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第一章
【四】エルフ先生のレッスン②
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「……永樹、大丈夫か?」
心地よいテノールが僕の耳をくすぐる。いつの間にか僕は気を失っていたようだ。まぶたを開けると、そこには膝を突いて覗き込んでいるエルフが。頭の中はまだ霧が晴れないけれど、彼の手を借りてソファーから身を起こした。
「【僕はリオンさんが大好きだったんだね……】」
自分の口から、すらすらと異国の言葉が飛び出した。銀髪の麗人は乱れた髪を尖った耳にかけながら、ホッとため息をついた。
「【俺は永樹が生まれたときから知ってる。エルフ語を思い出したかい?】」
「うん……。〔これは龍人の話す言葉?〕」
「〔そうだよ〕【さすがエイジュだ】」
太陽よりも眩しい笑顔が降りてきて、僕の頬にその唇が触れた。
チュ。
ひょえー。キスされた?
「それで、どこまで思い出したのかな、可愛い子?」
可愛い子……十八歳は二百五十歳にとっては赤子同然だ。さっきのは親愛のキスだったのか。ガッカリしている自分がいた。ダメだぞ、永樹。この美麗なるエルフは繁栄のために見合いを望んでいるんだ。僕が好意を寄せても迷惑なだけ。深呼吸して心を静めた。
「広い野原に赤ん坊の僕と母さんがいたんだ……」
僕が頭の中に浮かんだ場所や人々の言葉を伝えると、リオンさんは何度も相づちを打っていた。
「リオンさん、全解除ってなに?」
僕の質問にガックリと肩を落としたリオンさん。ソファーにうつ伏せている年上のエルフが気の毒に見えて、よしよしと頭を撫でてみた。見た目よりもずっと柔らかな銀髪だ。顔を上げた彼はため息をついた。
「残念だが、長や永樹のご両親との約束で、明かすことは出来ないんだ。君自身で思い出して欲しい。ただし、書物の中の疑問には答えるよ」
「そんなぁ~。……あれ?」
リビングから望む庭で、数個の光玉がキラキラと輝いていた。導かれるように僕が窓辺に立つと、ウッドデッキの柱に括り付けられた笹竹が風で揺れた。三メートル余りのそれには赤と白の折り紙で作られた薬玉に和紙の吹き流し、願いを書いた短冊などが飾られている。窓越しに目をこらすと、薬玉や折り鶴にも光玉がくっついていた。その数はざっと二十個余り。
「七夕飾りにキラキラが、めっちゃくっついてる!」
「精霊たちだ。話しかけたら、きっと喜ぶよ」
なんと、精霊は日本にもいるのか。
「こんにちは……」
大きな窓を開けながら、そっと挨拶をした。
カサカサ。カサカサ。
精霊たちは賑やかに薬玉や巾着を揺らしてみせた。まるで僕を歓迎するかのように。
「精霊って、どんな姿なの?」
「とても可愛いよ。でも、長や精霊術師じゃないと意思を通わせることができない」
「そうなのかぁ。残念だな~」
交流は容易ではないと知りガッカリした。それでも、ピンポン球ぐらいの精霊は僕の手や足、ほっぺたに触れてきてくれたので、素直に喜んだ。
「【でもエルフ語と龍人語は思い出したんだ。あとは書けるようになるだけだよ】」
「え……」
文字も書けなきゃいけないのー?
エルフ族の長への挨拶&恩寵ゲットへの道は険しかった。大学の課題もこなさなきゃいけないし、思った以上に僕の夏休みは忙しくなってきたぞ。唯一の癒やしは超絶美丈夫エルフの存在だ。リオンさんの了解を得て、七夕飾りの側に立つ彼を撮影した。
「はい、リオンさんも精霊さんも、笑って~」
心地よいテノールが僕の耳をくすぐる。いつの間にか僕は気を失っていたようだ。まぶたを開けると、そこには膝を突いて覗き込んでいるエルフが。頭の中はまだ霧が晴れないけれど、彼の手を借りてソファーから身を起こした。
「【僕はリオンさんが大好きだったんだね……】」
自分の口から、すらすらと異国の言葉が飛び出した。銀髪の麗人は乱れた髪を尖った耳にかけながら、ホッとため息をついた。
「【俺は永樹が生まれたときから知ってる。エルフ語を思い出したかい?】」
「うん……。〔これは龍人の話す言葉?〕」
「〔そうだよ〕【さすがエイジュだ】」
太陽よりも眩しい笑顔が降りてきて、僕の頬にその唇が触れた。
チュ。
ひょえー。キスされた?
「それで、どこまで思い出したのかな、可愛い子?」
可愛い子……十八歳は二百五十歳にとっては赤子同然だ。さっきのは親愛のキスだったのか。ガッカリしている自分がいた。ダメだぞ、永樹。この美麗なるエルフは繁栄のために見合いを望んでいるんだ。僕が好意を寄せても迷惑なだけ。深呼吸して心を静めた。
「広い野原に赤ん坊の僕と母さんがいたんだ……」
僕が頭の中に浮かんだ場所や人々の言葉を伝えると、リオンさんは何度も相づちを打っていた。
「リオンさん、全解除ってなに?」
僕の質問にガックリと肩を落としたリオンさん。ソファーにうつ伏せている年上のエルフが気の毒に見えて、よしよしと頭を撫でてみた。見た目よりもずっと柔らかな銀髪だ。顔を上げた彼はため息をついた。
「残念だが、長や永樹のご両親との約束で、明かすことは出来ないんだ。君自身で思い出して欲しい。ただし、書物の中の疑問には答えるよ」
「そんなぁ~。……あれ?」
リビングから望む庭で、数個の光玉がキラキラと輝いていた。導かれるように僕が窓辺に立つと、ウッドデッキの柱に括り付けられた笹竹が風で揺れた。三メートル余りのそれには赤と白の折り紙で作られた薬玉に和紙の吹き流し、願いを書いた短冊などが飾られている。窓越しに目をこらすと、薬玉や折り鶴にも光玉がくっついていた。その数はざっと二十個余り。
「七夕飾りにキラキラが、めっちゃくっついてる!」
「精霊たちだ。話しかけたら、きっと喜ぶよ」
なんと、精霊は日本にもいるのか。
「こんにちは……」
大きな窓を開けながら、そっと挨拶をした。
カサカサ。カサカサ。
精霊たちは賑やかに薬玉や巾着を揺らしてみせた。まるで僕を歓迎するかのように。
「精霊って、どんな姿なの?」
「とても可愛いよ。でも、長や精霊術師じゃないと意思を通わせることができない」
「そうなのかぁ。残念だな~」
交流は容易ではないと知りガッカリした。それでも、ピンポン球ぐらいの精霊は僕の手や足、ほっぺたに触れてきてくれたので、素直に喜んだ。
「【でもエルフ語と龍人語は思い出したんだ。あとは書けるようになるだけだよ】」
「え……」
文字も書けなきゃいけないのー?
エルフ族の長への挨拶&恩寵ゲットへの道は険しかった。大学の課題もこなさなきゃいけないし、思った以上に僕の夏休みは忙しくなってきたぞ。唯一の癒やしは超絶美丈夫エルフの存在だ。リオンさんの了解を得て、七夕飾りの側に立つ彼を撮影した。
「はい、リオンさんも精霊さんも、笑って~」
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