、ひとりで抱え込んでいたことが、じわじわと腹の底を煮え立たせる。
お茶を冷蔵庫に戻し、バタンと扉を閉める。
その音に、茉莉の肩が小さく揺れた。
会社で俺が茉莉にかけた言葉は正しかっただろうか。
自分の苛立ちがどこかに滲んで、彼女を傷つける言葉を使っていなかっただろうか。
相手を目の前にした時にまで、感情が言うことを聞かなくなったのは初めてだった。
特別なものを作らないと決めて、都合のいい優しさで距離を保ってきた俺には、本来ならありえないことのはずなのに。
泣きそうな顔で、何度もこちらに目を向けて言葉を迷う彼女を見る。
もう、認めざるを得ない。
俺は、茉莉に、自分でも思っていた以上に、深く惹かれてしまっているのだ。
_/_/_/_/_/_/
「柊真さん……?」
茉莉の小さな声に、ハッとする。
見ると、不安そうな瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。
「……ごめん、少し考え事してた」
頭をかきながら苦笑すると、茉莉は首を振った。
「あ、あの……今日も助けてくれて、本当にありがとうございました。ご迷惑、おかけして……」
「いや、俺こそ……」
ゴチャゴチャ考えていても仕方ない。
とりあえず今すべきことは、俺のミスを彼女に謝ることだ。
「……言葉を間違えたかもしれないと思ってたんだ」
「間違い、ですか?」
茉莉の声が、少し震えた。
俺は息を吸ってから、ゆっくり言葉を選ぶ。
「今日、会社でごめん。冷たい言い方をしたと思う。噂を聞いて、絶対に元彼が関わってると思って、相談してくれなかったことが、悔しかったんだ」
茉莉の瞳が大きく見開かれた。
「疑ってたわけじゃない。それだけは、本当に違う」
そう言い切ってから、俺は情けなく視線を落とした。
「でも……信じてないみたいに聞こえたかもしれない。辛いのは茉莉自身なのに俺の感情で申し訳ない」
沈黙が落ちる。
次の瞬間、茉莉の目に、みるみる涙が溜まった。
「……っ」
堪えきれなかったみたいに、彼女は顔を伏せる。
俺は、数時間前の自分を殴りたい衝動に駆られた。
身勝手な感情で彼女を泣かせてしまった。
彼女が座るソファにいって、そっと肩に手を置く。
傷つけた俺が抱きしめてもいいのか分からなかった。
自分のせいで悲しむ彼女を目の前にすると、こうも上手くできないのかと、自分に失望する。
腕の中で肩を上下させながら泣く彼女は、初めて家にきた時の彼女を彷彿させた。
「柊真さんにまで、疑われたら……もう、無理だって思いました……」
声が、完全に崩れる。
「信じてもらえないなら、私、もう、どこにいればいいんだろうって……」
ぽろぽろと、涙が落ちる。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「でも、違ったなら良かった。強がってごめんなさい。一人で頑張ろうってそれだけで、柊真さんに相談できてなかったから」
真っ赤な目のまま顔を上げて小さく笑った茉莉を、俺は今度こそ強く抱きしめた。
「く、苦しいです」
「ごめん、ちょっとの間だけ」
俺は、そんな顔をさせたかったわけじゃない。
相談をさせなかったのは、都合よく距離を置く俺自身にも問題があるかもしれないのに。
茉莉が、気を遣って踏み込まないでくれていることに気付いているのに。
_/_/_/_/_/_/
第26話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
※リアルタイムで追ってくださっている方、いつもありがとうございます……!
