聖女を追放した国は悲惨な運命が・・・なんで悲惨な状態にはならないのよ!

転定妙用

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開戦

兵力は7万人

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「できるだけ早く国境に進軍させなければならない。1日でも長く、居座られては、国のためにも、民のためにもならないからな。」
 王太子は、王都に集結した各国軍約7万人を、王宮の一番高い塔の最上階から見下ろしながら、いまいましそうに言った。兵力4万人と言っても、その後方支援の人数、馬にはそれを世話する者達も必要等々で、その倍以上の人間がいる。それだけの人間が飲み食い分を確保し、排出するものを処理するのは大変なことである。各国の軍は戦いよりベットの上で1日も長く過ごしたいから、王都に腰を落ち着かせたいのである。そんなことはさせられるものか、と彼は思っていた。ニコやかに迎えながら、心の中では早く出ていけと、彼は苦々しく思い、策略を実施していた。それは、国のトップとして当然のことであった。
 それはともかく、対リツシユン王国十字軍の兵力は10万人を超えた。しかも、それだけではない。なんと、三位一体教会と敵対する聖典唯一教会派、運命論教会派の諸国も、兵を送ってきた。もちろん加わるのではなく、その海軍を派遣したり、彼らの国とリツシユン王国との国境に兵を集結させて牽制し、機会をうかがい、いつでも侵攻するよう構えをみせていた。その数は3万弱。これを合わせると13万人近くの兵力が、リツシユン王国への侵攻をするということになる。正式に、公式に、表立っての協力をするわけではなく、公表することではないが、内々には交渉した結果なのである。
 これに、リツシユン王国内の三位一体教会信徒の多い領地を持つ貴族のかなりの部分、そして同様に三位一体教会信徒の多い都市は、秘かに対リツシユン王国十字軍に加わることを打診してきていた。彼らの中の幾人かは、リツシユン王国内に残り、防御線や兵力、その配置の情報を流していた。ただし、あくまでもリツシユン王家に忠義を尽くそうとする者も多かったため、期待するほどの数は対リツシユン王国十字軍に加わらなかった。

 一方、リツシユン王国側は、防御に徹する方向だった。各地に城塞が建設され、野戦陣地が築いた。銃砲とそれに必要な火薬、銃砲弾を中心にした戦備の製造、配備が進められていた。兵の動員、糧食の徴発も進められていた。タイカーン国魔王であるツチイ率いる軍も、ウスイの率いる本隊に合流していた。
 魔界には、以外に人間界の事情に通じている部族がいて、今が好機と他の部族を糾合して、タイカーン国、人間界への侵攻を準備していたため、ウスイは勇者達をそちらに配置して、タイカーン国と提携している部族の軍に合流させて、対応していた。やはり、彼らは同胞との戦いは躊躇するところだったためだし、少ない人数で効果があった、実際の戦力にも、士気の上でも。

 とはいえ、三位一体教会信徒の知識人たちは、聖典唯一主義教会等と事実上の共闘になっている、この戦争に大義はないと反対する者もいたが、それはほとんど無視された。
「聖女様。この戦争を止めていただけないでしようか?」
 ケイにまで、懇願する者がシュン王国内にも何人かいた。
「先生たちは、聖女様がかの男から、再洗礼派教会信徒達からどのような扱いを受けたか、ご存じのはずです。そのようなことを、聖女様にこのようなことを。」
 第三王子は、その美しい顔を本当に怒りで真っ赤になり、彼らに抗議した。その姿に嬉しそうな視線を向けつつも、
「私も、多くの人々が戦いに巻き込まれて傷つき、倒れることを望んでいません。このようなことになり悲しく思っています。しかし、もう私にはどうしようもないのです。私は、戦争が終わることに、自分の恨みから反対するつもりはまったくありません。」
と答えた。それには、嘘偽り、虚飾はなかった。それでも、ウスイと彼の傍らに立ち女魔王ツチイが八つ裂きにされることを強く願う自分がいることに、心を痛めるとともに、快感をも感じていた。"全てあいつが悪いのよ。"それも彼女の本心だったし、再洗礼派教会信徒への同情心はないことはなかったが、それは薄かった、それが彼らのことを、彼らの幸せを神に祈ることも忘れていなかったのであるが。
 戦争は回避した方がずっといい、とも本心から思っていた。同時に、
「私も従軍いたしますから。」
とはっきり宣言もした。
「魔族を、魔王を排除するのが、聖女の務めですから。」
「そ、それはそうだけど・・・。」
 夫である第三王子サラギは、その美しい顔を本当に心配そうにして言い淀んだ。
「君の気持ちはよくわかるよ、あのような仕打ちをうけたのだから・・・でも・・・その、やっぱりあの男のことが・・・やっぱり・・・。」
「は?」
「だって、奴の昔の話になると、懐かしそうに、とても優しい人だったとか・・・。」
 不満そうな、いじけるような表情で、口調だった。"私って・・・こんな優しい、すばらしい夫を苦しめていたの?"実際は、そのとおりなのだが、彼女の関係者の話でも、ウスイが彼女にやさしく接していたか、2人の仲がよかったとかという話をよく聞かされていたからでもある。もちろん、最後は、あのようなことをする男だったとは・・・に落ち着くのであるが。
「もう~、私がこんなにもあなたを愛しておりますのが、お分りにならないのですか~?」
と普段の清楚で品格のある、威厳のある、神神しい雰囲気が一転して、可愛い、拗ねた雰囲気を出して彼を抱きしめた。サラギも、それには勝てなかった。
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