津倉佐々美の異世界「猫」さんぽ

如月柊

文字の大きさ
28 / 33

内藤みちる、現役アイドルに見とれちゃいます!

しおりを挟む

「るなちゃん、かわいい!」

内藤みちるはスマホで動画を撮りつつ、ついつい自分も声援を送ってしまっていた。

お祭りの中にひときわ響く渡辺るなの歌声は本当に素敵だった。
あちこちにいた猫たちも自然と舞台に集まってきている。さすが、アイドルだけある。オーラが違う。
渡辺るながこの異世界に来ていると情報通の女子力猫〈ミーコ〉から聞いていた。
渡辺るなは村長である長老猫〈ホトケ〉のところに住んでいるそうで、その長老猫〈ホトケ〉はおじいさんだから、耳が聞こえないだの、もうろくしているだのとよく愚痴ってきているという情報まで耳に入っていた。
そういう意味では、私は女子力猫〈ミーコ〉の家で幸せなのかもしれない。
女子力猫〈ミーコ〉は猫にしてはうるさいほうだと思うけれど、かわいいし、おしゃべり相手としては申し分ない。そして女友達としてとても頼りになる。渡辺るなの他にも今、異世界にやってきている人間は自分を含めて全部で4人。自分と同じ栄華繁栄大学生の女の子とカメラマンのお兄さん。この二人はどうしているんだろう?猫祭りには出てきているかな?

それにしても…るなちゃんは本当にかわいい。

タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャー!
猫たちのかけ声が舞台全体に響く。

その声を聞いてニンマリ笑ってしまった。
よしよし、うまくできている。
すっかり猫たちも人間のオタ顔負けのオタっぷりだった。

実はこのMIX、昨日必死に猫たちが練習していたんだ。
つくづくここにきて思うのは、猫も人間もみんな変わらないってこと。渡辺るなは猫オタもすっかり虜にしちゃったようだ。

きっとやり手の渡辺るなのことだから、握手会もやって、そのうち猫たちからもお金を巻き上げていくのかもしれない。
でも、そんなしたたかな渡辺るなが今はまぶしい。渡辺るなは再び神セブンまでのし上がるためにがんばっている。渡辺るなの強さを感じると、私もがんばらなくちゃって思う。また、私も少しずつ小説を書くようになってきた。
この猫だらけの異世界の話、そして渡辺るなの話。女子力猫〈ミーコ〉の話。
なんてったって、この異世界にはネタは尽きない。

「みちるちゃん、何しているの?」

「あ、びっくりした!」

声をかけてきたのは女子力猫〈ミーコ〉。ボーイフレンドの爽やか男子猫〈クロ〉も一緒だ。

「るなちゃんの動画をとっているのよ」

「知ってる、あの子、るなちゃんだよね、アイドルの」

「そう、アイドル。グレープフルーツミックスってグループの一人なのよ」

「そうそう!グレMIXよね?たしか68人だったかしら?大所帯のアイドルグループでしょう?私、グレMIXのセンターのさつきちゃんが好きなんだ。だってかわいいんだもの」

「るなちゃんだって昔は神セブンに入っていたのよ。最近はもう知らない人も多いようだけど…」

ああ、なんだか残酷だなあ。

「ボクもグレMIXって知ってますよ」

爽やか男子猫〈クロ〉が横から物知り顔でいう。猫界でも意外とはやってるんだなあ。

「るなちゃん、かわいいお洋服着ている。あんなセーラー服みたいなの私も着てみたいなあ」

「ねえ、ミーコちゃん、僕らも動画に出る同業者として、あとで挨拶しておきましょう」

「そうよね。私もるなちゃんと仲良くなりたい。今度また女子トークとかしたいなあ」

「そうですね。いいかもしれませんよ。猫界のアイドルミーコちゃんと人間界のアイドルるなちゃん、相乗効果で話題性があるかも。PV数また増えるんじゃないですか?」

「やだあ、クロちゃんってば、猫界のアイドルだなんて、私本当に猫界のアイドル?」

「そうですよ。ミーコちゃんは猫界のアイドルですよ。猫界ではミーコちゃんが一番かわいい!」

「やだ、クロちゃんってば、うふふ。本当に本当にそう思う?」

「そう思うに決まっているじゃないですか。もっともっとミーコちゃんのかわいいところをアピールするためにも動画がんばって作りましょうね」

「うん。ミーコがんばる!」

「ミーコちゃんの機嫌もすっかり直りましたね。よかったよかった」爽やか男子猫〈クロ〉がほっとしたようにそういった。

「あれ?ミーコちゃん、機嫌が悪かったの?」

「そうなんですよ。今日の首輪の柄が気に入らなかったらしくて」

女子力猫〈ミーコ〉は白地に大きな金魚が何匹も泳いでいる首輪をしていた。

確かに。確かにちょっと金魚が大柄すぎて子供っぽいデザイン。
デザインがねえ。デザインがいけてない。
でも、そんなこと猫のミーコちゃん相手でも言えっこない。

「ミーコちゃんの首輪、か、かわいいじゃない?」

「え、みちるちゃん、本当?」

「うん、季節っぽくって素敵よ」

「なんかちょっと子供っぽかったかなって思って気になってたの」

「ミーコちゃんには大柄金魚の元気でイキイキしている感じが合ってるわよ」

「うふ。金魚ってお祭りっぽくっていいなって思って選んだの。つけてみたら思ったより子供っぽかったから気に入らなかったんだけど。みんながかわいいっていうなら、なんだかそんな気がしてきた」

「そうですよ。ミーコちゃんはどんな首輪をしても素敵ですよ」おお、クロちゃんナイスフォロー。

「うふ。よかった」

女子力猫〈ミーコ〉の機嫌も直ったようだ。よかった。やれやれ。

「ミーコちゃんはこれからクロちゃんとふたりでお祭りを見て回るの?」

「うん、そう。綿菓子食べたり、ヨーヨー釣りしたりするんだ。あとね、チャーちゃんが御神輿ひくみたいだから見に行くんだよね?」

「そうそう、チャーちゃんって文化継承に躍起になっているところあるから、御神輿とかそういうのがんばっているんです。みちるちゃん、チャーちゃんって知っていますか?」と爽やか男子猫〈クロ〉が問いかけてきた。

「うーん、誰だろ?」

「茶トラ猫ですよ」

「ふーん」

「チャーちゃんは水島信也と一緒に住んでるんです。将来の学者として、文化を継承することの大切さにこだわってるんですけど、水島信也もカメラマンだけあってなんでもレンズに収めたいんでしょうね。2人で最近よくうろうろと遊びにいっているみたいですよ」

「そうなんだ。水島信也さんって言ったらクロちゃんやミーコちゃんの動画撮っているのよね?」

「そうそう、最近はすっかりミーコちゃんの方が人気者で、ミーコちゃんが出るなりPVもうなぎのぼりなんですよ。やっぱりインフルエンサーかつファッションリーダーのミーコちゃんは強いですよ。いっそボクはプロデューサーになった方がいいかなって思っているんですよね。もともと、自己顕示欲よりもお金を稼ぐことのほうが興味があったので、あまり俳優クロちゃんであることにこだわっているわけではないのですが。ただ、最近、カップルで活躍しているタレントがブームなので、ミーコちゃんの彼氏というので絡むのも悪くないと考えているところなんです」

なんか、クロちゃん、腹黒い?
けど、ネタになるわー。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...