昨日出した26話と、少しお話の順序が変わっております、ご了承くださいませ。
次回もぜひよろしくお願いいたします。
膝の上で指を絡めたりほどいたりして、視線だけが何度も俺を追ってくる。
俺は、気持ちを落ち着かせるため、冷蔵庫を開けて一番最初に目に入ったお茶をごくごくと飲んだ。
さっきまでの泣き顔が、まだ脳裏にこびりついて離れない。
あんな風に取り乱す茉莉を見るのは初めてのことだった。
まだ元彼は茉莉にとって、それほど大きな存在なんだと、しょうもないことにもイライラする。
……ああ、もう。
俺はいつから、こんなふうに感情に振り回されるようになったんだ。
茉莉が、京介という元彼とのことで苦しんでいるのは、始めから知っていた。
だからこそ、二股だなんだという噂が会社で流れたときも、そんな馬鹿な話があるか、と一蹴できたはずだった。
信じていなかったわけじゃない。
それは、間違いない。
——ただ、どうして、俺に言わなかった。
会社にまで嫌がらせをされるまで、そんな風に拗れるまで、どうして。
彼女が相談せず、ひとりで抱え込んでいたことが、じわじわと腹の底を煮え立たせる。
お茶を冷蔵庫に戻し、バタンと扉を閉める。
その音に、茉莉の肩が小さく揺れた。
会社で俺が茉莉にかけた言葉は正しかっただろうか。
自分の苛立ちがどこかに滲んで、彼女を傷つける言葉を使っていなかっただろうか。
相手を目の前にした時にまで、感情が言うことを聞かなくなったのは初めてだった。
特別なものを作らないと決めて、都合のいい優しさで距離を保ってきた俺には、本来ならありえないことのはずなのに。
泣きそうな顔で、何度もこちらに目を向けて言葉を迷う彼女を見る。
もう、認めざるを得ない。
俺は、茉莉に、自分でも思っていた以上に、深く惹かれてしまっているのだ。
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「柊真さん……?」
茉莉の小さな声に、ハッとする。
見ると、不安そうな瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。
「……ごめん、少し考え事してた」
頭をかきながら苦笑すると、茉莉は首を振った。
「あ、あの……今日も助けてくれて、本当にありがとうございました。ご迷惑、おかけして……」
「いや、俺こそ……」
ゴチャゴチャ考えていても仕方ない。
とりあえず今すべきことは、俺のミスを彼女に謝ることだ。
「……言葉を間違えたかもしれないと思ってたんだ」
「間違い、ですか?」
茉莉の声が、少し震えた。
俺は息を吸ってから、ゆっくり言葉を選ぶ。
「今日、会社でごめん。冷たい言い方をしたと思う。噂を聞いて、絶対に元彼が関わってると思って、相談してくれなかったことが、悔しかったんだ」
茉莉の瞳が大きく見開かれた。
「疑ってたわけじゃない。それだけは、本当に違う」
そう言い切ってから、俺は情けなく視線を落とした。
「でも……信じてないみたいに聞こえたかもしれない。辛いのは茉莉自身なのに俺の感情で申し訳ない」
沈黙が落ちる。
次の瞬間、茉莉の目に、みるみる涙が溜まった。
「……っ」
堪えきれなかったみたいに、彼女は顔を伏せる。
俺は、数時間前の自分を殴りたい衝動に駆られた。
身勝手な感情で彼女を泣かせてしまった。
彼女が座るソファにいって、そっと肩に手を置く。
傷つけた俺が抱きしめてもいいのか分からなかった。
自分のせいで悲しむ彼女を目の前にすると、こうも上手くできないのかと、自分に失望する。
腕の中で肩を上下させながら泣く彼女は、初めて家にきた時の彼女を彷彿させた。
「柊真さんにまで、疑われたら……もう、無理だって思いました……」
声が、完全に崩れる。
「信じてもらえないなら、私、もう、どこにいればいいんだろうって……」
ぽろぽろと、涙が落ちる。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「でも、違ったなら良かった。強がってごめんなさい。一人で頑張ろうってそれだけで、柊真さんに相談できてなかったから」
真っ赤な目のまま顔を上げて小さく笑った茉莉を、俺は今度こそ強く抱きしめた。
「く、苦しいです」
「ごめん、ちょっとの間だけ」
俺は、そんな顔をさせたかったわけじゃない。
相談をさせなかったのは、都合よく距離を置く俺自身にも問題があるかもしれないのに。
茉莉が、気を遣って踏み込まないでくれていることに気付いているのに。
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第26話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
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