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第三章 国王陛下と王宮
4.国王陛下は早期粛清を固く心に誓う
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横抱きにされたまま物凄い速さで連れて行かれ、ベッドに座らされる。私に与えられた部屋だった。
人の目がなくなったことにほっとする。
エイラスは後ろについてきていたから、ドアの外にいるんだろう。
「痺れは? 吐き気は? 意識はしっかりしているか」
言いながら、ユーティスは花瓶の花を抜き取り、その水を私に差し出した。
私はそれで何度も口を漱いだ。
食事に毒が混入されていた以上、水差しの水は信用できない。こういうときは枯れていない花の生けられている花瓶の水が最も安全だ。
「ありがと、もう大丈夫だと思う。たぶん花の根からとった致死性の毒ね、あれは。けど、ちょっと舐めただけだから体に影響が出ることはないと思う。一口食べてたら危なかったかもしれないけどね」
それを聞くと、ユーティスは体から力を抜くようにしてベッドにぼすんと腰を下ろした。
「本当におまえは……。もし微量でも命に係わるような毒だったらどうする! 待てというのに何故聞かない」
ユーティスが目でそう訴えていたのは勿論わかっていた。
だからこそ、だ。
「舐めてみないと何の毒かわからないじゃない。ユーティスが先に口にして倒れたらおしまいだし。私はユーティスを毒から守るためにここにいるんだから、得られる情報は得ないと」
「そうじゃない! おまえが倒れたら俺は――」
「確かに私自身が倒れたら誰が治療するのかって話だけど、一舐めしただけで死ぬような毒はそう精製できるもんじゃないわ」
そうは言ったけど、たぶんこれはプロが精製した精度の高い毒だ。濃度が濃い。だからこそ真っ赤で辛味のあるソースに混ぜられていたのだ。一撃必殺というに相応しい本気の殺意を感じる。これは気を引き締めてかからなければ、ユーティスも私も命はない。
私は並みの薬師よりは毒に詳しいという自負がある。その偏った勉強のせいで、目前にあった薬師資格最年少取得という栄誉は逃したが、そんなことはどうでもよかった。
目の前で苦しんでいる人がいたら何とかしたいと思うのが薬師の性だ。
数々の毒を調べ、舐めて検分もした。だから、ある程度は何の毒かあてがつくし、多少は耐性がある。
「実行犯を捕まえたって、大元が引きずり出せるわけじゃないんだから、少しでも多く情報は得ないと」
青く震えあがっていた給仕はノールトによって秘密裏に捕らえられていることだろう。
だがもし口を割ったとしても、大元につながる可能性は低い。下っ端の下っ端の、そのまたさらに下というところだろうから。
だから毒の種類、毒の盛り方、そういうところから少しでも情報を得たかった。
ユーティスが何も言わないので怒っているのかと隣を振り向くと、項垂れ、膝の上で組まれた手がわずかに震えていた。
「ユーティス……。ごめんってば」
そっと声をかけると、ユーティスの肩がにわかに震えた。
「え?」
「く……。くくくっ! 面白い。俺があれだけ牽制して回ったというのに、早くも手を出してくるとは」
あ、笑ってた。
しかもダークなやつ。
「それも、致死性の毒だと? 警戒されればやりにくくなるとわかっていて、様子見することもなく一度で仕留めようとしてきたわけだな。その根性は認めてやろう。だが」
言葉を切り、ユーティスはゆらりと顔を上げた。
その目は据わっている。
「リリアだけを狙ったのか、俺もろとも消そうとしたのかはわからんが、王妃の器すら確かめようともせずに犯した愚行。末代まで悔いるがいい――」
完全に闇落ちしてんじゃん。
まったく、こんなダークな王様がよくあんな爽やかな仮面をかぶれたものだと思う。
昼間身にまとっていた清涼な空気はどこへやら。
「まあ、呪うより先にこれからのことを考えようよ」
そう言ってユーティスの背中をパンパンと叩くと、ユーティスは長く深い息を吐ききり、「そうだな」と答えた。
ユーティスの黒曜石の瞳がわずかに揺れていた気がした。
さっきの震えは、私が死んでしまうかもしれないことを、本当に怯えていたのかもしれない。
