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9話 令嬢街に出る
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プロジェクト“かぐや姫”は滞りなく(?)終了した。
うん、皆さんご満足で帰られましたからね。
多分。きっと。おそらく。メイビー。パハップス。
ええ。皆さんにはちゃんと丁寧に、私の判断をお伝えしたので。
保留という判断を。
少なくとも私が誰かを選ぶまでは、彼らには可能性が残る。可能性が残るから私に歯向かうことはしない。万が一、私がガーヒルをぶっとばして実権を握った時に大変だからね。
これで敵は減りました。少しだけど。
だからその間に次の手を打とう。
一旦、あのクロイツェルとかいうのは忘れておきましょうか。何か狙いがあるなら、あちらから再び接触があるだろうし。
というわけで翌日。
私は初めて屋敷の外に出た。
といっても学校にじゃない。
まだ事件の余波も収まっていない状況。ガーヒルとの対立も表面化しそうなこの状況でのほほんと学校に出るのも難しい。
というより今パパが大反対だった。
「ノン! ノンだよ、エリ! も、もし今度エリに何かあれば、パパは……パパはぁぁぁぁぁぁ!!」
なんて涙ながらに喚き叫びじたばたと暴れまわる40代のオッサンに、周囲はドン引きしていた。
私? もちろんちゃんと受け止めたわ。
それだけ今パパは娘を愛しているんだということが分かったってことだから。引いたけど。
それに学校に行きたいわけじゃないしね。
聞けば私が通っていたのは、かなりの坊ちゃんお嬢様学校。国のトップの子女が通うならそれくらいは当然でしょう。
けどそういうのって、内部も普段とあまり変わらず。つまり親の権力闘争を受け継ぐ形での代理戦争になっているきらいがある。親のコネ、関係がそのまま学内での関係となり、それはマイナス方面も同様。
恨み妬みそねみ、陰口嫌がらせいじめの果てに蔑み陥れ侮蔑する。そんなドロドロとした悪意の巣窟にわざわざ飛び込む気概も勇気も今はない。経験者は語るものだ。
つまり今のカシュトルゼ家が置かれた立場だと、登校してもあまりろくなことにならないのは目に見えている。
『君子危うきに近寄らずってのは真実だよ。危険だと知って近づくのは馬鹿のすることさ。だからエリも終わった人間には近づかないこと。下手に手を差し伸べれば、そのまま引きずり込まれるのがこの世界。だからもし助けたいなら、第三者を立ててその人を援助して助けなさい。そうすれば万が一でも自分の身は安全だし、第三者にも当事者にも恩が売れて一石二鳥さ』
って前パパも言ってたしね。
そんなわけで未だ体調戻らず、という理由で私は休学ということになった。
ガーヒルをどうにかしようって時だから、私としてもそれはありがたい。
ま、その間に色々とやりたいことをやってしまおう、というわけ。
その1つがこれだ。
「お、お嬢様ー。ま、待ってくださいー」
後ろから息せく声が聞こえる。
振り返れば1人の少女が大きなカバンを持ってあくせくと走ってくるところだ。
私の専属メイド。
メイドと言えば、ザ・貴族っぽくて退廃的で「お帰りなさいませご主人様」な感じで非日常感が満載だと思う。けど選挙スタッフと言えば急に身近に感じるのだから不思議だ。え? 私だけ?
ただ今の彼女は、噂のメイド服ではなく、白のインナーにグレーを基調にしたアウターを組み合わせた目立たない恰好をしている。それは私も同じ。いつもの色彩豊かなドレスではなく、いわゆる地味系なもの、しかもこの世界は女性は腰に布を巻いただけみたいな質素で簡易的すぎる超ロングのスカートが基本で、ミニはおろかフレア系もタイトやデニムなものもない。
トップスはどこれもこれも似たり寄ったりで独創性もなく、色もやはり地味でなんとも張り合いがない。
けど今はその地味さがありがたい。
それだけ着ておけば、誰も私が貴族令嬢と言う風にはみないこと間違いないから。鏡で見たんだから間違いない。
ただどうしてもこの美しい顔からあふれ出る高貴さは隠せないから、フードをかぶることで誤魔化した。
話は戻るけど、彼女がついて来ているのは、さすがに1人でお忍びというのは危険らしく、じゃあということで彼女が護衛としてついてきてくれるという。
名前はえっと、
「アーニィ、早くしなさい」
「は、はいー、エリお嬢様」
パタパタと駆けて来るアーニィ。なんだか頼りなさそうだけどいいのかしら。
今パパと執事長が私につけてくれた専属のメイド兼護衛ということなんだけど……。護衛?
この数日、メイドとしての資質は存分に見せつけられたけど、こうして連れだって歩こうとするとなんとも頼りない。護衛って単語、意味間違ってない? なんて思う。
ま、大丈夫でしょう。
銃弾が飛び交う暗黒時代なわけないし。少しだけこの世界の市井を見てみたいだけだし。いざとなったら盾になってもらいましょうか。
「お、お嬢様。戻りましょうよ~」
「アーニィ。それよりそのお嬢様というのやめなさい。これはお忍びなのよ? つまり呼び名で一発。身バレしたら大変でしょ?」
「え、で、で、でも……それじゃあなんと呼べば」
「エリでいいでしょ」
「え、えええ……そ、そんな恐れ多い……」
「ふーん。つまりそれはあれね。主人からの命令を拒否するってことね。それって逆にメイドとしてどうなのかしら? ご主人様の言いつけは絶対。ならそのご主人様が呼び捨てにしろと言ってそうしないのは、逆に失礼なんじゃなくて?」
「あ、え、いや、えっと……」
自分の言動の矛盾にアーニィはおろおろとうろたえるばかり。
真面目なアーニィはこういう風にからかうと面白いのよ。いじめてるわけじゃないから。断じて。
「じゃ、じゃあ……え、えと、エリ様、で」
「ま、いいでしょ」
ほぅっと周囲に響きそうなほど盛大に安堵のため息を漏らすアーニィ。ふふ、可愛らしい子。
「ふむ……結構にぎわってるのね」
城下に出て一番の感想。
それなりに人通りがあって、人々の顔色も暗くはない。露店も並んで食べ歩きしている子供の姿も見える。
そこまでは前の世界と同じなんだけど、驚いたのは普通に馬とか牛が歩いていること。荷車を引いてるから、まぁつまりはこれが今で言う車になるんだろうけど、曲がり角で『ぶもっ』と突然牛が現れた時には思わず悲鳴を上げてしまった。恥ずかしかった。
そんな人々は暮らし的にもそこまで困窮していないし、別段カシュトルゼ家を悪く言うとかいう場面もないように思えた。
『一般市民が“金がない”だ“生活が苦しい”って言っている間はまだ大丈夫だよ。なぜなら文句を言える余裕があるわけだからね。本気でヤバい時は言葉も何もない。切羽詰まって追い詰められてどうしようもなくなった人間は言葉もなく絶望に身を浸すだけで、目から光が消え失せるのさ。だからそういう人を作るようなことは避けなくちゃいけない。しっかり福利厚生と物価に気を配って、税金の使い道は明確に、不平不満はなるだけ解消する。だって税金を収めてくれないとパパや琴音が食べれなくなるからね』
前パパいわく。農民は生かさず殺さずが鉄則。
そう考えると、今この城下の雰囲気は悪いものじゃないのかもしれない。
「となるとガーヒルの政策がアンチテーゼになる可能性は低いのかしら。あれが暴走して民衆を生かさず殺すことになれば足元をすくいやすかったんだけど……ちょっと方針考えなきゃいけないか。だとしたらあっちの男たちを味方につける方が……」
「エリ様?」
アーニィに呼びかけられハッとする。
「な、なに?」
「あ、いえ。何やら考え込んでおられるようでしたので。どうかしましたでしょうか?」
「あー、うん。いや、なんでもない。こうやって城下に出るの久しぶりだなって」
本当は初めてだけどね。
「そうなんですか。前もお出かけされていたと?」
「そ、それは……うん、ちいちゃいときにね」
だから知らないって。うーん、このままうだうだと聞かれるのはめんどくさいな。
「アーニィは? ここらは来るの?」
「ええ、夕飯の買い出しなど、私どもの仕事ですからよく上町には出ますよ」
「上町?」
「あ、そうです。王様のいらっしゃるお城を中心に、エリ様たち貴族様のお屋敷を中央区として、その周辺に上流階級の人たちが住むのがここ上町です。それからかなり離れた、城の外周というのが下町といって中級階級、いわば下級民が住む区画となっていまして。あ、そこは危険ですから絶対行っちゃだめですよ?」
うーん?
