追放された滅びの魔女ですが、竜王陛下に拾われ甘やかされています

佐崎咲

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第四章 滅びの魔女の行方

第9話 迎えに来た

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 一人になってそれほど時間が立たずに、扉がコンコンとノックされた。

「はい」

 返事をすると、「私だ」と声がかけられ、鍵ががちゃりと開いた。

「叔父様……」

 扉から姿を現したのは、文官の服に身を包んだ叔父で。
 思わず目を見開いて驚いた。
 日和見主義の叔父は私が捕まろうと関わってはこないと思っていたのに。

「まさかこんなことになるとはな」
「それ、悪役の台詞じゃありません?」
「いや、違う。シェリーを害するつもりはない。……なかったんだ」
「それはどれに対する過去形の言葉でしょうか」

 じっと叔父を見つめれば、観念したように話し出した。

「これまで自分が悪いと言いながら、シェリーにしてやれたことなどまるでなかった。本を差し入れるだけのことが何の役に立つものか。生きがいになればと翻訳なども頼んでみたが、結局助けられるばかりで……」

 本は叔父が思っている以上に役に立った。
 けれど翻訳の仕事を振ってきたことにそんな意図があったとは。
 ただ利用されているだけだと思っていたけれど、叔父の顔を見ればそうではなかったのだとやっと気が付いた。
 叔父は本当に自責の念に駆られていたのだ。
 そこに私が暇で仕方がないと言って薬の本なんかを頼んだから、いよいよやばいと思われていたのかもしれない。
 叔父からすれば薬学なんて捕らわれの身の私には何の意味もなさないのだ。
 心を病んでいるとでも思い、何か生産性のあるやりがいを与えようとしてくれたのだろう。

「叔父様が本を差し入れてくれたから、ここまで生きてこられたのですよ」

 これは間違っていない。ただし詳細は省く。

「そうやって数少ない頼みの綱であった私にもそんなことしかねだらない。そんなおまえが心底から不憫だった。だから、城に連れられて来た時に、今こそ力にならねばと思ったのだ。このままでは処刑されてしまう。そう思って、おまえをこの城から逃がしたのだ」
「え……、あれって、叔父様の指示だったのですか?」
「ああ。ドゥーチェス国に逃がそうとした。ドゥーチェス国の読み書きができるシェリーならば生きていけるだろうと思ったのだ。だが、まさか『滅びの魔女』を助けてくれと言って従う者はいない。それに国境までが遠すぎた。万が一追手が来たら捕まってしまう。それで『王家が手を下さなくてすむように、竜の森に置き去りにせよ』と命じたのだ」
「なるほど。それで竜王の森に」

 私が野外で生き延びるためのあれこれを習得したのは叔父に差し入れてもらった本からだ。
 私なら竜の森でも生き延びて、いずれレジール国かドゥーチェス国まで逃れ、ひっそり生きていけると思ったのだろう。

「賭けではあった。だが処刑されるよりはと思ったのだ」
「それで、害するつもりはなかった、というのは?」

 私を助けるためにしたことだというこれまでの話と矛盾する。
 竜王の森で行き倒れていたことは知らないはずだ。

「それが、だな。どうやら国王はおまえをこの城で保護するつもりだったようなのだ」
「保護……?」

 いまさら? 何故? という言葉が喉元に詰まっている。

「シェリーが城からいなくなったことはすぐに国王に伝わり、私が人を使って逃がしたと露見してしまった。頼りない言い訳を用意してはいたが、処罰は覚悟の上だった。だがそこで聞かされたのだ」

 国王は言い伝えなど信じていない。
 この時代に言い伝えを理由に処刑などすれば他の国から笑われる。
 だから十八歳までこの城で過ごさせ、その後は望むならば元の暮らしに返すなり、別の人間として生きるなりさせようとしていたのだそうだ。
 私が『滅びの魔女』ではないと知っていたのなら、そういう対応にもなるだろう。
 でも本当にわざわざ国が一人の人間のために、二年間も面倒を見るだろうか。
 これまでの放置ぶりからはとても信じがたい。

「では、あのままこのお城にいれば、何もしなくてもよかったと。なのに私を危険な目に遭わせたと叔父様は引け目を感じていらっしゃるのですか?」
「そうではないんだ。実は、事はもう少し複雑でな。今回この城に連れてきたのは、私の指示ではない」

 ちらり、と私の顔をうかがい、言いにくそうに叔父が再び口を開いた。

「いや、私の指示ではあるのだが、私の考えたことではなく、命令に応じなければならなかったのだ」
「一体、誰の――?」
「この国の第二王子だ」

 国王でもなく、王太子でもなく、第二王子?
 何故そんなところから私を連れ戻せなんて命令が飛んできたのか。

「私が人を使って竜王の森にやったことは第二王子も国王から聞いて知っていた。だが第二王子は国王とは違う考えを持っていたのだ」

 叔父の顔を見れば、いい話ではないことはわかる。
 言葉を選んでいるようで、慎重に口を開いたところに扉がノックされた。

「シェリー・ノーリング伯爵令嬢。国王陛下がお呼びです」

   ・・・◆・・・◇・・・◆・・・

 叔父と顔を見合わせたものの、国王からの呼び出しに応じないわけにはいかない。
 私は一人、案内役の兵士につき従い、国王の元へと向かった。
 何より、国王に会わないことには私がここまで連れて来られた意味がない。

 そうして通された謁見の間には、渋面の国王――正しく言えば、レジール国王と。
 それから。

「どこにも行くなと言っておきながら、見送るはめになるとはな」

 買い物に一緒に出掛けたあの時に選んだ、翡翠色の服に金色のブローチをつけたレイノルド様がその背後にいた。
 口元には、圧倒的な王たる笑みを浮かべながら。

「迎えにきた」
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