病み病みぴんくめろめろピース

COCOmi

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駿喜はズンズンと歩いて行くと、先程よりも人気がない廊下で俺を壁際に追いやった。

「ちょっ!なんだよ、急にっ!」

壁に無理矢理押されたかと思えば、両腕で壁に手を突かれ、身体全体で俺を囲い込む。いわゆる壁ドン状態。いや、それよりももっと身体を密着され、逃がさないようにされている。

「いつも雅彦雅彦…お前いつになったら相手にされてないって気づくわけ?」

ズキリ、と心臓が痛む。
どうしてこうも、みんな俺とヒコたんの仲を邪魔してくるのか。
俺は気を更に張って警戒心高く駿喜を睨みつけた。

「お前には関係ない。何度言ったらわかるんだよ」
「は?関係ない?そんなわけないよな。俺たちがどういう関係かわかってるだろ?」
「ど、どういう関係って…」

何もないだろ。

そういう前に口を塞がれた。
噛み付くように、貪られるように、何度も角度を変えて唇を押しつけられる。駿喜がどうしてこんな行動するのか、本当に意味がわからない。悪ふざけが過ぎすぎている。

「っん、んっ!っ、やめ、っ…!ば、っか、っ!」

そう叫べば、駿喜は笑いながらこっちを見た。

「っ、はっ、ははっ、わかる?俺らってセックスした仲だよ。しかも一回じゃない、何回もだ。お互いの裸を見たんだ、赤の他人じゃないだろ?」

唇を離したかと思えば、そんなことを言う駿喜。
その言葉にカッと体全身が熱くなる。恥ずかしさなのか、怒りなのか、そのどちらもかもしれない。そのせいか、全身に勢いよく血が回って行く感覚がする。
しかも、嫌な思い出をぶり返され、俺は捕まる身体をより抵抗した。

「うるさい!さわんな!変態っ!!……っ、んんっ!!!」

駿喜は俺に喋らせないように、また覆いかぶさって口付けてくる。離せともがくが、やはり意味がないのか、より壁に身体を押し付けられて、自分よりも上回る力でねじ伏せられる。


クソクソ!こんなことやってたら誰に見られるかもわからない。ヒコたんに勘違いなんてされたらたまったもんじゃない。まじで離せよ、馬鹿野郎ッ!!!


そう思っても、駿喜は腕の力を弱めることなどしてくれず、さらに身体がぴたりと密着させられる。
長い間舌を絡められ、気づけば互いの唾液が口端から伝うぐらい揉みくちゃにキスをしていた。

駿喜は俺の身体を恋人のようにぎゅう、っと抱きしめ、耳元に声を吹き込んできた。

「ゆりちゃん、この前みたいにもう一発ヤろうよ。優しくしてやるから」
「は…!?お前っ、こんなところでやめろよっ…!」
「暴れないでゆりちゃん。雅彦より大事に抱いてやる」

そう笑った駿喜は俺の身体に手を這わせてくる。体の皮膚を触っていたものが卑猥な手つきにすぐ変わり、そのまま下腹部ばかり手が行き来する。
嫌だ、とはっきり抵抗するが、駿喜にはもう聞こえていないのか、股間部分を弄るのをやめず、さらにベルトを緩め、俺のものへ直接触ろうとしてくる。
その隙に唇はいつの間にやら首元へ移動しており、首筋を辿るように舌が這わされて、感触の気持ち悪さにゾクッと震え上がる。

駿喜がべったりと密着し、俺の股間部分を念入りに捏ねはじめて、俺の体が震え始めた。視界いっぱいに広がる茶髪と、独特な香水の香りが、元カレと初めて外でヤった行為を連想させる。チカチカと嫌な記憶…トラウマが端々に引っ張り出された。

(やだやだやだやだやだ!!触るな!!!!)

駿喜の性急な手に胃の中のものが迫り上がる。
吐き気が込み上がってくるのを感じると同時に、俺は腕の力を強めた。もちろんその程度じゃ駿喜の身体を離すことができなかった。だが、途中から俺が痙攣したように全身が小刻みに震え出し、身体を支えられないぐらい足がガタガタと揺れ始める。自分でも体が制御できなくなってきているのだ。過度な拒絶反応が体全身の自由を奪う。

突然俺の様子が急変し、駿喜も流石にいつもと違う、と違和感に気づいたようだ。眉をひそめ、さっきの楽しんだ声色とは全く違う声で囁かれる。

「…?おい、ゆり…?」

駿喜がこちらへ覗き込んだ。先程の意地悪なニュアンスが抜けて、どこか心配がるような顔が覗く。そのとき。

「ッッ!やめろっ…!!」

駿喜を思いっきり突き飛ばした。
駿喜は思っていたよりも隙があって俺がそんな行動に出ると思わなかったのか、簡単に体のバランスを崩し、向こう側へと倒れ込む。それと同時に思ったよりも後ろに倒れ込んだ駿喜は立てかけの鉄立てに勢いよくぶつかってしまった。

ガタガタガタッ!!!

