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第一章
【四】エルフ先生のレッスン③
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パシャリ。パシャリ。
「永樹、それはカメラなのか?」
「これはスマホだよ」
「空港でその四角い板を耳に当てて会話をしてたが、現代のカメラは電話機能もあるのか」
「電話にカメラやお絵かき機能、計算機や翻訳機もついてるよ。漫画や小説も読めるし、ゲームもできるんだ」
スマホで漫画アプリを起動して見せたら、リオンさんの青い目が丸くなった。
「ほら、これが流行の歌だよ。」
好きな曲を鳴らしてみせた。
「主人公が異世界にいって米を育てるアニメのオープニング曲なんだ」
「もしかして、カセットウオークはもう使わないのか?」
リオンさん。それ昭和のアイテムでしょー。かれこれ四十年以上前の遺物じゃん。
「エルフの国ってスマホとか輸入しないの?」
「電波は通じない場所だから、伝達は手紙やレコーダーだよ。俺は精霊の言霊伝言を使ってる」
「精霊の言霊伝言!」
突然のファンタジーワードにわくわくが止まらない。
「それって、どんなの。電波と同じくらいの速さで伝わるの?」
「一日はかかるかな……っと。あとで教えてあげるから、今は我慢するんだよ」
よしよし、と僕の頭を撫でるエルフ。子供扱いされてら。でも役得なので黙って受け入れた。
「ほら、さっきの写真だよ」
真夏の太陽が銀糸のような髪に降り注いでいる。その立ち姿は神話に出てくる神のようだった。
「あれれ。精霊は写真に写らないんだね」
「存在を知られぬよう、精霊王の加護を受けているからね」
「精霊王……めっちゃファンタジーだぁ」
「永樹は王の存在を信じるかい?」
「うん」
「良い子だ」
チュ。またおでこにチューされたぞ。
「その……僕は十八歳で、日本では成人だよ?」
美麗なるエルフは瞠目していたが、やがて噛みしめるような口調で告げた。
「君がそれを自覚してくれて嬉しいよ」
ピロリン。
「ちょっとごめん」
スマホにメッセージが届いたので開けてみた。
【佐藤:前夜祭の花火合コンのミッションは全滅。七夕見がてらカラオケで反省会すっから、永樹もこいよ!】
「友達がカラオケしようって誘ってきたよ。僕のことハブったくせに、調子いいな~」
【永樹: 親戚が来てるから無理。また今度な】
「ほら、スマホって便利でしょ。そうだ、リオンさんも日本にいる間はスマホを持ってみたら?」
リオンさんは僕に同意するのかと思いきや、首を横に振った。
「オセロからヨーロッパを経由してここに来るまで、ほとんどの人がそれを持っていた。横に家族や恋人がいても、相手じゃなくて四角い機器ばかりを見ていたよ。俺には、その光景が幸せには感じなかった」
僕はその言葉に反論できなかった。スマホのゲームや漫画、友人との出っ歯越しのやり取りは楽しくて、便利で、瞬間的だ。でもリオンさんはそれを幸せとは感じない。
僕は現代で何を見失った?
僕はスマホを毎日数時間もいじって、幸せだったのか?
「永樹、俺が日本へ来るのは多分、百年後だ。君が俺ではなく四角い箱を触っていたいのなら、二百年後になるかもしれない」
衝撃的だった。
「で、でも僕が就職する前に、エルフの国へ行くかも」
「永樹、俺はお見合いで結婚したら、五十年は新婚旅行で故郷には帰らないつもりだ」
自分の寿命さえ定かじゃないのに、永遠の別れを宣告されてしまった。僕は速攻でスマホをソファーにぶん投げた。
「リオンさんといるときは、緊急事態以外スマホを使わないよ!」
「良い子だ」
僕はその時だけ幼子に戻って、眉目秀麗なエルフのおでこにチュを享受した―。
「永樹、それはカメラなのか?」
「これはスマホだよ」
「空港でその四角い板を耳に当てて会話をしてたが、現代のカメラは電話機能もあるのか」
「電話にカメラやお絵かき機能、計算機や翻訳機もついてるよ。漫画や小説も読めるし、ゲームもできるんだ」
スマホで漫画アプリを起動して見せたら、リオンさんの青い目が丸くなった。
「ほら、これが流行の歌だよ。」
好きな曲を鳴らしてみせた。
「主人公が異世界にいって米を育てるアニメのオープニング曲なんだ」
「もしかして、カセットウオークはもう使わないのか?」
リオンさん。それ昭和のアイテムでしょー。かれこれ四十年以上前の遺物じゃん。
「エルフの国ってスマホとか輸入しないの?」
「電波は通じない場所だから、伝達は手紙やレコーダーだよ。俺は精霊の言霊伝言を使ってる」
「精霊の言霊伝言!」
突然のファンタジーワードにわくわくが止まらない。
「それって、どんなの。電波と同じくらいの速さで伝わるの?」
「一日はかかるかな……っと。あとで教えてあげるから、今は我慢するんだよ」
よしよし、と僕の頭を撫でるエルフ。子供扱いされてら。でも役得なので黙って受け入れた。
「ほら、さっきの写真だよ」
真夏の太陽が銀糸のような髪に降り注いでいる。その立ち姿は神話に出てくる神のようだった。
「あれれ。精霊は写真に写らないんだね」
「存在を知られぬよう、精霊王の加護を受けているからね」
「精霊王……めっちゃファンタジーだぁ」
「永樹は王の存在を信じるかい?」
「うん」
「良い子だ」
チュ。またおでこにチューされたぞ。
「その……僕は十八歳で、日本では成人だよ?」
美麗なるエルフは瞠目していたが、やがて噛みしめるような口調で告げた。
「君がそれを自覚してくれて嬉しいよ」
ピロリン。
「ちょっとごめん」
スマホにメッセージが届いたので開けてみた。
【佐藤:前夜祭の花火合コンのミッションは全滅。七夕見がてらカラオケで反省会すっから、永樹もこいよ!】
「友達がカラオケしようって誘ってきたよ。僕のことハブったくせに、調子いいな~」
【永樹: 親戚が来てるから無理。また今度な】
「ほら、スマホって便利でしょ。そうだ、リオンさんも日本にいる間はスマホを持ってみたら?」
リオンさんは僕に同意するのかと思いきや、首を横に振った。
「オセロからヨーロッパを経由してここに来るまで、ほとんどの人がそれを持っていた。横に家族や恋人がいても、相手じゃなくて四角い機器ばかりを見ていたよ。俺には、その光景が幸せには感じなかった」
僕はその言葉に反論できなかった。スマホのゲームや漫画、友人との出っ歯越しのやり取りは楽しくて、便利で、瞬間的だ。でもリオンさんはそれを幸せとは感じない。
僕は現代で何を見失った?
僕はスマホを毎日数時間もいじって、幸せだったのか?
「永樹、俺が日本へ来るのは多分、百年後だ。君が俺ではなく四角い箱を触っていたいのなら、二百年後になるかもしれない」
衝撃的だった。
「で、でも僕が就職する前に、エルフの国へ行くかも」
「永樹、俺はお見合いで結婚したら、五十年は新婚旅行で故郷には帰らないつもりだ」
自分の寿命さえ定かじゃないのに、永遠の別れを宣告されてしまった。僕は速攻でスマホをソファーにぶん投げた。
「リオンさんといるときは、緊急事態以外スマホを使わないよ!」
「良い子だ」
僕はその時だけ幼子に戻って、眉目秀麗なエルフのおでこにチュを享受した―。
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