29 / 65
開戦
兵力は7万人
しおりを挟む
「できるだけ早く国境に進軍させなければならない。1日でも長く、居座られては、国のためにも、民のためにもならないからな。」
王太子は、王都に集結した各国軍約7万人を、王宮の一番高い塔の最上階から見下ろしながら、いまいましそうに言った。兵力4万人と言っても、その後方支援の人数、馬にはそれを世話する者達も必要等々で、その倍以上の人間がいる。それだけの人間が飲み食い分を確保し、排出するものを処理するのは大変なことである。各国の軍は戦いよりベットの上で1日も長く過ごしたいから、王都に腰を落ち着かせたいのである。そんなことはさせられるものか、と彼は思っていた。ニコやかに迎えながら、心の中では早く出ていけと、彼は苦々しく思い、策略を実施していた。それは、国のトップとして当然のことであった。
それはともかく、対リツシユン王国十字軍の兵力は10万人を超えた。しかも、それだけではない。なんと、三位一体教会と敵対する聖典唯一教会派、運命論教会派の諸国も、兵を送ってきた。もちろん加わるのではなく、その海軍を派遣したり、彼らの国とリツシユン王国との国境に兵を集結させて牽制し、機会をうかがい、いつでも侵攻するよう構えをみせていた。その数は3万弱。これを合わせると13万人近くの兵力が、リツシユン王国への侵攻をするということになる。正式に、公式に、表立っての協力をするわけではなく、公表することではないが、内々には交渉した結果なのである。
これに、リツシユン王国内の三位一体教会信徒の多い領地を持つ貴族のかなりの部分、そして同様に三位一体教会信徒の多い都市は、秘かに対リツシユン王国十字軍に加わることを打診してきていた。彼らの中の幾人かは、リツシユン王国内に残り、防御線や兵力、その配置の情報を流していた。ただし、あくまでもリツシユン王家に忠義を尽くそうとする者も多かったため、期待するほどの数は対リツシユン王国十字軍に加わらなかった。
一方、リツシユン王国側は、防御に徹する方向だった。各地に城塞が建設され、野戦陣地が築いた。銃砲とそれに必要な火薬、銃砲弾を中心にした戦備の製造、配備が進められていた。兵の動員、糧食の徴発も進められていた。タイカーン国魔王であるツチイ率いる軍も、ウスイの率いる本隊に合流していた。
魔界には、以外に人間界の事情に通じている部族がいて、今が好機と他の部族を糾合して、タイカーン国、人間界への侵攻を準備していたため、ウスイは勇者達をそちらに配置して、タイカーン国と提携している部族の軍に合流させて、対応していた。やはり、彼らは同胞との戦いは躊躇するところだったためだし、少ない人数で効果があった、実際の戦力にも、士気の上でも。
とはいえ、三位一体教会信徒の知識人たちは、聖典唯一主義教会等と事実上の共闘になっている、この戦争に大義はないと反対する者もいたが、それはほとんど無視された。
「聖女様。この戦争を止めていただけないでしようか?」
ケイにまで、懇願する者がシュン王国内にも何人かいた。
「先生たちは、聖女様がかの男から、再洗礼派教会信徒達からどのような扱いを受けたか、ご存じのはずです。そのようなことを、聖女様にこのようなことを。」
第三王子は、その美しい顔を本当に怒りで真っ赤になり、彼らに抗議した。その姿に嬉しそうな視線を向けつつも、
「私も、多くの人々が戦いに巻き込まれて傷つき、倒れることを望んでいません。このようなことになり悲しく思っています。しかし、もう私にはどうしようもないのです。私は、戦争が終わることに、自分の恨みから反対するつもりはまったくありません。」
と答えた。それには、嘘偽り、虚飾はなかった。それでも、ウスイと彼の傍らに立ち女魔王ツチイが八つ裂きにされることを強く願う自分がいることに、心を痛めるとともに、快感をも感じていた。"全てあいつが悪いのよ。"それも彼女の本心だったし、再洗礼派教会信徒への同情心はないことはなかったが、それは薄かった、それが彼らのことを、彼らの幸せを神に祈ることも忘れていなかったのであるが。
戦争は回避した方がずっといい、とも本心から思っていた。同時に、
「私も従軍いたしますから。」
とはっきり宣言もした。
「魔族を、魔王を排除するのが、聖女の務めですから。」
「そ、それはそうだけど・・・。」
夫である第三王子サラギは、その美しい顔を本当に心配そうにして言い淀んだ。
「君の気持ちはよくわかるよ、あのような仕打ちをうけたのだから・・・でも・・・その、やっぱりあの男のことが・・・やっぱり・・・。」
「は?」
「だって、奴の昔の話になると、懐かしそうに、とても優しい人だったとか・・・。」
不満そうな、いじけるような表情で、口調だった。"私って・・・こんな優しい、すばらしい夫を苦しめていたの?"実際は、そのとおりなのだが、彼女の関係者の話でも、ウスイが彼女にやさしく接していたか、2人の仲がよかったとかという話をよく聞かされていたからでもある。もちろん、最後は、あのようなことをする男だったとは・・・に落ち着くのであるが。
「もう~、私がこんなにもあなたを愛しておりますのが、お分りにならないのですか~?」
と普段の清楚で品格のある、威厳のある、神神しい雰囲気が一転して、可愛い、拗ねた雰囲気を出して彼を抱きしめた。サラギも、それには勝てなかった。
