5 / 65
聖女は追放されて、幸せになりました・・・でも。
聖女の追放
しおりを挟む
聖女ケイは唖然とした。唖然としていたのは、彼女だけではなく、彼女の周辺の聖職者、教会及び修道院騎士団幹部も同様だった。リツシウン王国ウスイが、国の主要貴族、宰相、元帥、議会議長、元老院議長、高等法院裁判長以下政府・軍幹部の居並ぶ王宮の大広間で、
「聖女ケイ殿。私は真に愛する者と結婚することにした。よって、あなたとの婚約は破棄する。同時に、あなたが偽聖女ということも判明した。君と君の聖女教会の関係者ともども追放する。できる限り速やかに、わが国から立ち去ることを命じる。」
とその玉座から宣言したからである。
その日、国王ウスイは、魔族討伐の遠征から帰還した。聖女の聖結界で国は、魔族、魔王、魔獣、魔樹の脅威から守られているとは言え、聖結界のほころびの場所は常にあり、わずかばかりでも魔獣、魔族の侵入が発生し、それを撃退するために軍が出動することは度々ある。さらに、地形などの影響により聖結界が十分でないところもあり、そこに居住する国民を守るために軍を出動させる必要がある。ただ、今回は異端の再洗礼派教会の信徒だけが居住している地域であるため、聖結界で守ることが許されないのだが、魔族の軍が侵攻してきて、彼らを守るために、国王ウスイ自ら陣頭指揮で、遠征して、魔族の軍を撃退して帰還したのである。
事前に聖女ケイには、
「国王が聖女との結婚を発表する。」
という話が伝えられていた。公式非公式に国王ウスイが口にしたものではなく、聖職者達が推測で聖女ケイに言ったものであるが。それだけ当然のことのように思っていたのである、三位一体教会関係者は。
聖女の傍らに立つ大司教は、安心したような表情だった。国王ウスイは、1年ほど前に即位したが、それまでの間、度々王太子の座をはく奪され、辺境の砦に幽閉のような生活を強いられていた。性格、知能にも問題があるとさえ思われたりした。その彼を常に助け、彼の素直で優しい性格や才能を見出し、かつ友好的な関係を、彼は築いてきた。彼と聖女が結ばれて、国が万全となることを信じ、その日が来ることに安心していた。
聖女ケイと国王ウスイの関係は悪くはない、というより関係はよかった。他の女の影はなく、彼は聖女に優しく対応していた。聖女ケイは、彼に悪い感情は持っていなかった。
リツシウン王国は、数代前の国王が、聖女、三位一体教会の聖女を受け入れた。それまで、魔族との戦いに、その侵攻の撃退に明け暮れていた。その聖女は、聖結界を国の周囲に張り、魔族の大々的な侵攻は、その後絶えることになった。それ以前にも聖女といえる存在はいたが、やってきた聖女の力はあまりにも絶対的だった。国王をはじめ王族は、異端の再洗礼派から、正統な信仰である三位一体教会に改宗した。
ケイの先代の聖女は、先代の国王と結婚した。その余波を食らった一人がウスイだった。なかなか子供が生まれなかったことで、国王の甥である彼は王太子になった。が、聖女に子供が生まれると王太子から降ろされ、辺境に半ば幽閉された。ただ、聖女の産んだ子供は早く死に、彼は王太子に復帰、それが再度くりかえされた。また、性格的にも、知能にも問題があるとされた。それも、ケイとの婚約が決まった時には、全てが好転していた。ケイには優しい王太子だった。国王の突然の死とともに、国王に即位。慌ただしい政務等で聖女の地位、職務を引き継いだケイとの結婚はのびのびにされていた。それも、終わりの始まりとなるはずだった。だったのである。
彼が幽閉を繰り返すことになったのは、先代聖女のためといえる。彼女は、自分の子供を王位につけたかった。だからといって、彼女が悪辣な女というわけではない。彼女の気持ちは誰しも理解できたし、三位一体教会の教えを盤石にしたいという使命感からのものであったし、彼女の周囲、後ろに控えていた者達の意図でもあった。決して彼を殺そうとしなかっただけでも、彼女が優しい女性だったということができるほどだ。実際、彼女は自分の行為に悩んでいたのである。
三位一体教会の教皇が、聖都に招かれたウスイに、まだ子供だった、彼が特に知能に問題があるとされた事例の一つについて尋ねた。それは、雲に対する詩で、雲の自由さを歌った詩て、恋愛中の詩だと作者自身が言っているにも関わらず、彼は頑として失恋している詩だとして譲らなかった。彼はつたない言葉で、
「人間、とかく幸福な時には周囲は見えないものです。悲しい時にこそ、あたりまうに思っていることが、素晴らしいことに、今まで気が付いていなかったことに気が付くものだと思います。」
と答えたという。教皇は、その彼の説明をどうして誰にもしなかったのかと問うと、彼は、
「誰も聞こうとしなかったのです。」
と答えた。教皇は、彼が独特の考え方をすることに、かえって感心し、かの高名な老師に彼の世話を依頼した。はじめは、王家のことに入り込むことを嫌った老師も、彼に触れるにつれ、彼の才能を見つけ、評価し、親身に世話をするようになった。その後も幽閉になった彼のために尽力したのは、教皇であり、老師だった。今、彼があるのは三位一体教会の教皇のおかげである。
それに何よりも、一度は目の前で幽閉になる姿を見ながら、一度として彼への好意を失わなかった聖女ケイのおかげでもある。