なるほど?
そうなるとちょっと色々話が変わってくる気がする。
今ここにいるのは上流階級の人間らしい。
貴族が上流階級って気もするけど、ニュアンスとしては王様がいて、その下に貴族。その下は全て平民とすると、その平民の中で上流階級に位置する人たちがここ上町(かみまち)で暮らしているという。
比率的に言えば、貴族が1%、上流階級が10%、残りはそれ以下ということらしい。
しかもそれはこの国都周辺に住む人たちで、少し離れれば農地を持つ農民がそれこそ平民の数倍はいるというのがこの国の実情らしい。
そう考えると、この上流階級と言われる人たちが“暗くない”レベルの顔色というのはマズいんじゃない?
そこから等級が下がるごとに、裕福の度合いは下がっていくんだから、中級階級は暗いレベル。下級となれば絶望となり、農民に至ってはもうどうにもならないレベルなんじゃないかって思う。
これは、チャンスだわ。
そう、私は間違っていた。
ガーヒルが抑圧するだろう施策。それによって一番被害を被るのは中級以下の庶民。その庶民が暗いレベルであるなら、間違いなくガーヒルの馬鹿が動けば絶望する。
そこを掬い取ってやれば……。
「よし、行きましょう」
「へ?」
「案内して、その下町ってとこ。知ってるんでしょ?」
「…………だ、だだだだだダメです! 何言ってるんですか! 今私、言いましたよね、危ないって! そ、そそそそ、それなのに、な、何考えてるんですかエリ様!」
「なんかキャラが変わったみたいになってるけど。ま、いいわ。案内してくれないなら勝手にいくから。えっと、こっちよね」
「ちょ、ダメですって! それにそっちは王都の外に出る西門です! 下町に行くのは逆です!」
「あ、そうなのね。ありがと」
「ぎゃあああ! 私の馬鹿ぁ!」
「そんなことないわよ? あなたは優秀よ」
ちょろくて。
「ほ、褒められました……って、あわわわわ! だ、ダメですったらー!! エリ様ー!!」
うん、皆さんご満足で帰られましたからね。
多分。きっと。おそらく。メイビー。パハップス。
ええ。皆さんにはちゃんと丁寧に、私の判断をお伝えしたので。
保留という判断を。
少なくとも私が誰かを選ぶまでは、彼らには可能性が残る。可能性が残るから私に歯向かうことはしない。万が一、私がガーヒルをぶっとばして実権を握った時に大変だからね。
これで敵は減りました。少しだけど。
だからその間に次の手を打とう。
一旦、あのクロイツェルとかいうのは忘れておきましょうか。何か狙いがあるなら、あちらから再び接触があるだろうし。
というわけで翌日。
私は初めて屋敷の外に出た。
といっても学校にじゃない。
まだ事件の余波も収まっていない状況。ガーヒルとの対立も表面化しそうなこの状況でのほほんと学校に出るのも難しい。
というより今パパが大反対だった。
「ノン! ノンだよ、エリ! も、もし今度エリに何かあれば、パパは……パパはぁぁぁぁぁぁ!!」
なんて涙ながらに喚き叫びじたばたと暴れまわる40代のオッサンに、周囲はドン引きしていた。
私? もちろんちゃんと受け止めたわ。
それだけ今パパは娘を愛しているんだということが分かったってことだから。引いたけど。
それに学校に行きたいわけじゃないしね。
聞けば私が通っていたのは、かなりの坊ちゃんお嬢様学校。国のトップの子女が通うならそれくらいは当然でしょう。
けどそういうのって、内部も普段とあまり変わらず。つまり親の権力闘争を受け継ぐ形での代理戦争になっているきらいがある。親のコネ、関係がそのまま学内での関係となり、それはマイナス方面も同様。
恨み妬みそねみ、陰口嫌がらせいじめの果てに蔑み陥れ侮蔑する。そんなドロドロとした悪意の巣窟にわざわざ飛び込む気概も勇気も今はない。経験者は語るものだ。
つまり今のカシュトルゼ家が置かれた立場だと、登校してもあまりろくなことにならないのは目に見えている。
『君子危うきに近寄らずってのは真実だよ。危険だと知って近づくのは馬鹿のすることさ。だからエリも終わった人間には近づかないこと。下手に手を差し伸べれば、そのまま引きずり込まれるのがこの世界。だからもし助けたいなら、第三者を立ててその人を援助して助けなさい。そうすれば万が一でも自分の身は安全だし、第三者にも当事者にも恩が売れて一石二鳥さ』
って前パパも言ってたしね。
そんなわけで未だ体調戻らず、という理由で私は休学ということになった。
ガーヒルをどうにかしようって時だから、私としてもそれはありがたい。
ま、その間に色々とやりたいことをやってしまおう、というわけ。
その1つがこれだ。
「お、お嬢様ー。ま、待ってくださいー」
後ろから息せく声が聞こえる。
振り返れば1人の少女が大きなカバンを持ってあくせくと走ってくるところだ。
私の専属メイド。
メイドと言えば、ザ・貴族っぽくて退廃的で「お帰りなさいませご主人様」な感じで非日常感が満載だと思う。けど選挙スタッフと言えば急に身近に感じるのだから不思議だ。え? 私だけ?
ただ今の彼女は、噂のメイド服ではなく、白のインナーにグレーを基調にしたアウターを組み合わせた目立たない恰好をしている。それは私も同じ。いつもの色彩豊かなドレスではなく、いわゆる地味系なもの、しかもこの世界は女性は腰に布を巻いただけみたいな質素で簡易的すぎる超ロングのスカートが基本で、ミニはおろかフレア系もタイトやデニムなものもない。
トップスはどこれもこれも似たり寄ったりで独創性もなく、色もやはり地味でなんとも張り合いがない。
けど今はその地味さがありがたい。
それだけ着ておけば、誰も私が貴族令嬢と言う風にはみないこと間違いないから。鏡で見たんだから間違いない。
ただどうしてもこの美しい顔からあふれ出る高貴さは隠せないから、フードをかぶることで誤魔化した。
話は戻るけど、彼女がついて来ているのは、さすがに1人でお忍びというのは危険らしく、じゃあということで彼女が護衛としてついてきてくれるという。
名前はえっと、
「アーニィ、早くしなさい」
「は、はいー、エリお嬢様」
パタパタと駆けて来るアーニィ。なんだか頼りなさそうだけどいいのかしら。
今パパと執事長が私につけてくれた専属のメイド兼護衛ということなんだけど……。護衛?
この数日、メイドとしての資質は存分に見せつけられたけど、こうして連れだって歩こうとするとなんとも頼りない。護衛って単語、意味間違ってない? なんて思う。
ま、大丈夫でしょう。
銃弾が飛び交う暗黒時代なわけないし。少しだけこの世界の市井を見てみたいだけだし。いざとなったら盾になってもらいましょうか。
「お、お嬢様。戻りましょうよ~」
「アーニィ。それよりそのお嬢様というのやめなさい。これはお忍びなのよ? つまり呼び名で一発。身バレしたら大変でしょ?」
「え、で、で、でも……それじゃあなんと呼べば」
「エリでいいでしょ」
「え、えええ……そ、そんな恐れ多い……」
「ふーん。つまりそれはあれね。主人からの命令を拒否するってことね。それって逆にメイドとしてどうなのかしら? ご主人様の言いつけは絶対。ならそのご主人様が呼び捨てにしろと言ってそうしないのは、逆に失礼なんじゃなくて?」
「あ、え、いや、えっと……」
自分の言動の矛盾にアーニィはおろおろとうろたえるばかり。
真面目なアーニィはこういう風にからかうと面白いのよ。いじめてるわけじゃないから。断じて。
「じゃ、じゃあ……え、えと、エリ様、で」
「ま、いいでしょ」
ほぅっと周囲に響きそうなほど盛大に安堵のため息を漏らすアーニィ。ふふ、可愛らしい子。
「ふむ……結構にぎわってるのね」
城下に出て一番の感想。
それなりに人通りがあって、人々の顔色も暗くはない。露店も並んで食べ歩きしている子供の姿も見える。
そこまでは前の世界と同じなんだけど、驚いたのは普通に馬とか牛が歩いていること。荷車を引いてるから、まぁつまりはこれが今で言う車になるんだろうけど、曲がり角で『ぶもっ』と突然牛が現れた時には思わず悲鳴を上げてしまった。恥ずかしかった。
そんな人々は暮らし的にもそこまで困窮していないし、別段カシュトルゼ家を悪く言うとかいう場面もないように思えた。
『一般市民が“金がない”だ“生活が苦しい”って言っている間はまだ大丈夫だよ。なぜなら文句を言える余裕があるわけだからね。本気でヤバい時は言葉も何もない。切羽詰まって追い詰められてどうしようもなくなった人間は言葉もなく絶望に身を浸すだけで、目から光が消え失せるのさ。だからそういう人を作るようなことは避けなくちゃいけない。しっかり福利厚生と物価に気を配って、税金の使い道は明確に、不平不満はなるだけ解消する。だって税金を収めてくれないとパパや琴音が食べれなくなるからね』
