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閑話
閑話【ニ】紀文先生ーBランクの転校生
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プルルルル。
「はおはようございます。紅葉学園です」
『おはようございます。私、渡辺宗純(わたなべそうじゅん)坊ちゃまの執事、○と申します。坊ちゃまは一週間、風邪でお休みいたします」
「わかりました。どうぞお大事に」
フン。どうせカリブ海へシュノーケリングにでも行くんだろ……。
「紀文先生、グレートバリアリーフですよ。オーストラリア大陸北東海岸です」
「武田先生!」
「ははは。心の声がダダ漏れですよ」
「す、すいません」
「彼らはもう、親の決めた人生のレールに乗ってますからね。気晴らしが必要なんでしょう」
「すぐに夏休みじゃないですか。なんで待てないのかな」
「バカンスは世界中の避暑地をはしごするみたいですよ」
「避暑地のはしご……」
居酒屋のはしごとスケールが違いすぎるぜ……。
俺、紀文昌也が私立紅葉学園の教師に採用されて二年が過ぎた。
『私立紅葉学園』は、東北人なら知る人ぞ知る、お金持ちの子息令嬢が通う中高一貫校――。
敷地面積は楽天球場二個分。微妙な広さだ。理事長曰く、『セキュリティーを充実させるには設備費がかかるので、これぐらいが妥当』らしい。
仲山団地の麓に位置する学園は、盛土して白石城や青葉城のような城を築いた。
外周は鉄筋の入った高い土塀で囲まれ、監視カメラや電流、他で侵入者をシャットアウト。誘拐、襲撃等の犯罪を未然に防いでいる。警備員が多数配置され、虐めや不純異性交遊を阻止。
校内には生徒が勝手に使用できる空き教室や、生い茂った中庭など存在しない。
やさぐれ科学教諭の寝ているソファーに女生徒が押しかけちゃいました!
なんてファンタジーは、WEB妄想小説だけにしてくれ。生徒に手を出したら教師はクビになり、教師生命と人生が終わってしまう。ブルルル……。
各階にずっと清掃してるおばちゃんがいるだろ? あれは私設警察だ。
彼女たちに連行された生徒は軽くて自宅謹慎、最悪は海外留学という名目の退学になる。親たちは自分のことを棚に上げて、子に品行方正を強いる。すべては家業発展のため。我々教師は青春の茶番劇を演出する駒なのだ。
ハッキリ言って、お金持ちは嫌いじゃない。俺の給料が公務員の二倍なのは、生徒の親が寄付してくれるおかげだ。
生徒たちも、ネトゲ同様ランクがある。
ランクの基準は、親の経済的知名度や財力。
国会議員の大臣クラスの家庭や、グループ企業の役員、世界的に活躍する芸術家一家などはAランク。
県内の大企業の社長クラスや県会議員、地元優良企業の社長などの家庭はBランク。
開業医や個人経営者の金持ち家庭はCランク。
新年度からの編入生は二学年の一名のみ。俺が担任を受け持つ二年三組はBランクの生徒達が集められている。
系列大学にそのまま進学する生徒がほとんどで、受験勉強に必死で取り組む雰囲気は皆無だ。なんせ幼稚園から家庭教師がいるのが当たり前、書道や茶道、英会話や武道の稽古がスケジュールに組み込まれた生活が十年も続けば、中学生になる頃には一人前の紳士淑女が出来上がっているわけだ。
政略結婚が厭だ何だと不良になるドラマがあるけれど、学園の生徒に親の築き上げた地位をみすみすドブに捨てる馬鹿はいない。
見知らぬ他人の嫉妬こそが、己の害であると悟っているのだ。
さて、俺のクラスに編入する生徒の家庭背景を把握しておこうか。
若生星夜、仙台市出身。父親は外資系A○○社CEO。父親のCEO就任に伴い、R学園(世界中のボンボンしか入学できない学校)に入学。高校一年生で高卒認定(大検)合格。
「なんでわざわざ編入して来たんですかね。エスカレーターでの進学を希望してるのかな」
「本人の希望らしいぞ。なんでも、R学園は勉強がハードで学生生活が楽しめなかったとリモート面接で話してたな」
俺の質問に先輩教師が答えた。
「面接だなんて、どうせ形ですよね。親が寄付金出して決まりじゃないですか」
「所詮、学校経営も金儲けの手段だからね」
若生星夜の父親は最高経営責任者になって数年なので、ランクがBなのか。
「若生の父親は一千万円寄付したらしいぞ」
「げげげ。よく息子の我が儘聞いたよな」
「馬鹿。ネットワーク作りに決まってるじゃないか。既に見合い相手も決まってるかもしれない」
「なるほど……」
金持ちネットワークが知りたいとも、そこへ入りたいとも思わない。せいぜい生徒達が楽しい学園生活が送れるように、粛々と職務をこなすだけさ。
「若生星夜です。東京から、小六まで暮らしていた千代に戻ってきました。趣味は庭で海を見ることです。よろしくお願いします」
何だろう。このポヤッとした若者は。しかも、話し方がなまってる。本当にR学園で四年間も過ごしてきたのか。どこにジェントル要素隠してる?
