ハズレ聖女は花開く!

茶々

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第一章 カラス色の聖女

お茶会1

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 ナターリエの案内を受け、小鳥とリュカは屋敷の中を進んで行く。広く明るい室内には品の良い調度品が多々並び、随所に生けられた花が彩りを添えている。


「どうぞ。こちらにお入りになって」

 侍女に扉を開けさせると、その部屋の中へと小鳥たちを招き入れた。
 ナターリエに案内された部屋は日の光が差し込む応接室であった。小鳥たちの到着を待っていたらしく、中ではすぐにお茶が出来るよう準備が整えられている。
 ナターリエの指示の下、侍女が小鳥たちを席へと案内をすると、小鳥はその椅子へと腰を下ろす。目の前のテーブルには焼き菓子が数種類並べられており、ふわりと甘い良い香りが漂ってきた。
 小鳥たちが皆着席すると、侍女は品の良い白磁のカップに温かな湯気を立てたお茶を注ぐ。全ての準備が整うと使用人たちは下り、部屋にはナターリエと小鳥とリュカの三人だけとなった。


「本日は当家へお越しくださってありがとうございます。朝早くに迎えに行かせてしまったから、小鳥さんたちを驚かせてしまったかしら?」

「ちょうど朝食を済ませたところでしたので大丈夫です。あ、宿屋の宿泊代を支払ってくださってありがとうございました」

「あら、宿の代金くらいではお礼に足りないくらいよ。町から馬車に乗って来たのですもの、喉が渇いたでしょう?温かいうちに召し上がって」

 微笑んだナターリエは率先してお茶を一口飲み、小鳥たちにもお茶とお菓子を勧めた。
 朝食を食べてから二時間ほどなので、さほどお腹は空いてないが甘いお菓子であれば別腹である。小鳥は渇いた喉を温かなお茶で潤すと、焼き菓子へと目を向ける。

 お花のような形の中心に赤いジャムが乗ったクッキーに、ピンクや黄色など淡い色が可愛らしい焼いたメレンゲ、バターが香るマドレーヌとどれも美味しそうな物ばかりだ。
 久しぶりの甘いお菓子に小鳥は顔を綻ばせながら、いくつか選ぶと皿へと乗せる。こちらに来てから言葉を発していないリュカも、にこやかにお菓子へと手を伸ばしている様子からそれなりに喜んでいるようだ。


「さて、まずは昨日のお礼をさせてちょうだい。町まで行って馬車を呼んでくれて、そして貴重な回復薬を譲ってくれて助かったわ。ありがとう。昨日は日が沈んで冷えてくる前に貸し馬車屋の者が迎えに来てくれたわ」

「私は私に出来る事をしただけですし、気になさらないで下さい。それにしても、迎えの馬車は思ったよりも早くナターリエさんの所へ着いたのですね」

「ええ、わたくしの名前でお手紙を出したのですから大慌てで来たのでしょうね。慌てたせいで小鳥さん達に随分と失礼な態度だったようだけれど……。あら、失礼。これは余計なことね。昨日の件については貸し馬車屋の主人へ迅速な手配のお礼と、対応に対するちょっとした意見をしておくわ」

 カーダリングという領主の家の名前を出されたのだ。貸し馬車屋も慌てて当然だろう。小鳥は貸し馬車屋のフォローをしつつ、クッキーへと手を伸ばす。

「昨日はあのような場では人払いが出来なかったでしょ?ですから聞かなかったのだけれど、小鳥さんは何か事情を抱えておいでなのではないかしら?」

 カップを静かに置き小鳥を見つめたナターリエのその言葉に、小鳥はピクリと肩を揺らす。

(事情は色々と抱えている。だけど、領主夫人という身分の人にどこまで話していいのか分からない。手助けしてくれるのなら嬉しいけれど、そうでなかった場合、ナターリエさんの命令に私みたいな一般人は逆らえない……)

 こちらの世界に来て日が浅い小鳥には、彼女がどのような対応をするのか検討も付かない。昨日ナターリエを助けたとはいえ、身分も魔力もない小鳥を助けてくれるのだろうか。
 難しいという事は分かっているが出来る事ならば、何も事情を聞かずに雇って欲しいというのが小鳥の希望だ。