前パパいわく。農民は生かさず殺さずが鉄則。
そう考えると、今この城下の雰囲気は悪いものじゃないのかもしれない。
「となるとガーヒルの政策がアンチテーゼになる可能性は低いのかしら。あれが暴走して民衆を生かさず殺すことになれば足元をすくいやすかったんだけど……ちょっと方針考えなきゃいけないか。だとしたらあっちの男たちを味方につける方が……」
「エリ様?」
アーニィに呼びかけられハッとする。
「な、なに?」
「あ、いえ。何やら考え込んでおられるようでしたので。どうかしましたでしょうか?」
「あー、うん。いや、なんでもない。こうやって城下に出るの久しぶりだなって」
本当は初めてだけどね。
「そうなんですか。前もお出かけされていたと?」
「そ、それは……うん、ちいちゃいときにね」
だから知らないって。うーん、このままうだうだと聞かれるのはめんどくさいな。
「アーニィは? ここらは来るの?」
「ええ、夕飯の買い出しなど、私どもの仕事ですからよく上町には出ますよ」
「上町?」
「あ、そうです。王様のいらっしゃるお城を中心に、エリ様たち貴族様のお屋敷を中央区として、その周辺に上流階級の人たちが住むのがここ上町です。それからかなり離れた、城の外周というのが下町といって中級階級、いわば下級民が住む区画となっていまして。あ、そこは危険ですから絶対行っちゃだめですよ?」
うーん?
なるほど?
そうなるとちょっと色々話が変わってくる気がする。
今ここにいるのは上流階級の人間らしい。
貴族が上流階級って気もするけど、ニュアンスとしては王様がいて、その下に貴族。その下は全て平民とすると、その平民の中で上流階級に位置する人たちがここ上町(かみまち)で暮らしているという。
比率的に言えば、貴族が1%、上流階級が10%、残りはそれ以下ということらしい。
しかもそれはこの国都周辺に住む人たちで、少し離れれば農地を持つ農民がそれこそ平民の数倍はいるというのがこの国の実情らしい。
そう考えると、この上流階級と言われる人たちが“暗くない”レベルの顔色というのはマズいんじゃない?
そこから等級が下がるごとに、裕福の度合いは下がっていくんだから、中級階級は暗いレベル。下級となれば絶望となり、農民に至ってはもうどうにもならないレベルなんじゃないかって思う。
これは、チャンスだわ。
そう、私は間違っていた。
ガーヒルが抑圧するだろう施策。それによって一番被害を被るのは中級以下の庶民。その庶民が暗いレベルであるなら、間違いなくガーヒルの馬鹿が動けば絶望する。
そこを掬い取ってやれば……。
「よし、行きましょう」
「へ?」
「案内して、その下町ってとこ。知ってるんでしょ?」
「…………だ、だだだだだダメです! 何言ってるんですか! 今私、言いましたよね、危ないって! そ、そそそそ、それなのに、な、何考えてるんですかエリ様!」
「なんかキャラが変わったみたいになってるけど。ま、いいわ。案内してくれないなら勝手にいくから。えっと、こっちよね」
「ちょ、ダメですって! それにそっちは王都の外に出る西門です! 下町に行くのは逆です!」
「あ、そうなのね。ありがと」
「ぎゃあああ! 私の馬鹿ぁ!」
「そんなことないわよ? あなたは優秀よ」
ちょろくて。
「ほ、褒められました……って、あわわわわ! だ、ダメですったらー!! エリ様ー!!」
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