そのような彼が、まさか、この日、このような恩をあだで返すことをしようなどとは、誰も考えてはいなかったのである。三位一体教会、聖女周辺の者達にとっては。
「聖女ケイ殿。私は真に愛する者と結婚することにした。よって、あなたとの婚約は破棄する。同時に、あなたが偽聖女ということも判明した。君と君の聖女教会の関係者ともども追放する。できる限り速やかに、わが国から立ち去ることを命じる。」
とその玉座から宣言したからである。
その日、国王ウスイは、魔族討伐の遠征から帰還した。聖女の聖結界で国は、魔族、魔王、魔獣、魔樹の脅威から守られているとは言え、聖結界のほころびの場所は常にあり、わずかばかりでも魔獣、魔族の侵入が発生し、それを撃退するために軍が出動することは度々ある。さらに、地形などの影響により聖結界が十分でないところもあり、そこに居住する国民を守るために軍を出動させる必要がある。ただ、今回は異端の再洗礼派教会の信徒だけが居住している地域であるため、聖結界で守ることが許されないのだが、魔族の軍が侵攻してきて、彼らを守るために、国王ウスイ自ら陣頭指揮で、遠征して、魔族の軍を撃退して帰還したのである。
事前に聖女ケイには、
「国王が聖女との結婚を発表する。」
という話が伝えられていた。公式非公式に国王ウスイが口にしたものではなく、聖職者達が推測で聖女ケイに言ったものであるが。それだけ当然のことのように思っていたのである、三位一体教会関係者は。
聖女の傍らに立つ大司教は、安心したような表情だった。国王ウスイは、1年ほど前に即位したが、それまでの間、度々王太子の座をはく奪され、辺境の砦に幽閉のような生活を強いられていた。性格、知能にも問題があるとさえ思われたりした。その彼を常に助け、彼の素直で優しい性格や才能を見出し、かつ友好的な関係を、彼は築いてきた。彼と聖女が結ばれて、国が万全となることを信じ、その日が来ることに安心していた。
聖女ケイと国王ウスイの関係は悪くはない、というより関係はよかった。他の女の影はなく、彼は聖女に優しく対応していた。聖女ケイは、彼に悪い感情は持っていなかった。
リツシウン王国は、数代前の国王が、聖女、三位一体教会の聖女を受け入れた。それまで、魔族との戦いに、その侵攻の撃退に明け暮れていた。その聖女は、聖結界を国の周囲に張り、魔族の大々的な侵攻は、その後絶えることになった。それ以前にも聖女といえる存在はいたが、やってきた聖女の力はあまりにも絶対的だった。国王をはじめ王族は、異端の再洗礼派から、正統な信仰である三位一体教会に改宗した。
ケイの先代の聖女は、先代の国王と結婚した。その余波を食らった一人がウスイだった。なかなか子供が生まれなかったことで、国王の甥である彼は王太子になった。が、聖女に子供が生まれると王太子から降ろされ、辺境に半ば幽閉された。ただ、聖女の産んだ子供は早く死に、彼は王太子に復帰、それが再度くりかえされた。また、性格的にも、知能にも問題があるとされた。それも、ケイとの婚約が決まった時には、全てが好転していた。ケイには優しい王太子だった。国王の突然の死とともに、国王に即位。慌ただしい政務等で聖女の地位、職務を引き継いだケイとの結婚はのびのびにされていた。それも、終わりの始まりとなるはずだった。だったのである。
彼が幽閉を繰り返すことになったのは、先代聖女のためといえる。彼女は、自分の子供を王位につけたかった。だからといって、彼女が悪辣な女というわけではない。彼女の気持ちは誰しも理解できたし、三位一体教会の教えを盤石にしたいという使命感からのものであったし、彼女の周囲、後ろに控えていた者達の意図でもあった。決して彼を殺そうとしなかっただけでも、彼女が優しい女性だったということができるほどだ。実際、彼女は自分の行為に悩んでいたのである。
三位一体教会の教皇が、聖都に招かれたウスイに、まだ子供だった、彼が特に知能に問題があるとされた事例の一つについて尋ねた。それは、雲に対する詩で、雲の自由さを歌った詩て、恋愛中の詩だと作者自身が言っているにも関わらず、彼は頑として失恋している詩だとして譲らなかった。彼はつたない言葉で、
「人間、とかく幸福な時には周囲は見えないものです。悲しい時にこそ、あたりまうに思っていることが、素晴らしいことに、今まで気が付いていなかったことに気が付くものだと思います。」
と答えたという。教皇は、その彼の説明をどうして誰にもしなかったのかと問うと、彼は、
「誰も聞こうとしなかったのです。」
と答えた。教皇は、彼が独特の考え方をすることに、かえって感心し、かの高名な老師に彼の世話を依頼した。はじめは、王家のことに入り込むことを嫌った老師も、彼に触れるにつれ、彼の才能を見つけ、評価し、親身に世話をするようになった。その後も幽閉になった彼のために尽力したのは、教皇であり、老師だった。今、彼があるのは三位一体教会の教皇のおかげである。
それに何よりも、一度は目の前で幽閉になる姿を見ながら、一度として彼への好意を失わなかった聖女ケイのおかげでもある。
そのような彼が、まさか、この日、このような恩をあだで返すことをしようなどとは、誰も考えてはいなかったのである。三位一体教会、聖女周辺の者達にとっては。
0
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる