11 / 15
第一章
【五】エルフの歴史
しおりを挟む
◇◆◇
エルフ創世史
第一章 第一節
遙か昔、精霊王の恩寵で世界樹が生まれました。
世界樹は命の元です。
精霊王は世界樹を守るように、エルフを作りました。
エルフは精霊王の民です。
精霊王は精霊の子らにエルフを助けるように命じました。
精霊に選ばれしエルフは、精霊術師と呼ばれるようになりました。
◇◆◇
「せいれいじゅつし、とよばれるようになりました……」
「完璧だよ、永樹」
大きな手でよしよし、と頭を撫でられた。褒められて嬉しかったし恋心が満たされるので僕は止めない。年齢差232歳かぁ。人間で言うなら、人生を10回以上ループする感じ?
僕には想像つかないや。創世史を読み進めると、エルフは紀元前から世界樹を守り、人間(人族)の進化と共に生きてきたらしい。それに付随して厄難も降りかかった。
人間による、エルフ狩りだ。
「寿命が長く、容姿の衰えないエルフを恐れた人族はエルフを魔女と呼びました。魔女狩りにあったエルフは火で焼かれました……。げぇ、ひどいや」
僕が吐き気をこらえると、リオンさんは銀色の眉を寄せた。
「悲しいことに、人族はエルフを長寿のクスリと称して皮を剥いだり、血を飲んだりした。とはいえ、それは一部の人間だけで、半分くらいは友好的だ」
「日本には人魚伝説があって、人魚の肉を食べると不死になるんだって。もしかして、人魚ってエルフの事かな?」
カッパやキツネ、鬼のあやかし伝説だってある。
「エルフや龍人、獣人全般を指しているのかもしれない。成人の儀をすませれば永樹の世界は一変する。精神が混乱しないように、先輩エルフがこうやって手伝うわけさ」
「どんな風に一変するの?」
「それは続きに書いてあるよ。さあ、読んでみよう」
「はい」
◇◆◇
エルフ創世史
第一章 第二節
エルフの誓い
一、エルフは世界樹の存続を何よりも優先する。
一、エルフは母国語を忘れてはならない。
一、エルフは母国を異国人に場所を教えてはならない。
一、エルフは伴侶及び血族のみ、母国へ連れて行くことが出来る。
誓いを破りし者は母国を追放され、精霊王によって裁かれる――。
◇◆◇
「リオンさんがお見合いでエルフ国の事を聞かれたらどうするの?」
「一応、見合い相手はエルフに縁のある人を紹介してもらうんだよ。相手には事前に秘密保持の精霊契約書を交わしてもらう」
「精霊契約書の内容は?」
「エルフの存在を他人に明かしてはならない。エルフを私利私欲の為に利用してはならない。それを破りし者は――」
「精霊王によって裁かれるの?」
「その通りさ」
リオンさんの笑顔が爽やかすぎて怖い。裁きって具体的にはどんなのだろ。
「私利私欲って、人魚伝説のあれみたいに食べるって事?」
「いや、ここ百年は闇オークションで売られたり、長寿の薬を開発するために人体実験されたりしたエルフがいたよ」
「げげっ」
「まあ、捕まったのは自業自得ではあるんだが。惚れた人族にうっかりエルフだと打ち明けてしまったからね」
「いや、それは100%相手が悪いでしょ!」
人身売買や同意のない人体実験は犯罪だ。
「そのエルフはどうしたの?」
「……エルフは長寿だけど、不死じゃない。逃げおおせた者の物語がその伝記に記されているよ」
青い瞳がコーヒーテーブルに置かれた本に向けられる。
「相手が悪人だって、精霊王やリオンさんはどうやって分かるの?」
「さあ、休憩しよう」
はぐらかされたぞ。とにかく、お見合いは今度の日曜日だ。僕も見合い相手を見極めなくては。
エルフ創世史
第一章 第一節
遙か昔、精霊王の恩寵で世界樹が生まれました。
世界樹は命の元です。
精霊王は世界樹を守るように、エルフを作りました。
エルフは精霊王の民です。
精霊王は精霊の子らにエルフを助けるように命じました。
精霊に選ばれしエルフは、精霊術師と呼ばれるようになりました。
◇◆◇
「せいれいじゅつし、とよばれるようになりました……」
「完璧だよ、永樹」
大きな手でよしよし、と頭を撫でられた。褒められて嬉しかったし恋心が満たされるので僕は止めない。年齢差232歳かぁ。人間で言うなら、人生を10回以上ループする感じ?
僕には想像つかないや。創世史を読み進めると、エルフは紀元前から世界樹を守り、人間(人族)の進化と共に生きてきたらしい。それに付随して厄難も降りかかった。
人間による、エルフ狩りだ。
「寿命が長く、容姿の衰えないエルフを恐れた人族はエルフを魔女と呼びました。魔女狩りにあったエルフは火で焼かれました……。げぇ、ひどいや」
僕が吐き気をこらえると、リオンさんは銀色の眉を寄せた。
「悲しいことに、人族はエルフを長寿のクスリと称して皮を剥いだり、血を飲んだりした。とはいえ、それは一部の人間だけで、半分くらいは友好的だ」
「日本には人魚伝説があって、人魚の肉を食べると不死になるんだって。もしかして、人魚ってエルフの事かな?」
カッパやキツネ、鬼のあやかし伝説だってある。
「エルフや龍人、獣人全般を指しているのかもしれない。成人の儀をすませれば永樹の世界は一変する。精神が混乱しないように、先輩エルフがこうやって手伝うわけさ」
「どんな風に一変するの?」
「それは続きに書いてあるよ。さあ、読んでみよう」
「はい」
◇◆◇
エルフ創世史
第一章 第二節
エルフの誓い
一、エルフは世界樹の存続を何よりも優先する。
一、エルフは母国語を忘れてはならない。
一、エルフは母国を異国人に場所を教えてはならない。
一、エルフは伴侶及び血族のみ、母国へ連れて行くことが出来る。
誓いを破りし者は母国を追放され、精霊王によって裁かれる――。
◇◆◇
「リオンさんがお見合いでエルフ国の事を聞かれたらどうするの?」
「一応、見合い相手はエルフに縁のある人を紹介してもらうんだよ。相手には事前に秘密保持の精霊契約書を交わしてもらう」
「精霊契約書の内容は?」
「エルフの存在を他人に明かしてはならない。エルフを私利私欲の為に利用してはならない。それを破りし者は――」
「精霊王によって裁かれるの?」
「その通りさ」
リオンさんの笑顔が爽やかすぎて怖い。裁きって具体的にはどんなのだろ。
「私利私欲って、人魚伝説のあれみたいに食べるって事?」
「いや、ここ百年は闇オークションで売られたり、長寿の薬を開発するために人体実験されたりしたエルフがいたよ」
「げげっ」
「まあ、捕まったのは自業自得ではあるんだが。惚れた人族にうっかりエルフだと打ち明けてしまったからね」
「いや、それは100%相手が悪いでしょ!」
人身売買や同意のない人体実験は犯罪だ。
「そのエルフはどうしたの?」
「……エルフは長寿だけど、不死じゃない。逃げおおせた者の物語がその伝記に記されているよ」
青い瞳がコーヒーテーブルに置かれた本に向けられる。
「相手が悪人だって、精霊王やリオンさんはどうやって分かるの?」
「さあ、休憩しよう」
はぐらかされたぞ。とにかく、お見合いは今度の日曜日だ。僕も見合い相手を見極めなくては。
11
あなたにおすすめの小説
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる