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第二章 攻略対象とそうでない人々
2.人を知らずに語る権利はない
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剣技の授業は、実力ごとのクラスで実施される。そこに学年は関係なく、前回の成績に応じてクラスが分けられる。
その間令嬢たちは、その様子を見学するか、手芸をするか選択することができる。
私は勿論見学。直接教わることはできなくても練習方法を学べるし、見ているだけでも楽しい。
今日私が見ていたクラスにはたまたまダーンがいて、授業が終わった後、教室に戻ろうとしたところに後ろから声をかけられた。
「おい、ユニカ」
そんな横柄な呼びかけにも、ルーイの言葉があったから、私は素直に足を止めた。
そのまま歩き去ると思っていたのか、振り返った私をダーンは意外そうに目を丸めて見つめた。
「何?」
「あ、いや。この間の試験のこと。悪かったなと思って」
「何故謝るの?」
「いや……。まさか本当に受けると思わなかったし。見せしめにするつもりじゃなかったんだ」
「ルーイならよかったの?」
試験に出たのがルーイから私に代わっただけだ。ダーンがやろうとしていたことは変わらない。
ダーンはしばらく押し黙り、それから口を開いた。
「俺、病気で一年入学が遅れたんだよ」
いきなり何の話だろうか、と思ったが素直に驚いた。
学年は一つ下でも私とは同い年ということか。
だが、それと試験のことがどうつながるのかいまいちよくわからない。
私の怪訝そうな目に気が付いたのだろう。ダーンが慌てて続けた。
「ずっと病気してたからさ。体も弱くて、剣技も苦手だった。だけど、やっていくうちにだんだん面白くなって。面白くなると、成績もどんどん上がっていってさ。楽しかったんだ。だから、ルーイも逃げずに向き合ってみたらいいと思っただけだったんだよ。本当は女までやるべきだとかそこまで思ってたわけじゃなかったんだ」
売り言葉に買い言葉、ということだったのだろう。引っ込みがつかなかったのかもしれない。
「だけど、実際に女が剣を振るうっていうのがあそこまで厳しいものだとは思ってなかった。相当練習積んでるんだろ? ユニカが手を抜いてなかったのは俺でもわかった。正直、すごいと思った。だけどそれは、あの時周りで試験結果を見てた男たちと同じで『女なのにここまでできるのはすごい』ってのもあったんだよ。だけど先生が公平に評価したら、『二』になる。本当、公平ってなんだろうなって思ったよ」
あんなに悪態をついていたダーンが、まさかこんな思慮深いことを言い出すとは思ってもいなかった。
完全に通りすがりの単なるモブで、私の人生とは一瞬の関わりしかない人だと思っていたから、よくよくその背景や思考まで思いやろうともしていなかった。
ルーイが言っていたことがわかった気がした。
「とにかく、ルーイに試験を受けさせるのを無理強いしようとしたことも、あんたに試験を受けさせたことも、やりすぎたと思ってる。俺の勝手な思いを押し付けるのは違ってた。ごめん」
どうしよう。話してみたらこんなに素直な奴だったとは。ちょっとかわいいではないか。
口も態度も悪かったから、完全に誤解していた。
「いえ、私も短気でごめんなさい」
どう反応していいのかわからず端的に答えると、ダーンは「ぶっは!!」と吹き出した。そして腹を抱えて笑い出す。
やっぱり失礼な奴であることに変わりはなかった。
「た、たしかに……! あっという間にトップスピードでキレんのな! あれは参ったわ、収拾つかなくてどうしようかと思ったよ、本当に」
涙を流しながらひぃひぃと笑うので、私はそっと彼を置いて行こうと歩みを再開した。
「ちょちょ、待って! なあ、ユニカ。剣技が好きなら、クラブに入ればいいんじゃないか。間に合ってんならいいけど」
涙を拭いながら言われたその言葉に、私は足を止めた。
「クラブ? 剣技クラブなんてあるの?」
もしかしたら、そこでなら先生に教えてもらうこともできるのだろうか。
「おお、俺も、カイル先輩も入ってるよ。顧問はクルーグ先生」
そう言えば、アレクもこの学園ではクルーグ先生に教わっていたと聞いた。
家の庭で一人素振りをするよりもいい。
けれど、令嬢がそのようなクラブに入ることで悪目立ちするのも考え物だった。
「お誘いありがとう。ちょっと考えてみるわ」
「おう! あんたが入ってきたら俺も楽しいしな! 待ってるぜ」
これは、慕ってくれる後輩が増えたと取っていいのだろうか。
新たな挑戦状……というわけではなさそうだ。
事実として、それ以来私の周囲に来る人が増えた。
何故か廊下を歩いていたり、帰ろうとしたりすると、ルーイ、ダーン、カイルなどなどに声をかけられたり、それから相変わらずのイリーナの取り巻き(もはやイリーナ本人がいなくても来る)に囲まれたり、何故かそれ以外の、しかも学年が下の令嬢たちまでやっかんでくることが増え、授業に遅刻することが増えた。
学園生活ってこんなに忙しかったっけ?
とりあえず今私の成績優秀者という呼称は危機に瀕していることは間違いない。
それから、ルーイとダーンと話したこの後、フリードリヒとも話すことになったのだが、それが私の生活を一変させたのも確かだ。
フリードリヒとは色々と相談もする仲になったし、何よりそれまでの価値観も、立ち向かうべきものも変えてしまったから。
その間令嬢たちは、その様子を見学するか、手芸をするか選択することができる。
私は勿論見学。直接教わることはできなくても練習方法を学べるし、見ているだけでも楽しい。
今日私が見ていたクラスにはたまたまダーンがいて、授業が終わった後、教室に戻ろうとしたところに後ろから声をかけられた。
「おい、ユニカ」
そんな横柄な呼びかけにも、ルーイの言葉があったから、私は素直に足を止めた。
そのまま歩き去ると思っていたのか、振り返った私をダーンは意外そうに目を丸めて見つめた。
「何?」
「あ、いや。この間の試験のこと。悪かったなと思って」
「何故謝るの?」
「いや……。まさか本当に受けると思わなかったし。見せしめにするつもりじゃなかったんだ」
「ルーイならよかったの?」
試験に出たのがルーイから私に代わっただけだ。ダーンがやろうとしていたことは変わらない。
ダーンはしばらく押し黙り、それから口を開いた。
「俺、病気で一年入学が遅れたんだよ」
いきなり何の話だろうか、と思ったが素直に驚いた。
学年は一つ下でも私とは同い年ということか。
だが、それと試験のことがどうつながるのかいまいちよくわからない。
私の怪訝そうな目に気が付いたのだろう。ダーンが慌てて続けた。
「ずっと病気してたからさ。体も弱くて、剣技も苦手だった。だけど、やっていくうちにだんだん面白くなって。面白くなると、成績もどんどん上がっていってさ。楽しかったんだ。だから、ルーイも逃げずに向き合ってみたらいいと思っただけだったんだよ。本当は女までやるべきだとかそこまで思ってたわけじゃなかったんだ」
売り言葉に買い言葉、ということだったのだろう。引っ込みがつかなかったのかもしれない。
「だけど、実際に女が剣を振るうっていうのがあそこまで厳しいものだとは思ってなかった。相当練習積んでるんだろ? ユニカが手を抜いてなかったのは俺でもわかった。正直、すごいと思った。だけどそれは、あの時周りで試験結果を見てた男たちと同じで『女なのにここまでできるのはすごい』ってのもあったんだよ。だけど先生が公平に評価したら、『二』になる。本当、公平ってなんだろうなって思ったよ」
あんなに悪態をついていたダーンが、まさかこんな思慮深いことを言い出すとは思ってもいなかった。
完全に通りすがりの単なるモブで、私の人生とは一瞬の関わりしかない人だと思っていたから、よくよくその背景や思考まで思いやろうともしていなかった。
ルーイが言っていたことがわかった気がした。
「とにかく、ルーイに試験を受けさせるのを無理強いしようとしたことも、あんたに試験を受けさせたことも、やりすぎたと思ってる。俺の勝手な思いを押し付けるのは違ってた。ごめん」
どうしよう。話してみたらこんなに素直な奴だったとは。ちょっとかわいいではないか。
口も態度も悪かったから、完全に誤解していた。
「いえ、私も短気でごめんなさい」
どう反応していいのかわからず端的に答えると、ダーンは「ぶっは!!」と吹き出した。そして腹を抱えて笑い出す。
やっぱり失礼な奴であることに変わりはなかった。
「た、たしかに……! あっという間にトップスピードでキレんのな! あれは参ったわ、収拾つかなくてどうしようかと思ったよ、本当に」
涙を流しながらひぃひぃと笑うので、私はそっと彼を置いて行こうと歩みを再開した。
「ちょちょ、待って! なあ、ユニカ。剣技が好きなら、クラブに入ればいいんじゃないか。間に合ってんならいいけど」
涙を拭いながら言われたその言葉に、私は足を止めた。
「クラブ? 剣技クラブなんてあるの?」
もしかしたら、そこでなら先生に教えてもらうこともできるのだろうか。
「おお、俺も、カイル先輩も入ってるよ。顧問はクルーグ先生」
そう言えば、アレクもこの学園ではクルーグ先生に教わっていたと聞いた。
家の庭で一人素振りをするよりもいい。
けれど、令嬢がそのようなクラブに入ることで悪目立ちするのも考え物だった。
「お誘いありがとう。ちょっと考えてみるわ」
「おう! あんたが入ってきたら俺も楽しいしな! 待ってるぜ」
これは、慕ってくれる後輩が増えたと取っていいのだろうか。
新たな挑戦状……というわけではなさそうだ。
事実として、それ以来私の周囲に来る人が増えた。
何故か廊下を歩いていたり、帰ろうとしたりすると、ルーイ、ダーン、カイルなどなどに声をかけられたり、それから相変わらずのイリーナの取り巻き(もはやイリーナ本人がいなくても来る)に囲まれたり、何故かそれ以外の、しかも学年が下の令嬢たちまでやっかんでくることが増え、授業に遅刻することが増えた。
学園生活ってこんなに忙しかったっけ?
とりあえず今私の成績優秀者という呼称は危機に瀕していることは間違いない。
それから、ルーイとダーンと話したこの後、フリードリヒとも話すことになったのだが、それが私の生活を一変させたのも確かだ。
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