48 / 48
第四章 支え合いの形
第47話 幸せにする
しおりを挟む
過去を語る柊真さんの声は淡々としていた。
けれど、その奥には、長い時間をかけて沈殿した孤独が確かに滲んでいる。
「だから、人に任せるのは苦手なんだ」
私はただ黙って彼の言葉を受け止めていた。
それしかできなかったのだ。
ずっと話してくれないなんて怒っていた自分が子供に思えて。
気づけば、頬を涙が伝っていた。
「そんなことが……あったんですね」
声が震える。
何か言葉を返したくても、どんな言葉も彼の痛みを軽くできる気がしなかった。
ただ、ひとつだけ、どうしても伝えたいと思って口をひらく。
「その辛さは私には想像もできないけど、でも」
柊真さんは、こちらを見つめる。
「私は、絶対に柊真さんを裏切りません。これからもずっと、何があっても隣にいます。信じられなくても安心して貰えるように、努力します」
迷いなく口にすると、柊真さんの肩がわずかに揺れた。
驚いたようにこちらを見る彼を、私はそのまま強く抱きしめる。
「だって……柊真さんは私の命の恩人です。あのとき助けてくれなかったら、私は――」
それ以上は言えなかった。
溢れ出す感謝が胸いっぱいに広がって、言葉にならなかったから。
柊真さんの瞳が静かに揺れた。
「茉莉……」
彼が小さく私の名前を呼び、そっと頬に手を添えて涙を拭ってくれる。
「救われたのは……俺の方なんだよ」
その一言が、私の顔を上げさせた。
私は涙を拭われたまま、視線を逸らさずに彼の瞳を見つめる。
「俺は片桐や沙織のことがあって以来、ずっと、仕事も人生も、一人で何とかやっていけるって思ってた」
低く、けれど確かな力を込めて、柊真さんは続ける。
それは私に向けた告白のようでいて、同時に、長いあいだ自分自身に課してきた呪いをほどく言葉のようにも聞こえた。
「でも、茉莉と出逢って……初めて、信じたいって思ってしまったんだ」
一瞬、言葉を探すように視線を揺らしてから、静かに息を吸う。
「俺は、簡単な仕事ひとつ任せることもできない人間だったんだ。一緒にいたいとか、手伝ってほしいなんて……思うはずがなかった」
彼の瞳が、まっすぐに私を捉える。
「茉莉が、俺を変えてるんだ」
その声音は、驚くほど穏やかだった。
彼の言葉に、胸がじんと温かくなる。
「まだ、過去のことに引っかかってるし、すぐ一人で抱え込もうとする癖も直らない。そのせいで茉莉を傷つけてしまったけど」
ぎゅっと握られた手のひらが、痛いくらいに彼の感情を伝えてくれた。
「それでも本当は、茉莉とずっと一緒にいたい。仕事での悩みも、人生の喜びも、全部。一緒に分かち合いたいと思ってる」
静かな部屋に、その言葉だけが、確かに残った。
――柊真さんは、本当に、私を必要としてくれている。
そう思った瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
「それを聞けて、安心しました……」
震える声でそう伝えると、柊真さんは静かに目を細め、優しく微笑んだ。
それは、いつもの余裕のある表情とは違っていて。
どこか肩の力が抜けたような、安堵と愛しさが滲んだ微笑みだった。
「……ありがとう。重いものを背負わせて、ごめん」
「全然です」
私は首を横に振り、涙を拭いながら、まっすぐ彼を見つめる。
「絶対、茉莉なら大丈夫って思える未来にします。私が、柊真さんを幸せにします」
少し強気なその言葉に、柊真さんは眉を下げて、照れたように笑った。
「はは……俺、かっこわるいなあ」
そう言いながら、彼は私をそっと引き寄せ、耳元に唇を寄せる。
「じゃあ……期待しててもいいですか」
低く落ち着いた声が、心の奥に染み込む。
胸がどくんと跳ねて、息が詰まりそうになる。
「……はい」
小さく、でもはっきりと答えた瞬間、柊真さんの手が優しく私の頬を包み込んだ。
「茉莉、ありがとう」
ゆっくりと距離が縮まる。
吐息が触れ合うほど近くなって、思わず目を閉じる。
そして、彼の唇が重なった。
それは決して軽いものではなくて。
ただ、彼の想いがそのまま伝わってくる、深くて真剣なキスだった。
唇が離れると、柊真さんは私の頬を撫で、目を閉じて小さく息をつく。
そして、ゆっくりと目を開き、私を見つめたまま、ぽつりと呟く。
「……こんな可愛い彼女に思われてるなんて、幸せすぎて、やっぱ怖い」
そう言って、彼は私をぐっと抱き寄せ、その腕の中に閉じ込める。
柊真さんの唇が、そっと私の髪に触れた。
その仕草があまりにも優しくて、私はもう何も言えなかった。
_/_/_/_/_/_/
第47話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
次回もぜひよろしくお願いいたします。
けれど、その奥には、長い時間をかけて沈殿した孤独が確かに滲んでいる。
「だから、人に任せるのは苦手なんだ」
私はただ黙って彼の言葉を受け止めていた。
それしかできなかったのだ。
ずっと話してくれないなんて怒っていた自分が子供に思えて。
気づけば、頬を涙が伝っていた。
「そんなことが……あったんですね」
声が震える。
何か言葉を返したくても、どんな言葉も彼の痛みを軽くできる気がしなかった。
ただ、ひとつだけ、どうしても伝えたいと思って口をひらく。
「その辛さは私には想像もできないけど、でも」
柊真さんは、こちらを見つめる。
「私は、絶対に柊真さんを裏切りません。これからもずっと、何があっても隣にいます。信じられなくても安心して貰えるように、努力します」
迷いなく口にすると、柊真さんの肩がわずかに揺れた。
