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9.遂に神原と対決!(ハラハラドキドキ)
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仕上げて貰ったサンプルを借りて、高丸商店を後にした。素晴らしい出来栄えに、満足する心は抑えられない。
「嬉しそうだな」
「はい。思った以上に素敵な商品になりましたので、嬉しくて」
サンプルを大事に抱え、社に戻る車中でずっと笑顔だった。
やっぱり靴はいい。素敵な新商品は、どんなに荒んだ心でも嬉しい気持ちにさせてくれる。
この商品が、フクシの、浅草の未来になればいい。
一万足という数はまだまだ少ないけれど、これをロングセラー商品に育てたい。スニーカーといえばフクシとまではいかないが、それでもスニーカーではそこそこ有名な会社なのだ。今度はパンプスで、フクシの名を馳せたい。まあ、会社名というよりはブランド名になっちゃうけどね。
うきうきした気分で社に戻った。新商品の出来栄えを開発チームを招集して披露し、みんなで喜んだ。これだから、靴づくりは止められない。いい靴に出会えた時、今までの苦労が全部吹き飛んでしまうから。
次はいよいよ金策か。社長からの報告はまだない。これが神原の妨害にあっていなければ、今頃何の心配もなく、新商品の開発に勤しめたのに、と、軽く休憩する為に一息入れながらそんなことを考えていると、一通のメッセージが入ってきたのでスマホを見た。送り主は神原だ。
――今夜、時間を作って下さい。今後の事をお話しましょう。場所は、私の家で。
メッセージを見た途端、今までの浮き立った気持ちが一気に冷めた。何も今日じゃなくていいのに・・・・。神原は、どこまでも新商品の出来に水を差してくる。でも、その横やりは私一人で受け止めなきゃ。思わずため息を吐いてしまった。
「紗那、どうした?」
「あっ、社長、何でもありません。失礼致しました」
休憩スペースには誰もいないと思っていたのに、通りがかった社長に私がため息をつく様子を見られてしまった。
いけない。少し声が上ずった。まだまだ私も甘いな。徹底的にクールですました顔をしていなきゃ、すぐにバレちゃう。気を付けなきゃ。せめて、貴方の下を去るまでは。
「富士子さんか?」
「あ、はい。そうなんです」
咄嗟に嘘をついてしまった。でも、真顔だったし、上手く誤魔化せたと思う。不審に思われてはいない。
今、社長が言った富士子さんというのは、杉浦富士子――私の母の事だ。先週、神戸の出張の時に少し母の具合が悪いと、咄嗟の言い訳をしてしまった事を覚えてくれていたのだ。それで、今の連絡が私が動揺していたものだから、母からの連絡だと思い、具合を聞いてくれたのだろう。
「家にいらっしゃるのか? 病院か? できれば折を見て、大丈夫な時に見舞いへ行きたいのだが?」
「母は自宅です。今日は・・・・申し訳ありませんが定時で帰らせていただいても宜しいでしょうか? 仕事はきちんと終わらせますので。あと、母の見舞いは結構です。人と接触する事をあまり好みません。疲れが出てしまうみたいです。少し神経質なので」
こんな状態で元気な母を見舞われても困る。そろそろ話を合わせて貰うようにしなきゃいけないけれど、神原の所へ嫁に行くという話は、まだお父さんしか知らない事実だから、そこから先ず話をしなきゃいけない。これを話すと、母は本当に倒れてしまうかもしれない。
「嬉しそうだな」
「はい。思った以上に素敵な商品になりましたので、嬉しくて」
サンプルを大事に抱え、社に戻る車中でずっと笑顔だった。
やっぱり靴はいい。素敵な新商品は、どんなに荒んだ心でも嬉しい気持ちにさせてくれる。
この商品が、フクシの、浅草の未来になればいい。
一万足という数はまだまだ少ないけれど、これをロングセラー商品に育てたい。スニーカーといえばフクシとまではいかないが、それでもスニーカーではそこそこ有名な会社なのだ。今度はパンプスで、フクシの名を馳せたい。まあ、会社名というよりはブランド名になっちゃうけどね。
うきうきした気分で社に戻った。新商品の出来栄えを開発チームを招集して披露し、みんなで喜んだ。これだから、靴づくりは止められない。いい靴に出会えた時、今までの苦労が全部吹き飛んでしまうから。
次はいよいよ金策か。社長からの報告はまだない。これが神原の妨害にあっていなければ、今頃何の心配もなく、新商品の開発に勤しめたのに、と、軽く休憩する為に一息入れながらそんなことを考えていると、一通のメッセージが入ってきたのでスマホを見た。送り主は神原だ。
――今夜、時間を作って下さい。今後の事をお話しましょう。場所は、私の家で。
メッセージを見た途端、今までの浮き立った気持ちが一気に冷めた。何も今日じゃなくていいのに・・・・。神原は、どこまでも新商品の出来に水を差してくる。でも、その横やりは私一人で受け止めなきゃ。思わずため息を吐いてしまった。
「紗那、どうした?」
「あっ、社長、何でもありません。失礼致しました」
休憩スペースには誰もいないと思っていたのに、通りがかった社長に私がため息をつく様子を見られてしまった。
いけない。少し声が上ずった。まだまだ私も甘いな。徹底的にクールですました顔をしていなきゃ、すぐにバレちゃう。気を付けなきゃ。せめて、貴方の下を去るまでは。
「富士子さんか?」
「あ、はい。そうなんです」
咄嗟に嘘をついてしまった。でも、真顔だったし、上手く誤魔化せたと思う。不審に思われてはいない。
今、社長が言った富士子さんというのは、杉浦富士子――私の母の事だ。先週、神戸の出張の時に少し母の具合が悪いと、咄嗟の言い訳をしてしまった事を覚えてくれていたのだ。それで、今の連絡が私が動揺していたものだから、母からの連絡だと思い、具合を聞いてくれたのだろう。
「家にいらっしゃるのか? 病院か? できれば折を見て、大丈夫な時に見舞いへ行きたいのだが?」
「母は自宅です。今日は・・・・申し訳ありませんが定時で帰らせていただいても宜しいでしょうか? 仕事はきちんと終わらせますので。あと、母の見舞いは結構です。人と接触する事をあまり好みません。疲れが出てしまうみたいです。少し神経質なので」
こんな状態で元気な母を見舞われても困る。そろそろ話を合わせて貰うようにしなきゃいけないけれど、神原の所へ嫁に行くという話は、まだお父さんしか知らない事実だから、そこから先ず話をしなきゃいけない。これを話すと、母は本当に倒れてしまうかもしれない。
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