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3.社長にキスしたら、何かがおかしくなった模様(全力で否定)

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 今回残念なのは、海外の取引に社長の手が及んでいなかった事だ。先代が急逝したのは、海外での事業拡張やら製品入荷の際にコストを下げるたらで、丁度フクシ内部がモメていた時期でもある。社内に派閥が出来しまい、そこの立て直しにも時間がかかったから、海外事業は一年前、私が就任するまでおざなりになっていた。というより、社長の手が回らなかったというのが正解。
 彼が目を配っていれば、こんな事にはならなかった。以前の海外担当はかなりずさんで、私が就任してから一気にテコ入れをした。いいかげんなツケが、今になって回って来たのだ。しかし、社員の不手際は社長の不手際に通ずる。私も気をつけなくては。

 相当数残っていた不良のアンクレットは、社長の出現によって見る間に補修され、なくなっていった。自分では無駄な動きは無いと思っていたけれど、彼の仕事はそれ以上に丁寧で早い。やっぱり社長となる男は、他の人より勤勉で努力家、その結果人の上に立つことができる器を手に入れるのだろう。素直に素晴らしいと思った。

 完徹は覚悟していたのに、父も含めて四人で頑張ったから、午後十一時には全ての作業が終了した。
 補修、再検品、箱詰め、出荷前までの段取り、全てだ。
 しかも出荷できるように、段ボールのケースを外の積み込みスペースへ置くまでやってのけた。
 父は台車を片付けに行くといい、その場から去って行った。


「二人とも、遅くまでありがとう」


 社長が私と大滝君に頭を下げてくれた。

「礼には及びません。当然の事をしたまでです」

 フクシには、借りがあるからね。一生身を捧げるくらいの気持ちで働いているから。そうでなくても、社のピンチには全力で挑むのが私のモットーよ。他の人はどうか知らないけれど、スギウラはそうだから。全員が手を抜かずに立ち向かう。何時でも、どんな時でも。

「そうですよ、社長。この借りは、焼肉食べ放題で手を打ちましょう」

 爽やかに笑う大滝君。ああ。明日の店舗売り上げも、きっと昨対(昨年対比の略を表すビジネス用語のこと。昨年(昨年度)の数字に対して今年(今年度)の数字がどれだけかを表す数字のこと)を上回る数字を上げてくれるに違いない。いい新人が入った。販売部門、今シーズンは安泰ね。

「ああ。今日はもう遅いから、明日にでも食いに行くか?」

「社長、明日は夕方、取引先との会食が入っております」


 頭の中のスケジュール表を確認しながら伝えた。


「ふう。会食祭だな。新商品の売り込みや打ち合わせが込み入っているから、この時期は仕方ないか。あ、大滝と紗那で食事へ行っておいてくれ、とは言わないぞ。もうそのうち社で噂になると思うから先に言っておくが、紗那と俺は付き合っている。大滝、手を出すなよ?」


 えっ。今言う?

 ぎょっとした顔で社長を見ると、彼はニヤニヤしている。・・・・腹立つわぁ。
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