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第2章 二人の誤算
迫り来る期日 v(Selina)
しおりを挟むまるで秘密基地のようにひっそりと森に佇むのは可愛らしい自然素材の家。
その入り口の前で降ろされてから、この建物の用途や目的などいろいろ説明をウィリアムが聞かせてくれた。
中に入った途端に梟さんや蝙蝠さんなど、図鑑でしか見たことがないような動物たちに出迎えられた時は驚いてしまったけど……どの子もみんなウィルの家族、あるいは友人みたいなものだと思うから、怖がる必要は全くない。
むしろ、仲良くしてくださいとこちらから謹んでお願いしたいくらいである。
だってきっと、いざという時にウィリアムを助けられるのは、私なんかよりもずっと能力の高い彼らだと思うから。
(あそこにいるのは蛇ではないかしら!? あんなに大きい……凄い…凄いわ)
確か蛇は変温動物で、暑さや寒さに弱いのではなかったか。
ウィリアムは〝仕方なく〟といったニュアンスで話していたけれど、本当はそういった動物たちを守るためにここを建てたのかもしれない。
「待ってて。すぐ火をいれるから」
そう言い残して暗闇に姿を隠すウィリアム。多分だけど、隣の部屋かどこかに薪を取りに行ったみたいだった。
私は一つしかないベッドの端に腰掛けさせてもらいながら、小型のランプでは照らしきれない薄暗い部屋をじっくりと見渡した。
装飾が一切ないこの部屋は、素朴でとても慎ましい。木の香りに溢れていて、それが不思議と心を落ち着かせてくれる。本邸の庭にあるお気に入りのあの木で過ごした時の香りや肌触りを思い出させるからかもしれない。
その時、どこからかフシューっと空気が抜けるような不思議な音がした。目を凝らして見渡すと、いつの間にか入り口脇に隠れるようにしていたはずのヘビさんが私の足元に来ていてちょっと驚く。
「こんばんは。お休みのところを邪魔しちゃって、ごめんなさい」
ウィリアムみたいに動物の言葉が理解できるわけじゃないけれど、一方的に話しかけることはできるのでそう挨拶した。でもふと思う、蛇って耳が聞こえないのではなかったかしら。
またまたシューッという音がして、それがヘビさんの声なのではないかと思った。聞こえていなくとも、なんだか通じているような気分になる。
「私はセリーナというの。ウィリアムの幼馴染で、婚約者よ。あなたに会うのは初めてよね? これからどうぞよろしくね」
今度はシュワーッという掠れた音がして、くりっとした大きな目と視線が絡まったような気がした。
了承を得た……のだろうか。犬や猫と違って判断が難しい。
もしも、あんたなんかウィルには相応しくないとか、仲良くするなんて御免だとか思われていたらどうしましょう……
よく考えたら、ウィリアムと結婚したら私には、ものすごく沢山の小舅や小姑ができるようなものなのでは……気に入っていただけるように努力せねば。
内心でハラハラしていると、足元のヘビさんがするりと足に巻きついて這い上がり、私の膝上でとぐろを巻いて鎮座する。
(こ、これは……嫌われてない、わよね?)
ドキドキしながらそーっと体を撫でてみると、ぺろぺろっと細長くて先端が二股になっている舌で手の甲を舐められる。
何度か優しく撫でていると綺麗な鱗が瞬いた。ランプの光が反射したのだろうか……不思議な明滅だった。
ウィリアムが戻ってきて、暖炉に火をつけてくれた。じわじわと炎が燃え広がり、部屋が暖かな明かりに包まれていく。
そうして振り返ったウィリアムが、私を見て驚愕したように目を見開いて絶句した。
「…………な、なにやってんだよお前!」
そんな風に呼ばれたのも怒鳴られたのも初めてで、私はかなり驚いた。思わずヘビさんを撫でていた手を止めて、息も止めたくらいだった。
近付いたウィリアムが、怒ったような仕草で私の手をどける……のではなくて、膝上のヘビさんを摘み上げてベッドに放り投げる。
「え?」
「僕のセリーナに勝手に触るな!」
ウィリアムに怒鳴られて、ヘビさんがすごすごと引き下がっていく……去り際にシャーッと、何か吐き捨てるような感じがしたのは気のせいかしら。動作が人間っぽくて面白い。
「セリーナ、駄目だから。あいつオスだから!」
やけに必死に言い聞かせるものだから、私は思わず笑ってしまった。
さりげなく〝僕のセリーナ〟と呼ばれて……喜んでしまったのは内緒だ。手紙で読むのとは全然違うなと、くすぐったい気持ちだった。
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