ユーティスにとって毒は、弟である第二王子、第三王子を葬ってしまったものだから。
ユーティスと毒との因縁の深さを、改めて実感した。
人の目がなくなったことにほっとする。
エイラスは後ろについてきていたから、ドアの外にいるんだろう。
「痺れは? 吐き気は? 意識はしっかりしているか」
言いながら、ユーティスは花瓶の花を抜き取り、その水を私に差し出した。
私はそれで何度も口を漱いだ。
食事に毒が混入されていた以上、水差しの水は信用できない。こういうときは枯れていない花の生けられている花瓶の水が最も安全だ。
「ありがと、もう大丈夫だと思う。たぶん花の根からとった致死性の毒ね、あれは。けど、ちょっと舐めただけだから体に影響が出ることはないと思う。一口食べてたら危なかったかもしれないけどね」
それを聞くと、ユーティスは体から力を抜くようにしてベッドにぼすんと腰を下ろした。
「本当におまえは……。もし微量でも命に係わるような毒だったらどうする! 待てというのに何故聞かない」
ユーティスが目でそう訴えていたのは勿論わかっていた。
だからこそ、だ。
「舐めてみないと何の毒かわからないじゃない。ユーティスが先に口にして倒れたらおしまいだし。私はユーティスを毒から守るためにここにいるんだから、得られる情報は得ないと」
「そうじゃない! おまえが倒れたら俺は――」
「確かに私自身が倒れたら誰が治療するのかって話だけど、一舐めしただけで死ぬような毒はそう精製できるもんじゃないわ」
そうは言ったけど、たぶんこれはプロが精製した精度の高い毒だ。濃度が濃い。だからこそ真っ赤で辛味のあるソースに混ぜられていたのだ。一撃必殺というに相応しい本気の殺意を感じる。これは気を引き締めてかからなければ、ユーティスも私も命はない。
私は並みの薬師よりは毒に詳しいという自負がある。その偏った勉強のせいで、目前にあった薬師資格最年少取得という栄誉は逃したが、そんなことはどうでもよかった。
目の前で苦しんでいる人がいたら何とかしたいと思うのが薬師の性だ。
数々の毒を調べ、舐めて検分もした。だから、ある程度は何の毒かあてがつくし、多少は耐性がある。
「実行犯を捕まえたって、大元が引きずり出せるわけじゃないんだから、少しでも多く情報は得ないと」
青く震えあがっていた給仕はノールトによって秘密裏に捕らえられていることだろう。
だがもし口を割ったとしても、大元につながる可能性は低い。下っ端の下っ端の、そのまたさらに下というところだろうから。
だから毒の種類、毒の盛り方、そういうところから少しでも情報を得たかった。
ユーティスが何も言わないので怒っているのかと隣を振り向くと、項垂れ、膝の上で組まれた手がわずかに震えていた。
「ユーティス……。ごめんってば」
そっと声をかけると、ユーティスの肩がにわかに震えた。
「え?」
「く……。くくくっ! 面白い。俺があれだけ牽制して回ったというのに、早くも手を出してくるとは」
あ、笑ってた。
しかもダークなやつ。
「それも、致死性の毒だと? 警戒されればやりにくくなるとわかっていて、様子見することもなく一度で仕留めようとしてきたわけだな。その根性は認めてやろう。だが」
言葉を切り、ユーティスはゆらりと顔を上げた。
その目は据わっている。
「リリアだけを狙ったのか、俺もろとも消そうとしたのかはわからんが、王妃の器すら確かめようともせずに犯した愚行。末代まで悔いるがいい――」
完全に闇落ちしてんじゃん。
まったく、こんなダークな王様がよくあんな爽やかな仮面をかぶれたものだと思う。
昼間身にまとっていた清涼な空気はどこへやら。
「まあ、呪うより先にこれからのことを考えようよ」
そう言ってユーティスの背中をパンパンと叩くと、ユーティスは長く深い息を吐ききり、「そうだな」と答えた。
ユーティスの黒曜石の瞳がわずかに揺れていた気がした。
さっきの震えは、私が死んでしまうかもしれないことを、本当に怯えていたのかもしれない。
ユーティスにとって毒は、弟である第二王子、第三王子を葬ってしまったものだから。
ユーティスと毒との因縁の深さを、改めて実感した。
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