政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成

文字の大きさ
11 / 68

10話 令嬢様の巡察・イン・パブ

しおりを挟む
 下町しもまちというのはどういうものか、とちょっと期待していたわけだけど……。

「想像以上ね」

 なんというか、さっきまでの世界と同じ世界かと思うレベル。
 それまでは石造りとはいえ、様々な色に塗られた屋根や一風変わった建築方式、時には小さいながらも庭があったりして中世的な素敵な都会という風に見えた。
 それが1キロといかないうちに、なんというか……そう、色がなくなったというのかしら。

 石造りの家屋はかなり古びてボロボロになっており、一部が崩れて中が見える家がある。
 それはまだマシな方で、場所によっては屋根が半分ないところ、あるいは完全に崩れているところもあり、石組みどころか木材を組み合わせてできた掘っ立て小屋みたいなところもあった。
 植物はあるものの、そこらに生えている雑草レベルで、それも緑が青々とという感じでもなく、町の空気に影響されているのかしなびたグレーの色合いを出している。

 もうこれ末期でしょ。
 そう思えるほどに終わり切った場所が下町しもまちと呼ばれる区画だった。

「エリ様ー、かえりましょうよ~」

 情けない声を出すアーニィ。
 本当に護衛でいいのかしら、この子?

「酒場はどこかしら?」

「な、なんで酒場です?」

「情報収集と言えば酒場だからよ」

 小学生のころ、そんなことを男子たちが話していたのが印象的で覚えていた。なんで酒場なんだろうとは思うけど、何かあるんだろうと思う。

「し、し、知りませんよ? 私だって、こっちにはほとんど来ないですから。だから知ってても教えません!」

「あ、大丈夫アーニィには何も期待してないから」

「さっき褒められたのに!?」

「褒めたことと期待したことは何もイコールにならないわよ。大丈夫、私は褒めて伸ばすタイプだから。期待はしないってだけで」

「全然褒められてる気がしません!?」

「ふぅん。たぶんこっちね」

「違います! 酒場はこっちなんで……って、はぅあ! またやっちゃいました!」

「その点についてはとても期待してたわ。さすがアーニィ。頼りになるわね」

「エ、エリ様に褒められた……頼りになるって言われたぁ…………って、エリ様! お待ちを!!」

 アーニィに付き合ってられないので、ずんずんと下町しもまちを奥へ。
 そこらに人影が見えるけど、本当に影みたいに見えて気味が悪い。というか根本的に活気がない。生きていることに何ら希望も見いだせていない目。
 子供もいたけど目を輝かせて走り回っていた上町かみまちの子たちとは違う。じっとこちらを見つめて、何かを訴えかけるような視線を向けてくるのだった。

 これが前パパの言ってた、“切羽詰まってどうしようもなくなった人間”ってことなのかしら。

 ただ、気の毒に、とは思うけど助けようとは思わない。

『食べ物に困っている人を見つけたら、恵んであげるかい? それはやめなさい。無駄だから。もし今救ったとしても明日は? 明後日は? 1週間後は、1か月後は、1年後は? 家族でもないのにずっと面倒見ろと? しかも困っているのはその人だけじゃない。何千、何万という困った人を助けるのであれば、その時のパンは分け与えるのではなく自分で食べなさい。そしてそのパンで得た力で、彼らの生活を改善する根本改善をしたほうが多くを救うんだよ』

 そう。だから今はこの人たちは救わない。
 後々に、しかるべき時まで頑張ってもらおう。

 というわけで私は彼らには構わずにずいずいと奥へ。

 そして見つけた“PUB”という看板。古ぼけた木造の大きな家屋で、穴はあいてなく、ちゃんと扉も取り付けてあった。
 たぶんここが酒場でしょう。中から人の話す声が聞こえるし。

 ガチャリ。

 ためらいもなしにドアを開ける。

 同時、中から聞こえた喧騒が止まった。

 視線を感じる。
 外で見るより狭い室内にいたのはどれも男性。10人くらいか。
 酒とたばこ、そして焼いた肉の臭いが鼻をついて不快だったけど、それ以上に不快だったのが脂ぎった男たちの赤ら顔が一斉にこちらを向いたこと。
 酔っぱらってすわった目によるうろんな視線。それが数十も私を貫くんだから不快以外の何物でもない。

