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内藤みちる、現役アイドルに見とれちゃいます!
しおりを挟む「るなちゃん、かわいい!」
内藤みちるはスマホで動画を撮りつつ、ついつい自分も声援を送ってしまっていた。
お祭りの中にひときわ響く渡辺るなの歌声は本当に素敵だった。
あちこちにいた猫たちも自然と舞台に集まってきている。さすが、アイドルだけある。オーラが違う。
渡辺るながこの異世界に来ていると情報通の女子力猫〈ミーコ〉から聞いていた。
渡辺るなは村長である長老猫〈ホトケ〉のところに住んでいるそうで、その長老猫〈ホトケ〉はおじいさんだから、耳が聞こえないだの、もうろくしているだのとよく愚痴ってきているという情報まで耳に入っていた。
そういう意味では、私は女子力猫〈ミーコ〉の家で幸せなのかもしれない。
女子力猫〈ミーコ〉は猫にしてはうるさいほうだと思うけれど、かわいいし、おしゃべり相手としては申し分ない。そして女友達としてとても頼りになる。渡辺るなの他にも今、異世界にやってきている人間は自分を含めて全部で4人。自分と同じ栄華繁栄大学生の女の子とカメラマンのお兄さん。この二人はどうしているんだろう?猫祭りには出てきているかな?
それにしても…るなちゃんは本当にかわいい。
タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャー!
猫たちのかけ声が舞台全体に響く。
その声を聞いてニンマリ笑ってしまった。
よしよし、うまくできている。
すっかり猫たちも人間のオタ顔負けのオタっぷりだった。
実はこのMIX、昨日必死に猫たちが練習していたんだ。
つくづくここにきて思うのは、猫も人間もみんな変わらないってこと。渡辺るなは猫オタもすっかり虜にしちゃったようだ。
きっとやり手の渡辺るなのことだから、握手会もやって、そのうち猫たちからもお金を巻き上げていくのかもしれない。
でも、そんなしたたかな渡辺るなが今はまぶしい。渡辺るなは再び神セブンまでのし上がるためにがんばっている。渡辺るなの強さを感じると、私もがんばらなくちゃって思う。また、私も少しずつ小説を書くようになってきた。
この猫だらけの異世界の話、そして渡辺るなの話。女子力猫〈ミーコ〉の話。
なんてったって、この異世界にはネタは尽きない。
「みちるちゃん、何しているの?」
「あ、びっくりした!」
声をかけてきたのは女子力猫〈ミーコ〉。ボーイフレンドの爽やか男子猫〈クロ〉も一緒だ。
「るなちゃんの動画をとっているのよ」
「知ってる、あの子、るなちゃんだよね、アイドルの」
「そう、アイドル。グレープフルーツミックスってグループの一人なのよ」
「そうそう!グレMIXよね?たしか68人だったかしら?大所帯のアイドルグループでしょう?私、グレMIXのセンターのさつきちゃんが好きなんだ。だってかわいいんだもの」
「るなちゃんだって昔は神セブンに入っていたのよ。最近はもう知らない人も多いようだけど…」
ああ、なんだか残酷だなあ。
「ボクもグレMIXって知ってますよ」
爽やか男子猫〈クロ〉が横から物知り顔でいう。猫界でも意外とはやってるんだなあ。
「るなちゃん、かわいいお洋服着ている。あんなセーラー服みたいなの私も着てみたいなあ」
「ねえ、ミーコちゃん、僕らも動画に出る同業者として、あとで挨拶しておきましょう」
「そうよね。私もるなちゃんと仲良くなりたい。今度また女子トークとかしたいなあ」
「そうですね。いいかもしれませんよ。猫界のアイドルミーコちゃんと人間界のアイドルるなちゃん、相乗効果で話題性があるかも。PV数また増えるんじゃないですか?」
「やだあ、クロちゃんってば、猫界のアイドルだなんて、私本当に猫界のアイドル?」
「そうですよ。ミーコちゃんは猫界のアイドルですよ。猫界ではミーコちゃんが一番かわいい!」
「やだ、クロちゃんってば、うふふ。本当に本当にそう思う?」
「そう思うに決まっているじゃないですか。もっともっとミーコちゃんのかわいいところをアピールするためにも動画がんばって作りましょうね」
「うん。ミーコがんばる!」
「ミーコちゃんの機嫌もすっかり直りましたね。よかったよかった」爽やか男子猫〈クロ〉がほっとしたようにそういった。
「あれ?ミーコちゃん、機嫌が悪かったの?」
「そうなんですよ。今日の首輪の柄が気に入らなかったらしくて」
女子力猫〈ミーコ〉は白地に大きな金魚が何匹も泳いでいる首輪をしていた。
確かに。確かにちょっと金魚が大柄すぎて子供っぽいデザイン。
デザインがねえ。デザインがいけてない。
でも、そんなこと猫のミーコちゃん相手でも言えっこない。
「ミーコちゃんの首輪、か、かわいいじゃない?」
「え、みちるちゃん、本当?」
「うん、季節っぽくって素敵よ」
「なんかちょっと子供っぽかったかなって思って気になってたの」
「ミーコちゃんには大柄金魚の元気でイキイキしている感じが合ってるわよ」
「うふ。金魚ってお祭りっぽくっていいなって思って選んだの。つけてみたら思ったより子供っぽかったから気に入らなかったんだけど。みんながかわいいっていうなら、なんだかそんな気がしてきた」
「そうですよ。ミーコちゃんはどんな首輪をしても素敵ですよ」おお、クロちゃんナイスフォロー。
「うふ。よかった」
女子力猫〈ミーコ〉の機嫌も直ったようだ。よかった。やれやれ。
「ミーコちゃんはこれからクロちゃんとふたりでお祭りを見て回るの?」
「うん、そう。綿菓子食べたり、ヨーヨー釣りしたりするんだ。あとね、チャーちゃんが御神輿ひくみたいだから見に行くんだよね?」
「そうそう、チャーちゃんって文化継承に躍起になっているところあるから、御神輿とかそういうのがんばっているんです。みちるちゃん、チャーちゃんって知っていますか?」と爽やか男子猫〈クロ〉が問いかけてきた。
「うーん、誰だろ?」
「茶トラ猫ですよ」
「ふーん」
「チャーちゃんは水島信也と一緒に住んでるんです。将来の学者として、文化を継承することの大切さにこだわってるんですけど、水島信也もカメラマンだけあってなんでもレンズに収めたいんでしょうね。2人で最近よくうろうろと遊びにいっているみたいですよ」
「そうなんだ。水島信也さんって言ったらクロちゃんやミーコちゃんの動画撮っているのよね?」
「そうそう、最近はすっかりミーコちゃんの方が人気者で、ミーコちゃんが出るなりPVもうなぎのぼりなんですよ。やっぱりインフルエンサーかつファッションリーダーのミーコちゃんは強いですよ。いっそボクはプロデューサーになった方がいいかなって思っているんですよね。もともと、自己顕示欲よりもお金を稼ぐことのほうが興味があったので、あまり俳優クロちゃんであることにこだわっているわけではないのですが。ただ、最近、カップルで活躍しているタレントがブームなので、ミーコちゃんの彼氏というので絡むのも悪くないと考えているところなんです」
なんか、クロちゃん、腹黒い?
けど、ネタになるわー。
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