聖女を追放した国は悲惨な運命が・・・なんで悲惨な状態にはならないのよ!

転定妙用

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新たな戦い?

自分が彼女を愛したことが、彼らを不幸にしたのかもしれない

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 カサギは、死を受け入れるしかさないと覚悟した。だから、家臣達にも、領民にも抵抗しないように命じていた。
「しかし、お恥ずかしいことに、本当の覚悟などできず、命が惜しかったのです。」
 彼は自嘲気味に言った、ウスイとツチイに。

「閣下への恩義。返させて下さい。」
 魔族の正騎士、ミナだった。ある意味、小さいとはいえ、王族といえるが、それ故に彼とともについてこざるを得ず、彼の庇護を受けていたのである。
 彼は、彼女の言葉に動きだしてしまった。が、それだけではない。家臣達、領民達が逃走路を用意してくれていたのである。
「殿下が、お命じになられたではないですか?旧主への忠を捨てられなかったことを見せろと。尋問されたら、少しだけ躊躇って、告白しますから、早くお逃げ下さい。私達は、つい、追うことを躊躇っただけですから。」
と笑って言われて、彼らの目には涙さえ滲んでいた、従わざるを得ないと心の中で言い訳して、ミナととにかく逃げた。

 ミナの手勢もついてきた。彼らは、ミナがいなくなってはどうしようもなくなるからだった。彼女にも計算があった。彼がいなくなるということは、自分達を庇護する者がいなくなるということ、自分達の居場所がなくなるということだった。彼を連れて行けば、同時に自分達の居場所も確保できるだろうという計算だった。それがあっても、彼には、かえって好都合?だった、彼らは、平時には愛し、戦時には塵芥のように使うことに躊躇いがなくなるからだった。

 それでも彼は心が痛んだ。ミナも、それだけではなかった。
「前からお慕い申しあげてました。」
 敗走してきた自分達を受け入れ、見棄てていい自分達を先に逃がそうと殿軍の陣頭に立ち、ともに苦しい戦いを演じた。今後のことを話し合った。二重王国との交渉にも同行、同席した。いつの日から、彼と二人妻との仲睦まじい姿を見ると心が痛くなった。恋だ、愛だ、なんて否定してきた。それが、抑えがなくなって、自分の気持に気がついた。
 彼も、彼女の体温すら感じる場をなんども経験し、苦しい時を共有していて、心が揺らぐと許容すら感じたことはあった。人間としても、かなりの美人だったから、彼女は。そして、全てがなくなって、彼女の体温、匂いを感じさせられる距離に迫られると、抵抗ができなくなった。唇を重ね、舌を差し入れ…体液の臭いを感じながら、
「愛してる。」
と囁き遭うことになった。

 二重王国の側に逃れたのは、受入れ、かつ、露骨に利用しようとしないだろうという計算があったからだった、彼の。自分とミナは国内的にも利益になるだろうとも考えたからでもある。だが、それ以上に、ウスイとツチイが信頼できる、同情して受け入れてくれると判断した結果だった。

 それは結局、正しかった。小さな城と小さな領地と年金が与えられた。二人と彼女の家臣達、後から追ってきた彼の家臣達は、そこで落ち着くことになった。

 そして、二人妻達の結婚の報も伝えられた。
「ああ、彼女達が他の男に抱かれ、その子供を産み、幸せなになって、私のことを思いだしたくもない過去と思うだろうと考えると泣きさけび、物をなげ散らかしたくなるさ。それが・・・彼女達が新しい人生を歩んで、幸せになって、俺のことなど忘れてしまう・・・それが一番いいことだと分かっているのにな。」
 彼は、ミナに、言ってはならないとはわかっていても、言わないこととしていたが、誰もいない、彼女だけになった時、つまりは、2人の寝室でだった。
「わ、私ではだめですか?」
と彼女は言おうとしたが、止めた。
「私がお二人の代わりに。」
も止めた。とりあえず唇を重ねた。全裸ではなく、半裸だった、2人は。
"自分から言うべきだな。"と彼は思った。
「あの日、ともに国から脱出し、ここまでこれた。かけがいのない時間を過ごし、もう離れがたいものになっているんだ。このまま、ともに生きてくれ。」
「はい。」
 そして、あらためて二人は唇を重ね、舌を味わうように絡めあった。

「恩知らずともが。」
 二人の、正確にはわずかながら、どうしても彼に殉じるという生まれた時からの家臣達もいたし、領地でできた家臣達の一隊もいたが、逃避行の様子を聞いて、全く別の場所で、別の時間に、罵った。
 カサギを本当に討とうする領内の騎士から農民までいたことである。もちろん形だけの者達がいたが、本気で追い、襲撃した一団がいたことだった。
「大公閣下が善政を施したことを・・・恩を仇で返す輩がいるなんて・・・。」
 二人妻の実家からの補助、何のかのといっても、心配する父母の気持ちを汲んでの国庫からの、さほど多くはないが、援助があったことも大きいが、3人で協力して、出来るだけ税を減らし、インフラ整備、産業振興のため尽くし、治安を確保しつつも、統制も緩め、農民コミューン、都市の自治、民会に多くの市民も加え、法と民衆との約束を尊重した統治。決して理想の統治というものではないが、善政だと多くの人が言ったものである。とはいえ、所詮は比較の上のことであり、彼を追った者達にも言い分があった。
 とにかく彼らを蹴散らしながら、彼らに先導された国軍の部隊も返り討ちにしながら、時には肩を貸しあい、不眠で歩き続け、背を預けながら周囲を警戒しながら、返り血を浴びる戦いを自らしながら、泥水すすり、草を食みながら進んだ時もあった。

 ちなみに本気で追ったグループの幹部達を、国王ウンティは、
「大公は国に謀反して追われたのである。領民ならば、家臣であれば、主人を説得して自首させるか、捕らえて、つきだして助命を願うべきであり、主人への忠がない者は信用できない。」
と処刑しているのだが。
 
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