「よぅ、嬢ちゃん。入る店を間違えてねぇか? お前さんの求めてる最高級のドレスは隣のイラ婆さんが持ってるぜー」

「ばぁさんの樽みたいなボディのドレスだろ! ぎゃははは!」

 どっ、と店内の男たちが沸く。何も面白くないのに、何を笑っているのだろうか。

「いえ、合ってます。私はここに用事があったんですから」

「あぁん?」

 何がまずかったのか、苛立つ声をあげるのは、最初に声を放った男。
 それは他の連中も同意見なようで、眉間を険しくしてこちらを睨んでくる。

 その中で幾分か若い兄ちゃん――完全にうぇーい系のチャラそうな男が2人立ち上がってこっちに来た。

「YO、YO、お嬢ちゃん。そりゃいけねぇなぁ。ここはお嬢ちゃんみたいな子が来る場所じゃねぇんだぜ?」

「そうだぜ、ここらはこわぁい奴らがいっぱいいるからな。ま、俺みたいな善良な人間もいるけどよ」

 あ、本当にこういう馬鹿はいるのね。

 しかも男の言葉に「お前が一番危険だろうが!」とツッコミが入り、下卑た笑いが木霊するのがたまらなく不快だった。

「で? 何しに来たんだ? もしや俺たち全員に抱かれたいってのかぁ? ギャハハハ!」

下種ゲスね」

「あん? 今、なんつった?」

 笑いが一瞬にして冷め、重たい空気が酒場の中を包み込む。

下種ゲスと言ったんだけど。もしかして通じていない? おかしいわね、私はちゃんとこの国の言葉を話しているんだけど。ああ、そう。家畜に人間の言葉は通じないものね。それは残念。ここは家畜小屋だったのね」

「か、家畜だとぉ!?」

 全員が怒り狂った視線で私を睨みつけてくる。

 さて、とりあえずここまでは予定通り。
 怒らせた相手は間違いなく本音を言う。つまりここでガーヒルを追い詰めるための何かを……。

「あれ?」

 そういえば何しに来たんでしたっけ?

 私はただ一般市民の暮らしを知りたかっただけ。それがガーヒルに対するカウンターになると思ったから。
 それは今までで十分知れた。上流階級はまだしも、下町しもまちはそれ以上に酷い有様だった。だからこそ、前のパーティでこぼした政策をやろうものなら大ヒンシュクは間違いなし。
 そこを私が颯爽と治めるという脚本を書こうと思ったんだけど……。

 うん、もうできちゃってるじゃない。
 これ以上、何を知る必要があるのか。とりあえず酒場に行けば色々聞けると思ったけど。そもそもなんのために、というのが抜けてたみたい。

 …………うん、無意味ね。

「あ、じゃあ私はこれで」

「おいおいおいおい、お嬢ちゃん。なに勝手に俺たちの憩いの場に乱入してきて調子くれて、それじゃバイバイってか? 舐めてんのか、コラ?」

「舐めるわけないじゃない。汚らわしい」

「け、汚らわしいだと! このアマ!」

「きゃ!」

 チャラ男に突き飛ばされ、床にしりもちをついた。痛い。
 それ以上に大変だったのが、その衝撃でフードが落ちてしまったこと。

「こ、こいつ、この髪。貴族だ!」

 ああ、バレてしまった。
 やっぱりこの私、もといエリの美しさと気品は隠してもバレちゃうものなのね。

「もしや、俺たちのことを探りに……」

「いや、そんなはずはない。秘密は完璧なはずだ!」

 おや、なにかざわざわし始めた。
 ま、どうでもいいことでしょう。

「おい、どうする」

「こうなったら……」

 男たちの不穏な視線が向けられる。

 あちゃー……ちょっと調子に乗りすぎたみたい。

 逃げるか。
 けど体力に自信はないし、この男たちのムキムキさからすると結構鍛えてそうだから、逃げ切れるか。

「てめぇがいけねーんだぜ。俺たちを……俺たちをこんな目に……!」

「ちょっと話し合わない? 私は別にあなたたちと喧嘩するために来たんじゃなくて――」

「うるせぇ、もう俺たちは後には引けねぇんだ!」

 男たちが飛びかかってくる。
 咄嗟に体をひるがえし、床に手を突いて起き上がりながら走り出す。けど遅い。そもそものスタートが遅い。

 だからフードを引っ張られ、つんのめったところを腕を取られた。
 そのまま体を回転させられ、男たちの鬼気迫る表情を前に、恐怖で体が動かなくなる。

 そんな私は男たちに乱暴をされてしまった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳領主の息子に転生しました

アルト
ファンタジー
 悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。  領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。  そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。 「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」  こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。  一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。  これなんて無理ゲー??

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...