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平和に向けて?あるいは新たな戦いの幕間
内憂外患③
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「何?ニワタズミ帝国内で反乱だと?」
教皇庁の枢機卿会議で、教皇ヨロビク世は、驚いて、常の彼らしくない狼狽した声をあげた。定例の枢機卿会議なのだが、昨日届いた、彼の持つ情報網からのだ、情報を青ざめた顔で、一人の枢機卿が教皇の開会の際の言葉を遮ってまで発言を求めた内容がそれだった。
驚いたのは教皇だけではない。会議に列席していた全員が同様だった。教皇は自分が立ち上がっていることに気づき、椅子に座り直した。その間に、落ち着きを多少とも取り戻した。
「考えてみれば、大いにありうることであった。」
と真っ先に彼が、テーブルの席に座る者の中で我に返っていた。
リツシウン王国への十字軍で、三位一体教会側の要の大国であるニワタズミ帝国も、かなりの兵を失った。帝国内には、新教と呼ばれる聖典唯一派、運命論派などの有力な異端の勢力も強く、それを領内の教えとして公認している公国がいくつもある。ただ、帝国への忠誠心と力関係、新教両派の深刻な対立があり、それが脅威として現れることはなかった。
それがまず、帝国の戦力ダウンで力関係に変化が生じたことと、ここにきて新教両派の提携が一応成立したことで、さらにショウマン王国、聖典唯一派を国教としている、では数年前に即位した国王が有能であり、特に軍事的才能が優れ、軍事体制の改革にも成功し、その他の国内体制の整備、産業の発展で国力を強めていた。その後ろ盾で、帝国の新教派公国が反旗をあげようとしているというのである。
穏やかになったものの、三位一体教会の異端への攻撃は行われており、ニワタズミ帝国を管轄している総司教は、心配するほど、それが熱心だった。それに皇帝も、帝国権力の拡張のため乗り、新教派公国への圧力を強めていたことが、耐えられる限界に達した面もある。
「しまった。」
と教皇も思った。ニワタズミ帝国の総司教の行動は、決して以前の大量虐殺というのではないし、三位一体教会としては好ましいことであり、帝国がそれに協力してくれることは当然であり、当然な方向になったと喜ばしく感じなければならないものだった。それ故に判断を誤った、危険性を無意識中に、故意に、小さくしていたと気が付いた。
「もう止めることはできないか?」
「残念ながら、もう数日中に反旗するでしょうし、これらを鎮圧しても、ショウマン王国が加勢に介入するでしょう。」
リツシウン王国への十字軍派遣どころではない、教皇以下の心は一致していたが、それを口に出す者はいなかった。が一人の枢機卿が手をあげて、発言を求めた。教皇から発言を許された彼の口からでたのは、皆から期待されるものではなかった。
「シュン王国が、ショウマン王国に加担する可能性があるということです。」
まさか、と誰もが思った。
「まさかとは思うのですが、もともと両国との間には紛争が度々ありましたし、両国は同盟関係にあるわけではありません。単純に考えれば、シュン王国にとって、好機と言える可能性があります。」
これを否定できる理屈はないように思われた。
「しかし、シュン王国には、聖女様が嫁にいっていますわ。」
との発言に皆がホッとするように頷いた。
「そのとおりですね。しかし、聖女様の夫は第三王子です。それに、最悪シュン王国がニワタズミ帝国に軍を侵攻させたとして、聖女様を召喚されますか?」
自分に振るな、と教皇は不快だった。が、その言葉どおりだとも思った。シュン王国を敵に回したくはない、というのも事実だった。シュン王国も、三位一体教会信徒が国民の多数を占める大であり、三位一体教会としては重要な国の一つである。ニワタズミ帝国が、広大な国土を持つながら、多くの大小王公国、自治都市、都市国家、有力な教会領、騎士団領、独立騎士領を含むモザイク的な国家と違い、シュン王国は封建諸侯が数多くいるとはいえ、国王の権力が絶対的であるから、後援者としては非常に心強いのだ。
だから、対立はしたくない。
「仲介は・・・難しいだろうな。」
そもそも、今動いても、知らぬ存ぜぬされればどうしようもない。いや、そうでなくても、止めさせることは難しい、絶対聞く相手ではない。
「困ったな・・・。」
教皇は、助けを求めるように、枢機卿達を見渡した。しばらくの重苦しい沈黙の後、
「リツシユン王国のことは、正しき信徒達の安全、信仰の保証、教会と教会領の維持を条件で過去の罪は不問に期すとするのが、取り合えずよろしいかと。」
長身の地味な枢機卿がおずおずとした調子で発言した。
助かったという風な表情で、教皇は頷きながら、"聖女よ、ウスイを許すように報告してくれ・・・。"と祈るように、心の中でつぶやいていた。
それに聖女ケイを不幸にはしたくないというのが、教皇の本音だった。
教皇庁の枢機卿会議で、教皇ヨロビク世は、驚いて、常の彼らしくない狼狽した声をあげた。定例の枢機卿会議なのだが、昨日届いた、彼の持つ情報網からのだ、情報を青ざめた顔で、一人の枢機卿が教皇の開会の際の言葉を遮ってまで発言を求めた内容がそれだった。
驚いたのは教皇だけではない。会議に列席していた全員が同様だった。教皇は自分が立ち上がっていることに気づき、椅子に座り直した。その間に、落ち着きを多少とも取り戻した。
「考えてみれば、大いにありうることであった。」
と真っ先に彼が、テーブルの席に座る者の中で我に返っていた。
リツシウン王国への十字軍で、三位一体教会側の要の大国であるニワタズミ帝国も、かなりの兵を失った。帝国内には、新教と呼ばれる聖典唯一派、運命論派などの有力な異端の勢力も強く、それを領内の教えとして公認している公国がいくつもある。ただ、帝国への忠誠心と力関係、新教両派の深刻な対立があり、それが脅威として現れることはなかった。
それがまず、帝国の戦力ダウンで力関係に変化が生じたことと、ここにきて新教両派の提携が一応成立したことで、さらにショウマン王国、聖典唯一派を国教としている、では数年前に即位した国王が有能であり、特に軍事的才能が優れ、軍事体制の改革にも成功し、その他の国内体制の整備、産業の発展で国力を強めていた。その後ろ盾で、帝国の新教派公国が反旗をあげようとしているというのである。
穏やかになったものの、三位一体教会の異端への攻撃は行われており、ニワタズミ帝国を管轄している総司教は、心配するほど、それが熱心だった。それに皇帝も、帝国権力の拡張のため乗り、新教派公国への圧力を強めていたことが、耐えられる限界に達した面もある。
「しまった。」
と教皇も思った。ニワタズミ帝国の総司教の行動は、決して以前の大量虐殺というのではないし、三位一体教会としては好ましいことであり、帝国がそれに協力してくれることは当然であり、当然な方向になったと喜ばしく感じなければならないものだった。それ故に判断を誤った、危険性を無意識中に、故意に、小さくしていたと気が付いた。
「もう止めることはできないか?」
「残念ながら、もう数日中に反旗するでしょうし、これらを鎮圧しても、ショウマン王国が加勢に介入するでしょう。」
リツシウン王国への十字軍派遣どころではない、教皇以下の心は一致していたが、それを口に出す者はいなかった。が一人の枢機卿が手をあげて、発言を求めた。教皇から発言を許された彼の口からでたのは、皆から期待されるものではなかった。
「シュン王国が、ショウマン王国に加担する可能性があるということです。」
まさか、と誰もが思った。
「まさかとは思うのですが、もともと両国との間には紛争が度々ありましたし、両国は同盟関係にあるわけではありません。単純に考えれば、シュン王国にとって、好機と言える可能性があります。」
これを否定できる理屈はないように思われた。
「しかし、シュン王国には、聖女様が嫁にいっていますわ。」
との発言に皆がホッとするように頷いた。
「そのとおりですね。しかし、聖女様の夫は第三王子です。それに、最悪シュン王国がニワタズミ帝国に軍を侵攻させたとして、聖女様を召喚されますか?」
自分に振るな、と教皇は不快だった。が、その言葉どおりだとも思った。シュン王国を敵に回したくはない、というのも事実だった。シュン王国も、三位一体教会信徒が国民の多数を占める大であり、三位一体教会としては重要な国の一つである。ニワタズミ帝国が、広大な国土を持つながら、多くの大小王公国、自治都市、都市国家、有力な教会領、騎士団領、独立騎士領を含むモザイク的な国家と違い、シュン王国は封建諸侯が数多くいるとはいえ、国王の権力が絶対的であるから、後援者としては非常に心強いのだ。
だから、対立はしたくない。
「仲介は・・・難しいだろうな。」
そもそも、今動いても、知らぬ存ぜぬされればどうしようもない。いや、そうでなくても、止めさせることは難しい、絶対聞く相手ではない。
「困ったな・・・。」
教皇は、助けを求めるように、枢機卿達を見渡した。しばらくの重苦しい沈黙の後、
「リツシユン王国のことは、正しき信徒達の安全、信仰の保証、教会と教会領の維持を条件で過去の罪は不問に期すとするのが、取り合えずよろしいかと。」
長身の地味な枢機卿がおずおずとした調子で発言した。
助かったという風な表情で、教皇は頷きながら、"聖女よ、ウスイを許すように報告してくれ・・・。"と祈るように、心の中でつぶやいていた。
それに聖女ケイを不幸にはしたくないというのが、教皇の本音だった。
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