王太子は、王都に集結した各国軍約7万人を、王宮の一番高い塔の最上階から見下ろしながら、いまいましそうに言った。兵力4万人と言っても、その後方支援の人数、馬にはそれを世話する者達も必要等々で、その倍以上の人間がいる。それだけの人間が飲み食い分を確保し、排出するものを処理するのは大変なことである。各国の軍は戦いよりベットの上で1日も長く過ごしたいから、王都に腰を落ち着かせたいのである。そんなことはさせられるものか、と彼は思っていた。ニコやかに迎えながら、心の中では早く出ていけと、彼は苦々しく思い、策略を実施していた。それは、国のトップとして当然のことであった。
それはともかく、対リツシユン王国十字軍の兵力は10万人を超えた。しかも、それだけではない。なんと、三位一体教会と敵対する聖典唯一教会派、運命論教会派の諸国も、兵を送ってきた。もちろん加わるのではなく、その海軍を派遣したり、彼らの国とリツシユン王国との国境に兵を集結させて牽制し、機会をうかがい、いつでも侵攻するよう構えをみせていた。その数は3万弱。これを合わせると13万人近くの兵力が、リツシユン王国への侵攻をするということになる。正式に、公式に、表立っての協力をするわけではなく、公表することではないが、内々には交渉した結果なのである。
これに、リツシユン王国内の三位一体教会信徒の多い領地を持つ貴族のかなりの部分、そして同様に三位一体教会信徒の多い都市は、秘かに対リツシユン王国十字軍に加わることを打診してきていた。彼らの中の幾人かは、リツシユン王国内に残り、防御線や兵力、その配置の情報を流していた。ただし、あくまでもリツシユン王家に忠義を尽くそうとする者も多かったため、期待するほどの数は対リツシユン王国十字軍に加わらなかった。
一方、リツシユン王国側は、防御に徹する方向だった。各地に城塞が建設され、野戦陣地が築いた。銃砲とそれに必要な火薬、銃砲弾を中心にした戦備の製造、配備が進められていた。兵の動員、糧食の徴発も進められていた。タイカーン国魔王であるツチイ率いる軍も、ウスイの率いる本隊に合流していた。
魔界には、以外に人間界の事情に通じている部族がいて、今が好機と他の部族を糾合して、タイカーン国、人間界への侵攻を準備していたため、ウスイは勇者達をそちらに配置して、タイカーン国と提携している部族の軍に合流させて、対応していた。やはり、彼らは同胞との戦いは躊躇するところだったためだし、少ない人数で効果があった、実際の戦力にも、士気の上でも。
とはいえ、三位一体教会信徒の知識人たちは、聖典唯一主義教会等と事実上の共闘になっている、この戦争に大義はないと反対する者もいたが、それはほとんど無視された。
「聖女様。この戦争を止めていただけないでしようか?」
ケイにまで、懇願する者がシュン王国内にも何人かいた。
「先生たちは、聖女様がかの男から、再洗礼派教会信徒達からどのような扱いを受けたか、ご存じのはずです。そのようなことを、聖女様にこのようなことを。」
第三王子は、その美しい顔を本当に怒りで真っ赤になり、彼らに抗議した。その姿に嬉しそうな視線を向けつつも、
「私も、多くの人々が戦いに巻き込まれて傷つき、倒れることを望んでいません。このようなことになり悲しく思っています。しかし、もう私にはどうしようもないのです。私は、戦争が終わることに、自分の恨みから反対するつもりはまったくありません。」
と答えた。それには、嘘偽り、虚飾はなかった。それでも、ウスイと彼の傍らに立ち女魔王ツチイが八つ裂きにされることを強く願う自分がいることに、心を痛めるとともに、快感をも感じていた。"全てあいつが悪いのよ。"それも彼女の本心だったし、再洗礼派教会信徒への同情心はないことはなかったが、それは薄かった、それが彼らのことを、彼らの幸せを神に祈ることも忘れていなかったのであるが。
戦争は回避した方がずっといい、とも本心から思っていた。同時に、
「私も従軍いたしますから。」
とはっきり宣言もした。
「魔族を、魔王を排除するのが、聖女の務めですから。」
「そ、それはそうだけど・・・。」
夫である第三王子サラギは、その美しい顔を本当に心配そうにして言い淀んだ。
「君の気持ちはよくわかるよ、あのような仕打ちをうけたのだから・・・でも・・・その、やっぱりあの男のことが・・・やっぱり・・・。」
「は?」
「だって、奴の昔の話になると、懐かしそうに、とても優しい人だったとか・・・。」
不満そうな、いじけるような表情で、口調だった。"私って・・・こんな優しい、すばらしい夫を苦しめていたの?"実際は、そのとおりなのだが、彼女の関係者の話でも、ウスイが彼女にやさしく接していたか、2人の仲がよかったとかという話をよく聞かされていたからでもある。もちろん、最後は、あのようなことをする男だったとは・・・に落ち着くのであるが。
「もう~、私がこんなにもあなたを愛しておりますのが、お分りにならないのですか~?」
と普段の清楚で品格のある、威厳のある、神神しい雰囲気が一転して、可愛い、拗ねた雰囲気を出して彼を抱きしめた。サラギも、それには勝てなかった。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる