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スマイル33・王様が女王のキモチを聞く
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しおりを挟む「何が食べたいの? 今日は王雅が主役なんだから、食べたいもの言ってよ」
「俺は何でもいーよ。ガキ共が喜ぶから、また寿司でもすっか?」
「そうね。じゃあ手巻きパーティーしましょう。楽しいわよ。施設の広場でバーベキューしてもいいけど、大掛かりになる上に時間もそこまで無いし、それはまた今度してあげるね。だから今日は手巻きパーティーでもいい?」
「んじゃ、それ」
王雅は『みんなで楽しい』というワードに敏感だ。大勢でワイワイするのがきっと楽しくて仕方ないんだと思う。
本当に淋しがり屋ね。まあ、私もそうだけど。
私は、彼のそういう部分に惹かれているのもある。
実際に私がそうだから。何時もマサキ施設に取り残される、淋しい女なんだもの。
たとえひと時でも、楽しい時間を少しでも多く過ごしたいの。
だから王雅に少しでも寄り添って、お互いの淋しさを埋めたいって思う。
でも、多くは望まないわ。貴方が戻ってきたら、ちゃんと捨てられてあげる。
寄り添うのは、一度きり。
これから先、独りでもいいの。これが私の生きる道。
苦しい時に助けてくれた、久信おとうさんと、美幸おかあさんが作ってくれた、私の唯一の生きる道だから。それに、かわいい子供たちが傍にいてくれるんですもの。
今の暮らしがあるだけで、十分幸せだと思わなきゃ。
あの時の絶望と苦しみに比べたら、好きな男に捨てられるくらい、どうってこと無いわ。
「今日は、王雅のためのパーティーなんだから、みんなで食べれる分だけにしておきましょうね。買い占めはナシよ」
「わかった。じゃ、とりあえず平岡商店行こうぜ」
二人で手を繋いで、平岡商店に向かった。
手を繋いでいる事、商店街のみんなに見られていないかしら。冷やかされたらどうしよう。
そんな風に思いながら、でもドキドキしながら商店街を歩いた。
この前とは違う。自分のキモチをはっきりと自覚した今、王雅と歩くこの時間が、繋いだ手の温もりが、私の心を満たしていく。
もう隠せない。きっと、もうすぐ王雅に私のキモチは伝わってしまう。
そしたら、この関係も終わってしまう。
私の、負けね。
知らない間に、こんなにも貴方を好きになってしまったんですもの。
記念に抱かれたいって思っているのは、私の方。
捨てられたくないって思っているのは、私の方。
悔しいわ。どうしてこうなっちゃったのかしら。
ドキドキしながら歩いていると、あっと言う間に平岡商店に着いたので、つないでいた王雅の手を離した。
「ああ、美羽ちゃんに王雅君! こりゃどーも」
あら。おじさんが王雅にモミ手をしているわ。王雅ったら、何かやったのかしら。
「この度は世話になってもう、本当にありがとう」
何かお礼までしているわ。専属契約がどうとか、これで平岡商店も安泰だとか何とか言っているわ。何の事かしら。
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