秘密の花園エッセンス 〜異能青年は花嫁と踊る〜

文月・F・アキオ

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第2章 二人の誤算

迫り来る期日 viii(William)※

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 セリーナの泣きの混じった訴えに、ウィリアムはハッとなって身を起こす。たった今まで押さえつけるようにして抱えていた彼女の足に自分の手跡が赤く残っているのを見て焦ったところに、ぽろぽろと涙をこぼす姿を目にしてしまい、一気に頭が冷えて顔色がぐんぐん青ざめていく。

「……っ、ごめん! リーナ、ごめん。痛かったか?」

 ウィリアムはセリーナを抱き起こし、なだめるように手のひらで顔を包んで覗き込んだ。

「ち、ちがっ……も、いやで……」
「いや? なにが……どこが嫌だった?」

 セリーナはふるふる何度も首を振って否定する。どうやら本気で嫌がられてしまったらしい……
 その事実ことにかなりの衝撃を受け、きりきりと胸が痛むのと同時に絶望感がじわじわとウィリアムに忍び寄ってくる。


「ぎゅって……してって。いったのにぃ……うっ、なんで……むしするのよぉ……」

 泣きながら怒って訴える内容の可愛らしさに、一気に痛みは拡散した。
 今度は喜びで胸が侵されていく。

「悪かったよ。リーナを可愛がるのに夢中だった……無視したつもりはなかったんだ。ごめん、リーナ……ほら、おいで」


 ウィリアムはセリーナの望み通りに彼女をぎゅっと抱きしめる。そして滅多に泣かない彼女の目元に口付けて、涙のあとをツーっと舐めとった。
 見上げてきた彼女の表情は、目や口元が濡れていて……その下から覗く二つの乳房や赤く色付いて勃ち上がった先端との対比コントラストに打撃を受けて、素直な身体が疼いている。


「ひとりは、いや……」
「うん……」
「わたしばっかりもいや……」
「うん」
「ウィルにさわれないのもいや……」
「わかった」
「……ほんとにわかってる?」
「今度はリーナが僕を可愛がってくれるんだろ?」
「……」
「大丈夫、もう置いていかない。だから許してほしい」
「……ちゃんとギューってさせてくれないと許さない」


 調子を取り戻してきたセリーナが自分の下着コルセットを整えて、胸を隠すと今度はウィリアムの衣服に取り掛かる。上着を脱がし、その下の着衣を乱していく。ボタンを外して紐を解き、中のシャツにも手を付ける。
 首から下の腹部まで大胆に開かれていき、上半身の前身頃がほとんどが無くなった体裁にウィリアムの緊張は高まった。

 セリーナの温かくて細い手が胸元をくすぐるように這い、背中に回って抱きしめる。
 それにならってウィリアムもセリーナの背に腕を回していると、セリーナとしては抱きしめているつもりでも、見た目はどうしても抱かれてるていになるのだった。

 ぺたぺたと確かめるような動きで脇から背にかけての広範囲を撫でられて、ウィリアムが訝しんでいると……


「ウィル……少し太った?」
「え?」
「んん?? やっぱり痩せた…?」
「ど、どっちだ……?」
「なんだか前より引き締まったような、厚みが増したような……気のせいかしら?」
「あぁ、そういうことか……」


 ウィリアムはそこでようやく心当たりに気が付いた。例の地獄の訓練である。
 仮にも十代の若い身体を持つ彼は、自分で思う以上に打てば響く体質で、この一月で随分と体が作られた。
 もともと人並みに筋力はあったが、それはあくまで貴族としての嗜み程度の運動が作り上げたものである。文人としては並み以上でも、武人のそれには及ばない。
 そこを今回の特殊訓練研修たたかれたのだった。


「研修に、体力作りの鍛錬トレーニングが含まれてるんだ……そのせいだと思う。でもリーナは、前の僕の方が良かったか?」
「私は、ウィルならどんな姿でも好きだけれど……そうね、基礎体力が増えるのは良いことなのではないかしら。ウィルはおじ様みたいになりたいの?」
「あー、それはどうかな……体質的に僕は父ほど逞しくはなれないと思うけど、そもそもなりたくないというか……」



 ウィリアムの父であるスタンレー伯爵は、無口で無愛想で屈強な戦士のような見た目の努力家だが、家庭では泣いて妻に縋ることの多い、子煩悩な愛書家だった。
 自分たち兄弟を必要以上に厳しく躾けたのも、つまの夢を叶える上での副産物的な流れであったとウィリアムは聞いていた。
 外での硬派な姿とは随分かけ離れた人なのである。そんな内外での落差が激しい父親みたいになりたいかというと、答えは絶対にノーだった。

 ウィリアムはセリーナが自慢に思うような、均整のとれた愛妻家になりたかった。目指すとしたら、魅力的なセリーナに似合う、妻を虜にするおとこだろう。

 年中くだらないことで喧嘩をして泣き喚き、ははに「暑苦しい!」「鬱陶しいわ!」などと詰られているちちではなく。


 そこまで考えてからウィリアムは、ふと彼女セリーナに詰られるのはどんな気分だろうかと考える。

 先程、本気で嫌がられたと思った時には氷結しそうになったが、泣きながら怒った姿は悶絶するほど愛らしかった。あんな感じで愛ゆえに詰られるのだったら……それはとても心地よいものかもしれない。


 ということは父母のあのやり取りも、愛情の裏返しなのか。
 確かに喧嘩したあとの父はいつも異様に機嫌が良かったが……
 なるほどそういう理由だったのか――

 ウィリアムはそんな風に得心した。


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