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1.かなり斜め上から社長の告白(笑顔でお断り)
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株式会社フクシ――私が勤めるこの会社は東京都台東区浅草にあり、墨田川がすぐ近くを流れる場所に自社ビルを持つ中堅のシューズメーカー。
特に浅草は、大小様々なシューズメーカーが軒を連ねる。浅草は草履・履物屋だけでなく靴の問屋街もある、所謂(いわゆる)靴の街だ。いや、靴だけでなく様々な問屋が多い。以前は人形や玩具を取り扱う問屋が多かったのだが、時代の流れで昨今は手芸屋(ビーズ・アクセサリー)だったり、生地屋だったりが増えた。文房具店も多い。
そしてそんな浅草で商売をする私の父――杉浦良蔵(すぎうらりょうぞう)は、フクシを始め、大小様々なシューズメーカーと取引をする下請けのゴム工場・有限会社スギウラ工業の工場長だ。
昔からよく見る、ナントカ工業・工場等と名を上げ、いかにも年季入ってそうな類の、小さな工場とさして変わりない。
ゴム工場と言っても、輪ゴムを作る会社じゃない。普通の人はまずピンと来ないだろう。
父の工場は、ヒールの底やブーツ・スニーカーの底、様々な靴の下地ゴムを生産するゴム工場なのだ。戦後間もない頃から開業し、小さいながらも腕のいい職人揃いで、取引先との信頼も厚く、父が二代目を継いだスギウラ工業。数年前から不況の煽りを受け、取引先をひとつ、またひとつと失い、それでも何とか耐え忍んでやってきた。しかし一年前、遂に大手スーパーやデパートまでもが完全自社生産に切り替え、全ての生産をヒール底も含めて一括で安く中国やベトナム等を主に海外生産にシフトチェンジした為、薄利多売でもまとまった注文があったからこそ耐え凌げていたというのに、本当に取引先が無くなってしまった。
不況で苦しい上に取引先の殆どを失い、下請けの仕事を貰えなくなってしまったスギウラ工業はリストラを余儀なくされ、腕のいい職人を失い、赤字が膨らんで借金のみが残された。工場を売っても赤字、いよいよ一家で首でもくくるかと言っていた父に、救いの手を差し伸べてくれたのが、このフクシだ。
株式会社フクシはスニーカー部門で様々な特許を取り、自社の商品開発に力を入れつつ、海外の既製品や、それを模範させたオリジナルの靴を入荷・販売している中堅のシューズメーカー。そんなフクシの特許を取ったスニーカーの靴底を作っていたのが、父の工場。
フクシは工場ごとスギウラを買収して経営権を取得してくれたため、彼等会社の子会社として運営を継続が可能となった。スギウラは、フクシのお陰で再建できたのだ。
経営権はフクシにあるが、スギウラ工業という名前のまま会社(というか工場)は存続、離職した職人を出来る限り呼び戻し、元通りの工場ラインで生産も出来ている。私はもともとスギウラの経理を担当していたから仕事があぶれたが、社長秘書に丁度空きが出た為、この位置に滑り込んだという訳。これが、一年前の話。
特に浅草は、大小様々なシューズメーカーが軒を連ねる。浅草は草履・履物屋だけでなく靴の問屋街もある、所謂(いわゆる)靴の街だ。いや、靴だけでなく様々な問屋が多い。以前は人形や玩具を取り扱う問屋が多かったのだが、時代の流れで昨今は手芸屋(ビーズ・アクセサリー)だったり、生地屋だったりが増えた。文房具店も多い。
そしてそんな浅草で商売をする私の父――杉浦良蔵(すぎうらりょうぞう)は、フクシを始め、大小様々なシューズメーカーと取引をする下請けのゴム工場・有限会社スギウラ工業の工場長だ。
昔からよく見る、ナントカ工業・工場等と名を上げ、いかにも年季入ってそうな類の、小さな工場とさして変わりない。
ゴム工場と言っても、輪ゴムを作る会社じゃない。普通の人はまずピンと来ないだろう。
父の工場は、ヒールの底やブーツ・スニーカーの底、様々な靴の下地ゴムを生産するゴム工場なのだ。戦後間もない頃から開業し、小さいながらも腕のいい職人揃いで、取引先との信頼も厚く、父が二代目を継いだスギウラ工業。数年前から不況の煽りを受け、取引先をひとつ、またひとつと失い、それでも何とか耐え忍んでやってきた。しかし一年前、遂に大手スーパーやデパートまでもが完全自社生産に切り替え、全ての生産をヒール底も含めて一括で安く中国やベトナム等を主に海外生産にシフトチェンジした為、薄利多売でもまとまった注文があったからこそ耐え凌げていたというのに、本当に取引先が無くなってしまった。
不況で苦しい上に取引先の殆どを失い、下請けの仕事を貰えなくなってしまったスギウラ工業はリストラを余儀なくされ、腕のいい職人を失い、赤字が膨らんで借金のみが残された。工場を売っても赤字、いよいよ一家で首でもくくるかと言っていた父に、救いの手を差し伸べてくれたのが、このフクシだ。
株式会社フクシはスニーカー部門で様々な特許を取り、自社の商品開発に力を入れつつ、海外の既製品や、それを模範させたオリジナルの靴を入荷・販売している中堅のシューズメーカー。そんなフクシの特許を取ったスニーカーの靴底を作っていたのが、父の工場。
フクシは工場ごとスギウラを買収して経営権を取得してくれたため、彼等会社の子会社として運営を継続が可能となった。スギウラは、フクシのお陰で再建できたのだ。
経営権はフクシにあるが、スギウラ工業という名前のまま会社(というか工場)は存続、離職した職人を出来る限り呼び戻し、元通りの工場ラインで生産も出来ている。私はもともとスギウラの経理を担当していたから仕事があぶれたが、社長秘書に丁度空きが出た為、この位置に滑り込んだという訳。これが、一年前の話。
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