竹達香守庵綴り

ニャンコろう

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そうろかの章 チョコミント色の嘘⑥

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「ねぇ琴弧ちゃん、僕はね、たまにどうしても食べたくなっちゃうんだ、このチョコミントを。」

「それ毎回言うつもり⁉」

 琴弧はつい最近聞いた台詞に笑って反応を示す。

「チョコミントを頼むとオプションで付いてきます。」

 晶はとぼけた顔をしている。

「嬉しくないオプションってあるんだね。」

「この緑とも青とも言える・・・」

「もう良いから。」

 二人の屈託のない笑い声が響く。亜梨紗の一件が落ち着いたお祝いにと、今日は晶の方からアイスショップに誘ったのだった。

「でもそれじゃ足りないよね。」

「うーん、ちょっと足りないかも。」

 琴弧の言う『完璧』を求め、晶は大好きなチョコミントを1スクープに抑えていた。

「じゃあ、はい。」

 琴弧が自分のスプーンでアイスをすくい、口に含まずにそっと晶に差し出す。晶はスプーンのアイスを一瞥し、次にその奥にいる琴弧にも焦点を合わせる。脳の中枢が視覚情報を頼りに大慌てで記憶を総ざらいするが、目の前で起こっている経験の履歴を探し出せない。すると「人生で初体験だ」とやっと脳が判定を下し、視線を泳がせて頭のてっぺんから足の先まで血の巡りを速くさせた。

「亜梨紗ちゃんを救ってくれてありがとう。ちょっとだけ格好良かったよ。」

 琴弧の柔らかい微笑みにためらいがちに笑い返してあーんと口をあける。

「うん、いつもよりちょっとだけ美味しい。」

「ちょっとだけかい。」

「うん、いつもよりちょっとだけ、琴弧ちゃんの甘い香りもふんわり混ざって美味しい。」

「・・・生意気言うじゃん。」

「今のはチョコミントを1スクープにしたオプションだね。」

「へぇ~、嬉しいオプションも用意してくれてありがとう。」

 「してやられた」という表情を浮かべた晶の視線の先には、琴弧が注文したチョコミントが。あれだけ嫌いと一刀両断したそれに挑戦していたのだ。どうやら、たった今おすそ分けしたお返しを要求しているらしい。これも初体験の晶は、今度は小さく震える手で大好きなチョコミントをたっぷりすくい、スプーンを琴弧に差し出した。

「・・・意外と緊張するもんだね・・・。」

 そう言って甘い表情で晶の視線を受け止め、スプーンに顔を寄せてゆっくり口を開く琴弧。色っぽさに誘われ、思わず自分の口を開ける晶。

「2人ともおつかれ~~~。」

 2人の真横から突然飛んできた声に、晶は脊髄反射でスプーンを引っ込め、証拠隠滅とばかりに自分の口に含んで俯く。琴弧は食べ始めた顎を止めることができず、上下の歯がガチンと噛み合う音を響かせ、硬質がぶつかった衝撃を食らって手で口を押さえた。

「あれ、2人ともどうしたの⁉もしかして良いところだった⁉」

「うん、僕たちはいつでも仲良しだもん・・・ね。」

「うん・・・一緒にチョコミントを食べそうになるくらいにはね。」

 琴弧は何か言いたげにじっとりとした目で晶を追い詰める。

「久慈さん、ダンス部の練習は終わったの?」

「今日は奇跡的に早めに終わったからテンション上がって来たんだ。」

「亜梨紗、良いところなんだから邪魔しちゃダメだよ。」

「遥、ごめん、今行く。じゃあ2人とも、邪魔しちゃってごめんね。」

 と、こちらに手を振って遥の元に行った亜梨紗は爽やかな笑顔を見せていた。「変われたみたいだね」と満足そうに晶と琴弧も顔を見合わせて笑う。

「ねぇ晶くん、さっきの続きは?」

 そう言われて再度周囲を確認し、更に亜梨紗がこちら側を見ていないか入念にチェックしてスプーンを差し出す。

「スプーン引っ込めないでよ。」

 静かに頷く。

「結構美味しいんだね。これなら好きになれそう。甘くて・・清涼感もあって・・・。」

 と言って晶を見つめる。視線を合わせることがやっとの晶は、胸がくすぐったくなるのを感じながら「僕もいるから?」と生意気な言葉を用意してみたものの、いまいち勇気を出せなくて、いつか使おうとそっと胸にしまい込むのだった。
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