【完結】俺のばあちゃんがBL小説家なんだが ライト文芸大賞【奨励賞】

桐乃乱

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第一章

【五】月子―腐女子の結界①

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月子つきこちゃん、あなただけが頼りなの。海人かいとを守ってちょうだい」
「任せて、おばあさま。お兄様は私が『あざと女子』から守ってみせます!」
「ほほほほ。さすがは萩野家の女性ね。もちろん。成功したあかつきには、希望の学校へ進学させてあげましょう」
 和服姿の祖母は花瓶に紅梅の枝を活けながら、眼差しで私の真剣度合いを測っていた。
「頑張ります」
「まかせたわよ」

 萩野家の女帝であるお祖母さまは、海人兄ちゃんが『財産目当ての女性』からの誘惑に負けるのを危惧していた。

 海人兄ちゃんは、お父さん譲りのイケメンだ。ちょっぴりアイドル風味も加わってるもんだから、女の子の嗅覚が刺激されちゃうんだよね。
 眠たげな二重に天然の茶髪カールって、漫画の王子様みたいじゃん。ずるいよね。二卵性の私は黒髪ストレート。しかも一本一本が太くて硬い……。
 

★ ★ ★

『だめだ。そんな太くて硬いのは、私には無理だ』
『王子、どうか私の愛を受け入れてください……』
 騎士団長は熱い眼差しとキスで第二王子の抵抗を封じた……。

(「腹黒騎士団長は、うぶな第二王子を逃がさない」ベルばら先生著)

★ ★ ★

 って、妄想BLストーップ!

 私は萩野月子はぎのつきこ、高校生。武将伊達政宗が築いた城下町、仙台市に生まれ育った仙台っこ。

 もうお気づきかと思うけれど、私は腐女子よ!
 BLとの出会いは二年前。ツタヤンへ少女漫画を買いに行った私は、本棚の隅っこに並んでいる雑誌を見つけたの。

 金髪ロン毛の軍服イケメンが、黒髪の美青年をお姫様抱っこしてる表紙だった。

「こ、これはなんなの?」

 衝撃的だった。少女漫画なら主人公の恋人になるレベルの美麗な男性が、熱く見つめ合っちゃってるわけ!

 おーい、うるうるまなこの可愛い女の子やセクシースーツのお色気お姉さんはどこなんじゃーい。
 この二人は恋してるの?

 お兄ちゃんに知られないように、こっそり買って読みました。

「な、なんなのこれ~~」

 ベルばら先生の美麗なる漫画は、私の心をわしづかみした。

『腐女子、萩野月子』誕生の瞬間だった……。


 て前置きはともかく、私がお祖母さまから頼まれた役目『萩野グループ跡取りをあざと女子から守る』を遂行出来れば、『仙台アニメーション学院』に入学できるわけ。

 少女漫画家になるのが夢だった私。ベルばら先生のBL漫画との出会いが、運命を180度変えてしまった。

 私、萩の月子(ペンネーム)は、BL漫画家になってみせる!
 
 海人お兄ちゃんは『お前をナンパ野郎から守れって、お祖母さまから頼まれたんだ』なあんて面倒くさがりながらも側にいてくれる。
 お祖母さまは策士だ。生徒たちも策にハマり、妹思いの兄だと認識していた。

 唯一の悩みは『萌え』補給が出来ないこと。休み時間にスマホでBL漫画も読めないし、腐女子仲間をゲットすることができない。

 だって女子はお兄ちゃんと親しくなると、ヨダレを垂らした女豹になっちゃうんだもん。

 二次元イケメンオンリーな女子、カモーン!
 私の心の叫び、誰か共鳴してくれー!




「月子、星夜が東京から戻ってくるぞ!」

 蔵王連峰の雪が溶けてきた頃、海人お兄ちゃんが駆け込んできた。

「あのポヤッとイケメン……いや、ど、どうして?」

 確か星夜君のお父さんはエリートリーマンで、アラブの石油王にヘッドハンティングされて仙台を出て行ったはず。そこにラブ要素がないのが、月子的にはちょっぴり残念だよ。

「星夜のお父さんが渡米するから、海人はお祖母ちゃんと暮らすことになった。俺たちと同じ高校に編入してくるって!」
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