秘密の花園エッセンス 〜異能青年は花嫁と踊る〜

文月・F・アキオ

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第3章 二人の覚悟

匂い立つ記憶 ii(Selina)

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 王都の観光名所の一つである森林公園ラグリアガーデンにウィリアムと私はやってきた。
 ここは乗馬が楽しめるほど広いことで有名で、草原を囲む奥の森は王族のための離宮に続いていると言う。賑やかな街からそれほど離れていないにも関わらず、緑豊かな場所だった。
 様々な趣向を凝らした庭園もいくつかあるけれど、剥き出しの自然そのままの場所が多くあるらしい。目的の場所に近づくにつれて整備された道ではなくなって、なるほどなと実感していた。

 公園ガーデン内で唯一の水場である小さな湖にやってきてみると、冷んやりとした清浄な空気を感じる――まさに森林もりにいるような雰囲気だった。
 湖にはところどころ薄く氷の張ったところが残っていて、水はかなり冷たそうだけれど、今日も日差しはとても暖かい。ピクニック日和だと私は思う。

 布を敷き、ふたりで並んで腰を下ろす。
 踏みしめていた時から地面の沈み込むような反発を感じていたけれど、実際に座ってみてその柔らかさに驚いた。まるで厚手の毛織り物を敷いた上にいるような感触だった。水分が多いということだろうか……これならいつまででも居座れそうである。

 今日が年明け初日新年だからなのか、それともまだ午前中でもうすぐお昼時だからなのか……周囲には私たち以外の人はいない。
 こんなに広々とした自然をウィリアムと二人で貸し切りにしている現状ことに胸が躍っていた。

「誰もいないみたいね」

 目の前の光景を独占している喜びから、純粋に〝良かったわね〟という意味合いで、私は彼に声をかけたのだが……

「……そうだな」

 返事をくれたウィリアムは、なぜだか不満そうな声色だった。なんでそんなことを言うの?という呆れを含んでいるようにも見える。
 私は少し驚いて、自然と瞬きが多くなった。

 はぁ、と見せつけるように溜め息をついたウィリアムが、恨めしそうに私を覗き込んでくる。
 片膝を立てて抱えていた足を伸ばすと腕を回してきて、私の脇の下を持って抱き上げる――
 ウィリアムの両腿の上に乗せられて、腕の中に閉じ込められるままに背を預け、彼の胸に凭れていく……完全に力を抜いて体重を預けると、お尻の下にある感触に気が付いた。
 ドキッとして身じろぐと、ますますそれは反応してしまって固まる。どうやら余計なことをして(言って?)しまったらしい。

「…………」
「一応ここは公共の場所だからな……」

 今は誰もいなくとも、私有地と違って安全の保証はない。〝ここではしない〟と言うより〝できない〟から、あえて言わずにいたことにわざわざ触れて刺激しないで欲しい……そういう思想を受け取って、嬉しいような気恥ずかしいような熱量に包まれた。

 ウィリアムがそういう気分になると仄めかした……そうなる原因はここが実家の庭に似ているからだろうか。それとも私が近くにいるせいなのか、無人まわりの環境がそうさせるのか。
 気持ちが切り替わる原動力きっかけとなるようなものが、おそらく男女で異なるように、ウィリアムに指摘されて初めて――ではなく改めて、自分も〝それ〟を意識した。

 そうなる覚悟はとっくに決まっていた。
 けれどさすがに〝今ここで〟というのはないと思っていた。贅沢を言うつもりはないけれどできれば普通の初夜らしく……せめて温かい室内で落ち着いて、誰もいない場所であってほしい。
 その他にも具体的な希望を頭の中で考え並べていると意外と条件が多いことに気付く。どうやら自分で思っていたよりも〝初めて〟の局面に対して夢を持っていたらしい。
 今更それを彼に伝える気はないけれど、思いがけない発見だった。



 そうすると互いにますます具合いが悪くなるのだが、考えることを止められないセリーナだった。



(はっ、私ったら……)

 ウィリアムの言うように、ここでは抑えていなければ……
 さざなみのように押し寄せる期待を鎮めるため、私は話題を切り替えることにした。先ほど感じた地面の感触やわらかさについて疑問を述べるのは不適当だと思われるので、気が紛れるような別の欲求を満たすというのはどうだろう。


「ウィルはおなか空いてる?」
「いや、それほどでもない。今はリーナを食べたくて我慢してる」

 機転を利かせたつもりの言動だったのに、彼の手によってあっけなく振り払われてしまった。
 むむむ…と抗議の唸り声をあげると、ウィリアムがそれを愉快そうに笑う。


 湖の周囲に目立った草花は生えていない。人工的なものもない。
 殺風景と言えなくもない景色だが、湖面の中央に映っている空は鮮やかで、きらきらと水面に反射する陽の光が眩しくて……とても、美しいと思う。

 日差しはあっても風は無く、背中を包み込まれているおかげでさらに寒さを感じにくくなっていた。

 気を抜くと眠ってしまいそうなほど穏やかな湖畔。
 頭上に落とされるウィリアムの少し低い声が、触れている場所から心地よい波動となって私の体に響いていく……

あえて何もしないで過ごす――とても贅沢な時間だった。

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