あれか、鷹の子はトンビ……ではなくて雀だったんだな。萩野グループの御曹司と友人らしく、クラスメイト達とも和気あいあいと過ごしていた。
ポキッ。
職員室の席に着いた途端、ボールペンのはんぺんがもげた。
不吉な予感がする……。
「紀文先生、理事長と校長先生が呼んでます」
事務員が迎えに来たところを見ると、よほどの急用らしい。
コンコンコン。ガチャリ。
「失礼します」
「やあ、紀文先生。待ってたよ」
理事長も校長先生が満面の笑みだ。気持ち悪い。ソファーに腰掛けると、校長がファイルを手渡してきた。中身はアラブの衣装を纏った、とある人物の写真だった。
「短期留学を希望している某国の王子だ。なんでも、親友がここに通っているそうだよ。光栄なことだろう」
「ええ。仰るとおりです」
校長のもみ手がうざい。
「紀文先生のクラスに編入するので、よろしく頼みますよ」
「はい……」
海外の短期留学の学費は一千万円以上と噂されている。ぼったくりもいいところだ。日本女性をハーレムに連れて行く気なのか、この王子は。親友……誰のことだろう。
まあいいか。生徒達へは内緒にしておこう。きっとアラブの王子様に大興奮だろうな……。
「はおはようございます。紅葉学園です」
『おはようございます。私、渡辺宗純(わたなべそうじゅん)坊ちゃまの執事、○と申します。坊ちゃまは一週間、風邪でお休みいたします」
「わかりました。どうぞお大事に」
フン。どうせカリブ海へシュノーケリングにでも行くんだろ……。
「紀文先生、グレートバリアリーフですよ。オーストラリア大陸北東海岸です」
「武田先生!」
「ははは。心の声がダダ漏れですよ」
「す、すいません」
「彼らはもう、親の決めた人生のレールに乗ってますからね。気晴らしが必要なんでしょう」
「すぐに夏休みじゃないですか。なんで待てないのかな」
「バカンスは世界中の避暑地をはしごするみたいですよ」
「避暑地のはしご……」
居酒屋のはしごとスケールが違いすぎるぜ……。
俺、紀文昌也が私立紅葉学園の教師に採用されて二年が過ぎた。
『私立紅葉学園』は、東北人なら知る人ぞ知る、お金持ちの子息令嬢が通う中高一貫校――。
敷地面積は楽天球場二個分。微妙な広さだ。理事長曰く、『セキュリティーを充実させるには設備費がかかるので、これぐらいが妥当』らしい。
仲山団地の麓に位置する学園は、盛土して白石城や青葉城のような城を築いた。
外周は鉄筋の入った高い土塀で囲まれ、監視カメラや電流、他で侵入者をシャットアウト。誘拐、襲撃等の犯罪を未然に防いでいる。警備員が多数配置され、虐めや不純異性交遊を阻止。
校内には生徒が勝手に使用できる空き教室や、生い茂った中庭など存在しない。
やさぐれ科学教諭の寝ているソファーに女生徒が押しかけちゃいました!
なんてファンタジーは、WEB妄想小説だけにしてくれ。生徒に手を出したら教師はクビになり、教師生命と人生が終わってしまう。ブルルル……。
各階にずっと清掃してるおばちゃんがいるだろ? あれは私設警察だ。
彼女たちに連行された生徒は軽くて自宅謹慎、最悪は海外留学という名目の退学になる。親たちは自分のことを棚に上げて、子に品行方正を強いる。すべては家業発展のため。我々教師は青春の茶番劇を演出する駒なのだ。
ハッキリ言って、お金持ちは嫌いじゃない。俺の給料が公務員の二倍なのは、生徒の親が寄付してくれるおかげだ。
生徒たちも、ネトゲ同様ランクがある。
ランクの基準は、親の経済的知名度や財力。
国会議員の大臣クラスの家庭や、グループ企業の役員、世界的に活躍する芸術家一家などはAランク。
県内の大企業の社長クラスや県会議員、地元優良企業の社長などの家庭はBランク。
開業医や個人経営者の金持ち家庭はCランク。
新年度からの編入生は二学年の一名のみ。俺が担任を受け持つ二年三組はBランクの生徒達が集められている。
系列大学にそのまま進学する生徒がほとんどで、受験勉強に必死で取り組む雰囲気は皆無だ。なんせ幼稚園から家庭教師がいるのが当たり前、書道や茶道、英会話や武道の稽古がスケジュールに組み込まれた生活が十年も続けば、中学生になる頃には一人前の紳士淑女が出来上がっているわけだ。
政略結婚が厭だ何だと不良になるドラマがあるけれど、学園の生徒に親の築き上げた地位をみすみすドブに捨てる馬鹿はいない。
見知らぬ他人の嫉妬こそが、己の害であると悟っているのだ。
さて、俺のクラスに編入する生徒の家庭背景を把握しておこうか。
若生星夜、仙台市出身。父親は外資系A○○社CEO。父親のCEO就任に伴い、R学園(世界中のボンボンしか入学できない学校)に入学。高校一年生で高卒認定(大検)合格。
「なんでわざわざ編入して来たんですかね。エスカレーターでの進学を希望してるのかな」
「本人の希望らしいぞ。なんでも、R学園は勉強がハードで学生生活が楽しめなかったとリモート面接で話してたな」
俺の質問に先輩教師が答えた。
「面接だなんて、どうせ形ですよね。親が寄付金出して決まりじゃないですか」
「所詮、学校経営も金儲けの手段だからね」
若生星夜の父親は最高経営責任者になって数年なので、ランクがBなのか。
「若生の父親は一千万円寄付したらしいぞ」
「げげげ。よく息子の我が儘聞いたよな」
「馬鹿。ネットワーク作りに決まってるじゃないか。既に見合い相手も決まってるかもしれない」
「なるほど……」
金持ちネットワークが知りたいとも、そこへ入りたいとも思わない。せいぜい生徒達が楽しい学園生活が送れるように、粛々と職務をこなすだけさ。
「若生星夜です。東京から、小六まで暮らしていた千代に戻ってきました。趣味は庭で海を見ることです。よろしくお願いします」
何だろう。このポヤッとした若者は。しかも、話し方がなまってる。本当にR学園で四年間も過ごしてきたのか。どこにジェントル要素隠してる?
あれか、鷹の子はトンビ……ではなくて雀だったんだな。萩野グループの御曹司と友人らしく、クラスメイト達とも和気あいあいと過ごしていた。
ポキッ。
職員室の席に着いた途端、ボールペンのはんぺんがもげた。
不吉な予感がする……。
「紀文先生、理事長と校長先生が呼んでます」
事務員が迎えに来たところを見ると、よほどの急用らしい。
コンコンコン。ガチャリ。
「失礼します」
「やあ、紀文先生。待ってたよ」
理事長も校長先生が満面の笑みだ。気持ち悪い。ソファーに腰掛けると、校長がファイルを手渡してきた。中身はアラブの衣装を纏った、とある人物の写真だった。
「短期留学を希望している某国の王子だ。なんでも、親友がここに通っているそうだよ。光栄なことだろう」
「ええ。仰るとおりです」
校長のもみ手がうざい。
「紀文先生のクラスに編入するので、よろしく頼みますよ」
「はい……」
海外の短期留学の学費は一千万円以上と噂されている。ぼったくりもいいところだ。日本女性をハーレムに連れて行く気なのか、この王子は。親友……誰のことだろう。
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