エルフの求婚

桐乃乱

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第一章

【六】エルフのお見合い、一人目②

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 仙台駅前のメトロポリタン☆ホテルの地下駐車場に車を止めると、母さんが運転席から颯爽と降り立った。僕のリクルートスーツと同じ紺色のワンピースが金髪を一層引き立てている。リオンは渋い光沢を放つグレーのスリーピースとサングラスがビシッと決まって、イケメンレベルがランクアップしていた。まあ、ここはゲーム世界じゃなくて、東北の政令指定都市ですけどね。僕の髪はそのままだけど、結界の付与された黒縁眼鏡をかけてモブ付き添いに徹した。それにしても、レストランの個室に通されたのはいいけれど、リオンの横に母さんの配置はマズいと思うんだよね。

「美男美女が並んだら、相手が嫉妬するかもしれないよ?」
「あらぁ、永樹ったら。お母さんが美人だって褒めてくれるの~?」

 いや、喜んでる場合じゃないでしょ。

凜々花りりかさんの美しさに嫉妬するのなら、可愛い方だよ」
 リオンから意味深発言が飛び出した。
「サングラスを外さないの?」
「精霊契約書をもらったら取るよ」
 なるほど。

 コンコンコン。ガチャリ。
「失礼いたします。お連れさまが到着いたしました」

 給仕の案内で入室してきたのは着物を着た二人の女性と一人の青年だった。仲人らしき中年女性は母さんの友人だった。物心ついた頃からの知り合いは、もしやエルフなのか?
 剣崎のおばさんから封筒を受け取ったリオンが中身を開くと、持っていた紙が光った。

「あれが精霊契約書なの?」
 母さんに尋ねた。

「そうよ。契約が成立したら、もう嘘や誤魔化しは通用しなくなるの」
「それを承知でエルフと見合いするなんて、度胸あるなぁ」

 精霊契約書は光を放った後、消えてしまった。リオンがサングラスを外すと、端正な顔立ちに僕と見合い相手が息を飲んだ。

「くそっ。ツバメよりイケメンじゃないの。あいつらクビよ」
「百合子!」
 テーブルの向こう側で、青年が女性の口を手でふさいだ。リオンと母さんのこめかみがピクピクしている。

「ゴホン。それでは両家の紹介を……」
 仲人の朗らかな口調でリオンの紹介が始まった。剣崎さんに動揺の色はない。おばさん、さすがだぜ。僕はその間、裁判官よろしく見合い相手の査定に入った。
 振袖姿をした女性の年齢は推定二十五歳。清楚なメイクで装っているけれど、吊り目気味の二重は勝ち気さを宿している。笑顔は己の美貌を自覚しているそれだった。

「……百合子さんはお隣に座っているお兄さまと一緒にコンサルティング会社を経営していて……」
 なるほど。やり手起業家ブラザーズなんだね。顔が瓜二つの兄は二卵性の双子らしい。

「百合子さんのご趣味は?」

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