【完結】俺のばあちゃんがBL小説家なんだが ライト文芸大賞【奨励賞】

桐乃乱

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第一章

【五】月子―腐女子の結界③

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「お兄ちゃん、星夜君。教室に行こうよ。話は後でゆっくりね」
「星夜、戻ってきてくれて嬉しいよ。また一緒に遊ぼうぜ」
「ああ。そうだな」

 海人兄ちゃんが励ますように肩を抱いたら、星夜君は微笑んだ。

 ビビビビビビビビビビ~~!

(月子の妄想BL発動)
 ★ ★ ★

「星夜、転校先で辛い目にあったんだな。迎えに行くのが遅くなってごめん。もうお前を離さない」

 海人(イケメン王子攻め)が疲弊した星夜(天然、切れ長の黒髪受け)の肩を抱いた。星夜は涙を浮かべながら逞しい肩に寄りかかった……。

「海人、俺、お前のことが……」

 海人の長い指が、星夜の頬に触れてそのまま顎へと……。

 ★ ★ ★

 萌えシチュエーションきたー!
 私の脳内スマホ、録画開始~!
 顎クイ、顎クイいただきました~!

 来たわ、来たわよ。私の漫画ネタが目の前に落ちてきた~!

 わかってる、分かってるわ。厚い友情なのよね。
 でもチョッピリだけ、妹の脳内でブロマンスしてくれませんかぁ~?




 クラスメイト達は転校生の黒髪切れ長男子に騒然となった。休み時間になる度、女子が群がる、群がる。

「どうして戻ってきたの?」
「仙台のどこに住んでたの?」
「部活、何やってたの?」

 星夜君はのんびりした口調で質問に答えてた。でも『連絡先交換しよー』ってスマホをかざされる度に「俺、スマホ持ってないんだ。ごめんね」って断っていた。

 すかさず名刺を渡してきた生徒たち。彼らの中には既に自分の会社を設立して、社長になっている者もいる。紀文ちゃんから『父親がアラブ王出資の会社でCEOに就任する』情報をキャッチしたに違いない。

 あれ、お兄ちゃんには新しいスマホからかけてきてたよね……。これも解明必須案件だわ。


 私が結界を張るのに執念を燃やしているのには、もう一つ理由がある。

 私にもお見合い結婚が待っているのだ。お相手候補は三名。お祖母さまが選んだ相手は、家柄も仕事も申し分ない男性だって分かってる。

 一押しはすが建設の次男坊。現在は『ブルーレングループ』会長付きで全国の経営者とコネクションを作っている最中だとか。

 本当は知ってるんだから。それって、ヤクザのフロント企業だよね。

 土建屋のボンが腐界の森に住む私の心を理解してくれるはずがない。きっと漫画もただの趣味だと一笑に付されるわ。 

 見てなさい、スガのボンボン。私は絶対にデビューしてみせるんだから! 



 入学式があるので、お昼には下校になってしまった。星夜君はマックでだべリンチョの誘いを喜んでいたけれど、財布を忘れたから明日にしよう、と延期を申し出てきた。
 
 それじゃあ、(脳内)ブロマンスが始まらないのよ!

 チャリで去っていく星夜君をがっかりして見送る海人兄ちゃん。そうよね、残念なのよね。だって、心を許せる友がマックデートを断ったのですもの。

 萩野家の送迎車が生徒専用ロータリーに停車した。

「お兄様、星夜君の住所はご存じ?」
 萩野家の女帝そっくりの口調で尋ねた。

「あ、ああ。スマホに入れてある」
「それじゃ、若生家へ参りましょう!」
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