フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ

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第四章 支え合いの形

第47話 幸せにする

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 過去を語る柊真さんの声は淡々としていた。

 けれど、その奥には、長い時間をかけて沈殿した孤独が確かに滲んでいる。

「だから、人に任せるのは苦手なんだ」

 私はただ黙って彼の言葉を受け止めていた。

 それしかできなかったのだ。
 ずっと話してくれないなんて怒っていた自分が子供に思えて。

 気づけば、頬を涙が伝っていた。

「そんなことが……あったんですね」

 声が震える。
 何か言葉を返したくても、どんな言葉も彼の痛みを軽くできる気がしなかった。

 ただ、ひとつだけ、どうしても伝えたいと思って口をひらく。

「その辛さは私には想像もできないけど、でも」

 柊真さんは、こちらを見つめる。

「私は、絶対に柊真さんを裏切りません。これからもずっと、何があっても隣にいます。信じられなくても安心して貰えるように、努力します」

 迷いなく口にすると、柊真さんの肩がわずかに揺れた。

 驚いたようにこちらを見る彼を、私はそのまま強く抱きしめる。

「だって……柊真さんは私の命の恩人です。あのとき助けてくれなかったら、私は――」

 それ以上は言えなかった。
 溢れ出す感謝が胸いっぱいに広がって、言葉にならなかったから。

 柊真さんの瞳が静かに揺れた。

「茉莉……」

 彼が小さく私の名前を呼び、そっと頬に手を添えて涙を拭ってくれる。

「救われたのは……俺の方なんだよ」

 その一言が、私の顔を上げさせた。
 私は涙を拭われたまま、視線を逸らさずに彼の瞳を見つめる。

「俺は片桐や沙織のことがあって以来、ずっと、仕事も人生も、一人で何とかやっていけるって思ってた」

 低く、けれど確かな力を込めて、柊真さんは続ける。

 それは私に向けた告白のようでいて、同時に、長いあいだ自分自身に課してきた呪いをほどく言葉のようにも聞こえた。

「でも、茉莉と出逢って……初めて、信じたいって思ってしまったんだ」

 一瞬、言葉を探すように視線を揺らしてから、静かに息を吸う。

「俺は、簡単な仕事ひとつ任せることもできない人間だったんだ。一緒にいたいとか、手伝ってほしいなんて……思うはずがなかった」

 彼の瞳が、まっすぐに私を捉える。

「茉莉が、俺を変えてるんだ」

 その声音は、驚くほど穏やかだった。
 彼の言葉に、胸がじんと温かくなる。

「まだ、過去のことに引っかかってるし、すぐ一人で抱え込もうとする癖も直らない。そのせいで茉莉を傷つけてしまったけど」

 ぎゅっと握られた手のひらが、痛いくらいに彼の感情を伝えてくれた。

「それでも本当は、茉莉とずっと一緒にいたい。仕事での悩みも、人生の喜びも、全部。一緒に分かち合いたいと思ってる」

 静かな部屋に、その言葉だけが、確かに残った。

 ――柊真さんは、本当に、私を必要としてくれている。
 そう思った瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。

「それを聞けて、安心しました……」

 震える声でそう伝えると、柊真さんは静かに目を細め、優しく微笑んだ。

 それは、いつもの余裕のある表情とは違っていて。
 どこか肩の力が抜けたような、安堵と愛しさが滲んだ微笑みだった。

「……ありがとう。重いものを背負わせて、ごめん」
「全然です」

 私は首を横に振り、涙を拭いながら、まっすぐ彼を見つめる。

「絶対、茉莉なら大丈夫って思える未来にします。私が、柊真さんを幸せにします」

 少し強気なその言葉に、柊真さんは眉を下げて、照れたように笑った。

「はは……俺、かっこわるいなあ」

 そう言いながら、彼は私をそっと引き寄せ、耳元に唇を寄せる。

「じゃあ……期待しててもいいですか」

 低く落ち着いた声が、心の奥に染み込む。
 胸がどくんと跳ねて、息が詰まりそうになる。

「……はい」

 小さく、でもはっきりと答えた瞬間、柊真さんの手が優しく私の頬を包み込んだ。

「茉莉、ありがとう」

 ゆっくりと距離が縮まる。

 吐息が触れ合うほど近くなって、思わず目を閉じる。

 そして、彼の唇が重なった。
 それは決して軽いものではなくて。
 ただ、彼の想いがそのまま伝わってくる、深くて真剣なキスだった。

 唇が離れると、柊真さんは私の頬を撫で、目を閉じて小さく息をつく。
 そして、ゆっくりと目を開き、私を見つめたまま、ぽつりと呟く。

「……こんな可愛い彼女に思われてるなんて、幸せすぎて、やっぱ怖い」

 そう言って、彼は私をぐっと抱き寄せ、その腕の中に閉じ込める。

 柊真さんの唇が、そっと私の髪に触れた。
 その仕草があまりにも優しくて、私はもう何も言えなかった。


_/_/_/_/_/_/


第47話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!

次回もぜひよろしくお願いいたします。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

柚木ゆず
2026.02.23 柚木ゆず

本日、17話目まで拝読しました。

50000字、おめでとうございます……!
現在は12万字近くも投稿されていて、こちらの世界をまだまだ覗かせていただけること、嬉しく思っております……! 今日はまだ時間があるため、このあと2~3話お邪魔させていただきますね。

2026.02.24 春咲さゆ

柚木ゆずさん

コメントありがとうございます😊
貴重な時間を、茉莉たちの物語に使っていただき、大変嬉しい限りです🥺
引き続き、よろしくお願いいたします!

解除
柚木ゆず
2026.02.17 柚木ゆず

本日、第12話まで拝読しました。

茉莉さん、変わりましたね……!
ご本人の仰られていたように、以前なら呑まれていたはず。でも、ちゃんと、向き合うことができて。
本当に、おめでとうございます……!

2026.02.20 春咲さゆ

柚木ゆずさん

感想ありがとうございます!
茉莉の変化、見守っていただきとっても嬉しいです(˶ˊᵕˋ˵)
これから先も、まだまだいろんな出来事が茉莉や柊真に立ちはだかりますが、彼女たちの選ぶ道をぜひご覧になっていただけますと幸いです!

解除

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