嫌な音が鳴り響いて、ハッと意識が駿喜の方に向く。
不安定な足場をしていたのか、積み上がってた鉄立てが、まさか駿喜の上に崩れ落ちてきた。


「っ、駿喜っ!!」


思わず名前を叫ぶ。だがもう遅かった。
駿喜が声を上げない内に、鉄棒が駿喜を覆い被すように振り落ちていく。その際、ガツンと1つの鉄棒が駿喜に向かって落ち、駿喜の鈍い叫び声が上がった。


「っぐあああっ!!!!」

普段からは想像つかない叫び声だった。
その異常な声に、俺は全身震え上がって、思わず腰が抜けてその場に崩れ落ちてしまう。

駿喜、駿喜、駿喜が。
死ねとは思ったが、消えろとは思ったが…こんなことまでは。

しかし、駿喜が肌をまさぐった感覚が未だに残っていて、吐いてしまいそうだと首近くに迫り上がるものを慌てて口で抑える。
思わず地面にうずくまろうとしたとき。

「きゃあああああっ」

女生徒の叫び声が上がる。
俺が思わずその声に顔を上げれば、人が勢いよく集まってきた。叫び声をあげた女生徒はこちらを見て呆然としている。

「裕里、駿喜!?」
「ひ…」

ヒコたん…!


バッと人混みを押し退けた、そこにはヒコたんが立っていた。俺たちの様子を見た瞬間、ヒコたんは顔色を変え飛び出してくる。

「大丈夫か!?」

ヒコたんが叫んでこちらに駆け寄ってきてくれる。

「っ、ひこ、た…っ」

足が震えて立ち上がれないから、思わずヒコたんに手を伸ばす。ヒコたんに手が届くよう、震える身体を必死に叱咤した。




ーーーしかし、ヒコたんは俺の前を通り過ぎて、駿喜の元へ行ってしまった。

え、と目の前が真っ暗になる。

ヒコたんの方を見つめれば、駿喜はへたり込んでいて片腕と額から血を流していた。意識を失ったように目を閉じて、壁へもたれかかっている。

俺は身体から力が抜けて駆け寄ることができなかった。呆然と見つめる俺に対し、ヒコたんはテキパキと駿喜の容態を調べあげはじめた。
しばらくすると誰か生徒が呼んだのか、先生たちまで集まってきて、駿喜の応急処置や鉄柱を周りの人間たちが撤去していく。
その様子を見ていくうちに、俺はサーーッと冷静になり、この状況の深刻さを実感し始めた。



これは…俺の、俺のせいじゃない。
俺のせいじゃない、こいつが、こいつが無理矢理俺を襲おうとして。それに抵抗して、そしたら倒れて、しかも無理矢理キスして身体触ってきて、怖くて、だから、押してしまって。ちがう、ちがう!俺のせいじゃない、俺のせいじゃないんだ。


「俺の…せいじゃない……」


その心音がぽつりと吐き出されてしまった。
その言葉が聞こえたのか、一斉に周りの目が非難の色に変わった。

なんで、なんで、なんでそんな目で見るんだ。
なんで俺が悪いみたいな目でみんな俺を見るんだ。

みんなは俺が人殺ししたとでも言いたいかのように、冷たい目で睨んでくる。

いつも死ねと言って周りを見下していたお前がやったんじゃないか。

誰も口は開かないが、黒い光のない数多の目がそうやってジッと俺を見つめる。


ちがう、俺が、俺が駿喜を傷つけようとしたわけない、そんなつもりじゃない、そんなつもりじゃなかったんだ。

「お、俺のせいじゃ…っ」
「裕里」

ビクッと体が震えた。

ヒコたん…の声なのか?
あまりにも聞いたことのない低い声で、脳がはっきり認識しない。

俯いていた俺の視界に影が落ち、ゆっくりと見上げれば、冷静な顔をしたヒコたんが俺を見下ろしていた。捲り上げたシャツの袖には赤く血がついてる。

「裕里」
「ひ、ヒコたん、俺、おれ、こわくて、ひこた、ん、俺、怖かったの、ヒコたん、ヒコた」

ヒコたんだと思ったら懇願の声が出た。気持ちが止まらなくて、頭が混乱して、自分でも馬鹿みたいに取り乱す。
首元は駿喜の唾液でヌメヌメとし、駿喜に触られた感触が未だに残っている。駿喜が俺をレイプしようとした。しかも、また無理矢理で。嫌だったんだ、怖かったんだ、今も吐きそうなんだ、それぐらい怖くて怖くて、気持ち悪くて。助けて、助けて、助けてヒコたん。

助けて。


ヒコたんの足に思わず縋りついた。うわ言のように言葉が漏れる。

「ヒコたん、たすけ、」
「裕里、お前は何をしていた」

しかし、俺の声を遮ったヒコたんは思ったよりもずっとずっと低い声をしていて。静かな静かな目で俺を見た。

「何があったか知らないが、なぜお前は駿喜の怪我を心配しない?助けに来ない?この状況に協力しようとしない?なんでそんな遠くから見ているんだ」
「い…や、」
「なぜだ?駿喜の方がよっぽどひどい怪我を負って辛い目にあったのに。自分のせいじゃないと、なぜそんな呑気なことが言えるんだ」

そんな、そんな、ヒコたん。
俺だって辛かった、しんどかった、襲われて怖かった。それなのに、それなのに。
何ひとつ聞いてもらえない。声に出すのすら、もう恐ろしくて、息だけしか微かに出ない。

答えない俺にヒコたんは俺が縋っていた手を足から離して、駿喜の元へ行ってしまう。



「お前には失望した」

ヒコたんが俺の顔すら見ないで言った、その言葉に俺の心は殺されてしまった。



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