驚いたようにこちらを見る彼を、私はそのまま強く抱きしめる。
「だって……柊真さんは私の命の恩人です。あのとき助けてくれなかったら、私は――」
それ以上は言えなかった。
溢れ出す感謝が胸いっぱいに広がって、言葉にならなかったから。
柊真さんの瞳が静かに揺れた。
「茉莉……」
彼が小さく私の名前を呼び、そっと頬に手を添えて涙を拭ってくれる。
「救われたのは……俺の方なんだよ」
その一言が、私の顔を上げさせた。
私は涙を拭われたまま、視線を逸らさずに彼の瞳を見つめる。
「俺は片桐や沙織のことがあって以来、ずっと、仕事も人生も、一人で何とかやっていけるって思ってた」
低く、けれど確かな力を込めて、柊真さんは続ける。
それは私に向けた告白のようでいて、同時に、長いあいだ自分自身に課してきた呪いをほどく言葉のようにも聞こえた。
「でも、茉莉と出逢って……初めて、信じたいって思ってしまったんだ」
一瞬、言葉を探すように視線を揺らしてから、静かに息を吸う。
「俺は、簡単な仕事ひとつ任せることもできない人間だったんだ。一緒にいたいとか、手伝ってほしいなんて……思うはずがなかった」
彼の瞳が、まっすぐに私を捉える。
「茉莉が、俺を変えてるんだ」
その声音は、驚くほど穏やかだった。
彼の言葉に、胸がじんと温かくなる。
「まだ、過去のことに引っかかってるし、すぐ一人で抱え込もうとする癖も直らない。そのせいで茉莉を傷つけてしまったけど」
ぎゅっと握られた手のひらが、痛いくらいに彼の感情を伝えてくれた。
「それでも本当は、茉莉とずっと一緒にいたい。仕事での悩みも、人生の喜びも、全部。一緒に分かち合いたいと思ってる」
静かな部屋に、その言葉だけが、確かに残った。
――柊真さんは、本当に、私を必要としてくれている。
そう思った瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
「それを聞けて、安心しました……」
震える声でそう伝えると、柊真さんは静かに目を細め、優しく微笑んだ。
それは、いつもの余裕のある表情とは違っていて。
どこか肩の力が抜けたような、安堵と愛しさが滲んだ微笑みだった。
「……ありがとう。重いものを背負わせて、ごめん」
「全然です」
私は首を横に振り、涙を拭いながら、まっすぐ彼を見つめる。
「絶対、茉莉なら大丈夫って思える未来にします。私が、柊真さんを幸せにします」
少し強気なその言葉に、柊真さんは眉を下げて、照れたように笑った。
「はは……俺、かっこわるいなあ」
そう言いながら、彼は私をそっと引き寄せ、耳元に唇を寄せる。
「じゃあ……期待しててもいいですか」
低く落ち着いた声が、心の奥に染み込む。
胸がどくんと跳ねて、息が詰まりそうになる。
「……はい」
小さく、でもはっきりと答えた瞬間、柊真さんの手が優しく私の頬を包み込んだ。
「茉莉、ありがとう」
ゆっくりと距離が縮まる。
吐息が触れ合うほど近くなって、思わず目を閉じる。
そして、彼の唇が重なった。
それは決して軽いものではなくて。
ただ、彼の想いがそのまま伝わってくる、深くて真剣なキスだった。
唇が離れると、柊真さんは私の頬を撫で、目を閉じて小さく息をつく。
そして、ゆっくりと目を開き、私を見つめたまま、ぽつりと呟く。
「……こんな可愛い彼女に思われてるなんて、幸せすぎて、やっぱ怖い」
そう言って、彼は私をぐっと抱き寄せ、その腕の中に閉じ込める。
柊真さんの唇が、そっと私の髪に触れた。
その仕草があまりにも優しくて、私はもう何も言えなかった。
_/_/_/_/_/_/
第47話、読んでいただきありがとうございます_(⑉• •⑉_)
気に入っていただけたら、お気に入りやエールをいただけますと励みになります!
次回もぜひよろしくお願いいたします。
2
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
偽装結婚を偽装してみた
小海音かなた
恋愛
「家借りるときさぁ、保証人が必要だと困るとき来そうで不安なんだよね」
酒の席で元後輩にそんなことをグチったら、旦那ができました――。
降って湧いたような結婚話を承諾したら、そこにはすれ違いの日々が待っていた?!
想いを寄せている相手の気持ちに確信が持てず、“偽装”を“偽装している”夫婦のモダモダ遠回り生活。
苦くてしょっぱくて甘酸っぱい、オトナ思春期ラブストーリー第2弾。
※毎日19時、20時、21時に一話ずつ公開していきます。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
本日、17話目まで拝読しました。
50000字、おめでとうございます……!
現在は12万字近くも投稿されていて、こちらの世界をまだまだ覗かせていただけること、嬉しく思っております……! 今日はまだ時間があるため、このあと2~3話お邪魔させていただきますね。
柚木ゆずさん
コメントありがとうございます😊
貴重な時間を、茉莉たちの物語に使っていただき、大変嬉しい限りです🥺
引き続き、よろしくお願いいたします!
本日、第12話まで拝読しました。
茉莉さん、変わりましたね……!
ご本人の仰られていたように、以前なら呑まれていたはず。でも、ちゃんと、向き合うことができて。
本当に、おめでとうございます……!
柚木ゆずさん
感想ありがとうございます!
茉莉の変化、見守っていただきとっても嬉しいです(˶ˊᵕˋ˵)
これから先も、まだまだいろんな出来事が茉莉や柊真に立ちはだかりますが、彼女たちの選ぶ道をぜひご覧になっていただけますと幸いです!