「えーっと……」

(どうしよう…なんて言えばいいかしら……)


「この子がどのような事を答えても害さないという約束は出来る?」


 小鳥が言い淀んでいると、隣に座っていたリュカがナターリエを静かに見据えていた。小鳥から見えるその横顔は、凛としており気高くも見える。

「ええ。もちろんです。小鳥さんがどのようなご事情を抱えていても、我がカーダリング家が害を成す事はありません。わたくし達は助けていただいたのですから、出来る限り小鳥さんの手助けを致します」

「そう。それなら構わないよ。……小鳥が話したいように話して大丈夫だよ。ボクが保証してあげる!」

 くるりと小鳥の方へと向きを変えたリュカは、にこやかな笑みを浮かべながらマドレーヌを口に運ぶ。先ほどまでの凛とした面影は消え、小鳥が見慣れた愛らしい姿で更にもう一つマドレーヌを手に取った。

「小鳥さんに不利益があるような事はしないわ。話せる範囲で構わないから教えてくださる?そのマントも返したいでしょう?」

「このマントの事、やっぱり気付いてらしたんですね」

「ええ。騎士団のマントである事は分かったわ。昨日のあの場で指摘をしたら、きっと小鳥さんを困らせてしまうと思ったの」

 柔らかな微笑みを浮かべたナターリエは、優雅な仕草でカップを持ち上げながら小鳥の返答を待つ。急かしたり、無理やり聞き出そうとしない事に少しばかり安心感を覚えた小鳥は、いくつかの事は隠してナターリエに話す事に決めた。
 神殿にいた事、その神殿から殺されそうになった事、このマントについては小鳥もよく分からない事、そして小鳥に身分がない事。

「……そう。小鳥さんにはそのような事情がおありでしたのね」

 少し難しい顔をしたナターリエに小鳥が不安を覚えると、それに気付いたのか安心させるようにまた柔らかな笑みを浮かべた。

「ごめんなさい、不安にさせてしまったわね。少しだけ神殿について考えていただけだから大丈夫よ。…小鳥さんは神殿とこの国フィルフューイメアが、ここ数十年あまり良い関係とは言えなくなっている事はご存知?」

「騎士団と神殿の仲が良くない事は知っていましたが、国との関係も良くないという事は知りませんでした」

「わたくしの立場としてはフィルフューイメア国側です。ですから、神殿から小鳥さんを遠ざける事は出来ても、神殿に対して謝罪や説明を要求する事が難しいの。彼らに非があっても神事を盾にされるとこちらが強く出る事が出来ないの」

 はぁ、とため息を吐いたナターリエは続ける。

「今の神殿がおかしい事は分かっているのですけれど、確たる証拠がないと国も動けないの。もちろん、小鳥さんの証言は信用しているわ。でも、言葉だけでは残念だけれど証拠にならないの」

「森の中のあの場所へ行けるといいのですが、神殿に戻った所でどこにあるの分からないですし仕方がないです。聞きたいのですが、神事とは不審な神殿を放置出来てしまうほど、そんなに大事な物なのですか?」

「ええ。腐っていても神に仕える者たちなのです。彼らの神事によって穢れが払われ、土地が癒されているの。穢れがなくとも、神殿による神事がなければ季節の巡りが悪くなって作物の成長にも影響するわ」

「聖女が穢れを浄化するのですよね。それを神事として行っていた事を初めて知りました」

「もちろん神殿の聖女も参加するけれど、司祭たちが主だって穢れを払う神事を行うのよ」

 小鳥の中にふつりと疑問が湧いてきた。神殿では聖女が穢れを払い清めると習ったのだ。聖女ではない神殿の者たちに穢れが払えるのだろうか。

(私が知らないだけで聖女はあくまで補佐で、司祭がメインで穢れを払うって事なのかな?でもおかしい。それならそうと神殿で説明するはず。なんだろう。神殿とその外とでは認識が違うのかな?)

 小鳥がいくら疑問に思ったところで、神殿に直接聞く事が出来ない今、実際に神事を見ない限りはこの疑問が晴れる事はないだろう。
 小鳥は解けない疑問を頭の隅に追いやり、甘いお菓子を口にした。
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