なぜか私だけ、前世の記憶がありません!

紺野想太

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初めてのお出かけ ⑥

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「どうして……時間が、戻ったんですか?私だけ記憶がないのにも理由があるんでしょうか…」

私が1番気にかかっていたこと。
普通じゃありえない出来事が、あまりに多くの人を巻き込んで起こっている。“気のせい”で済ませられないほどに。

私の質問を聞いたフロリアン様の表情が曇る。
それだけで、なにか言いにくいことがあるというのは分かった。

「……全部説明することはできない。僕が独断で話していいことじゃないから…。ただ…」

そこからしばらく、フロリアン様は押し黙ってしまった。続く言葉を言うかどうか悩んでいるようだった。

「あの、言いにくかったら大丈夫です。すみません…。」

「……いや。いつかは君も知ることになるかもしれない。そうだな……。時間が巻き戻ったのは、優秀な…そして、リアのことが大好きな人が使った魔法のおかげだよ。」

「魔法……?でもそれっておとぎ話なんじゃ…?」

思ってもいなかった言葉だ。“神託が下り神様が時間を戻した”と言われたほうがまだ信じられるくらい。

「あぁ、一般的にはね。魔法を使える者がもうほとんどいないし、彼らは人間とあまり関わらずに生きているから。でも魔法使いはいるんだよ。」

「そう…だったんですね……。魔法使い様が…。あの、その方と会うことはできますか?」

「……ううん。実は10年前はまだ誰もその魔法使いに会っていないんだ。世界中全ての時が戻っているから、あまり大きく行動を変えることはできないんだよ。どうなってしまうかわからないから。」

「たしかにそうですね。……では、いつか会えるんですね!楽しみにしておきます!」

私が笑うと、フロリアン様も笑う。
その笑顔はいつもより大人びていた気がした。

「…そうだね。あと、リアにだけ記憶がない理由は本当にわからないんだ。目覚めた時は一時的なものだと思ったけど、もう数日経っているし…。明日か数年後かに突然思い出すかもしれない。けど、このまま何も思い出さないかもしれない。後者なら……たぶんだけど、君にそんな魔法がかかっているんじゃないかな。」

「あ……魔法……ですか?」

「うん。魔法をかけるとき、魔法使いとリアは寝室にいて…僕みたいに記憶がある人はみんな、横の部屋にいたんだ。記憶を保持したまま過去に戻るためには魔法の一定の範囲内にいる必要があったから。だから実際に魔法を使っている様子は誰も見ていない。…もしかしたら、その時リアにだけ特別な魔法を使ったのかもしれないね。」

「……同じ部屋にいた私に、魔法を使っている姿を覚えられたままではいけなかったから……でしょうか?」

「……あぁ、なるほど。うん、それが1番納得できる。実は魔法使いのことは僕たちも記憶が曖昧なんだ。みんな、覚えている髪の色や瞳の色が違うんだよ。それほど自身のことについては秘密主義な魔法使いだから、魔法を使う時の道具や言葉を忘れるように精神魔法をかけるのは当然かもしれないね。」

「そう…ですか……。あの、ではもし魔法使い様とまた出会えたら、この方だと教えてください。…約束、してくださいますか?」

「……愛しい君にそんな可愛くお願いされたら断れるわけないだろ?わかったよ。約束。…じゃあ代わりに…ってわけでもないけど、リアもひとつ僕と約束してくれる?」

「わ、私にできることでしたら……!」

私は咄嗟に手をぎゅっと固く握った。

「あはは、そんなに気張らないで。ただね、もしリアがこれから悩んだり、嫌なことがあって落ち込んだりしたときは…誰より先に、僕を頼ってくれたら嬉しいな。だから、僕からのお願いは、僕を…いや、“君の幸せを1番に考えている僕を信じて”かな。」

穏やかな言葉に、優しい目。だけど、芯のある声色。本当に私のことを思ってくれているんだと伝わってしまう。なんだかむず痒くて、目を逸らしてしまった。

「……ね、どう?僕との約束…できそう?」

私の髪をそっと梳いたフロリアン様の指先が耳に触れる。

「ふふ。真っ赤。かわい…。」

私にしか聞こえない声量でそう呟いたフロリアン様の声に心臓がどくどくと音をたてた。だって、お父様もお兄様もこんな声はださないもの。こんな風にそっと触れるようなことはしないもの。この心臓の鼓動は初めての出来事に驚いたからだわ。

リア?と私の返事をうかがう声がして、私は余計に俯いた。だってきっといま、変な顔をしているわ。でも無視することはできないから、私は小さく頷いた。
数日前に知り合った人を信じる…だなんて、おかしな提案だけれど、それでも私は信じたいと思った。もしフロリアン様の言葉に何か裏があるとしても……なんて、そんなことが考えられないくらいいつも真っ直ぐな言葉をくれたから。

「……ありがとう、リア。絶対…絶対に、君を不安にさせたりしない。信じ続けてもらえるように頑張るから、だから…ちゃんと見てて、僕のこと。」


もう一度小さく頷くと、後ろからクラウシー様の大きな咳払いが聞こえた。驚いてパッと顔をあげると、フロリアン様と目が合って思わず笑ってしまった。


そうして私たちは帰路についた。

初めてのお出かけは、キラキラしていてふわふわしていて……とても心があたたかくなった。
帰りの馬車の中で、フロリアン様とクラウシー様はまた言い争っていたけれど、朝よりもほんの少しだけ柔らかい雰囲気が漂っていた。きっとお2人は元々気が合うのね。
また3人で…いえ、次はお兄様やお父様も一緒に、お出かけしたいわ。

外の世界には、私の知らないことがたくさんある。
そう知ってしまったからには、部屋の中で怯えているだけでは果たせない貴族としての義務がある。私はいつか結婚してこの地を遠く離れてしまうかもしれないけど…それまでは、私がこの綺麗な地と人々を支える手伝いをしなければならないわ。私は私にできる何かがしたい。……そのために、まずはたくさん勉強しなきゃ。

揺れが少なく済むようにと、ゆっくりゆっくり進む馬車の中でそんな決意を固めた。そうしていつの間にか目を閉じて、私は眠りについていた。

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