津倉佐々美の異世界「猫」さんぽ

如月柊

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津倉佐々美、教授の口車にのっていいかな?

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津倉佐々美が異世界に来るきっかけは紫蘭泰三教授だった。

ある日、紫蘭泰三教授に呼び出された津倉佐々美は教授の研究室の前に立っていた。

「はい、どうぞ。勝手に入って」
ドアのノックに反応して紫蘭泰三教授の声がドア越しに聞こえてきた。

「しっれーしまーす」津倉佐々美はちゃっちゃと研究室に入っていった。

机に向かって背中を見せていた紫蘭泰三教授はキーをたたく動作をやめ、椅子をグルッと回してこちらへと向いた。

「津倉…くんだったね。まぁそこらの椅子に掛けて」と言いながら極度に細長い足を組んでこちらを見た。

紫蘭泰三教授は年齢的にも初老と言っていい年だが、ダンディーでスマートな雰囲気が一部の初老萌えの女子の支持を集めていた。
目にかかるシルバーグレーの髪の毛の合間から見える眼からは年齢とは不釣り合いなイキイキとした眼光が宿っていた。

「はぁ」と初老萌えとは縁のない津倉佐々美は腑抜けた返事をして近くにあるボロボロの椅子を引いて腰を下ろした。

「津倉くんはまだ異世界フィールドワークに行ったことなかったんだよね」
痛いところをつかれた津倉佐々美は「え?」と一瞬固まった。

「まぁそう、そうなんですけど。いやこれから行こうと思ってんです。そうです、行っちゃおうかなって。ほらスケジュール帳にもこのあたりかなって丸してあるし」と苦し紛れの言い訳が勝手に口から出た。

そう、異世界フィールドワーク。
津倉佐々美にとっては禁断のキーワードだった。

津倉佐々美は就職の条件の良さから何の興味もない文学部へと進学し「異世界文化論」に関わる道を歩み始めた。
しかし「異世界文化論」に関わる学生は、大学に入って早々、異世界に訪れてフィールドワークを通じてレポートを書くことが半ば強制的に決められていたのだ。
異世界に行くときは「火の輪くぐり」と俗に呼ばれるジェットコースターを何百倍にもスリリングにしたプロセスを経ないといけないことは津倉佐々美も薄々知っていた。
とにかくジェットコースター恐怖症の津倉佐々美はこの事態だけは避けなければならないと心に固く誓っていた。
だいたいジェットコースターってなんだ!
普通、あんな速度の乗り物乗ったら余裕で死ぬじゃないか。
お金払って死ぬような恐怖を味わうなんておかしい!存在そのものがおかしい!
テーマパークに友人たちと行ったときにジェットコースターに無理やり乗らされて魂が半分抜けかけた体験をした津倉佐々美のトラウマは半端じゃなかった。
しかし、気づいたときはすでに遅しで、異世界に興味もないし、行きたくもなかった津倉佐々美も異世界行きを避けられない状況にあった。
今日までなんとか先延ばしにしてきたのだが、そろそろ年貢の納め時らしい。

「ところで津倉…くんはモフモフは好きかね」

「……モフモフ…?」紫蘭泰三教授の口からモフモフという言葉が出てきたことに対して津倉佐々美はイミフな感じで聞き返した。

「モフモフだよ津倉…くん」

「えーーーーーっと、にゃんことかのモフモフ?」

「そうそう」

「まぁ…嫌いじゃないです。というか大好きです」津倉佐々美は話題が異世界フィールドワークから反れたと思って少し活気づいた。

「じゃ、異世界ポイントXA21に決定ね。モフモフ好きでないとちょっと成立しないんだよな。よかったよかった」

「え、え、え、え、え…」なになにモフモフって異世界フィールドワークの話だったの?

「じゃ、教務と話し合って出発の日とか決めてね」いやいやいや…なんだか簡単に教授の口車に乗っているようで納得いかないんですけど!

でも、いつか異世界行かなくちゃいけないし…口車…のっちゃってもいいのかな?

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