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序章 透の告白
重ねての告白
しおりを挟む『どうぞこの手を振り払わないで下さい、女王様』
小学生の頃、隣室に住んでいたお兄さんの部屋で目にした台詞だ。 タイトルは忘れたがあれは著名な漫画家のものだったか。
女王は何も言わずその者を引き上げて、当然の様に抱き合いキスをしたと記憶している。
そして、ふたりは溶け合い一つの個体となり、それはひとつの胎児へと変貌する。 そこに出てきたと同様の言葉を、自分が言われるなんて誰が考えただろう。
しかし確かに透は言った。
「どうぞ振り払わないで下さい、彩香様……」
真剣な眼差しで頬を紅潮させ私を見上げている。 恰もこの世で一番愛しい者を見るかの様に。
その表情を眩しく見下ろしながら、胸の奥でなにか不自然なモノが燻り始めるのを感じた。
唇を少し震えさせた後、彼は言葉を続けた。
「捜し求めていた貴女に出会えてから、ずっとこうしたかった。 いつ言い出そうか迷っていたんだ。 でも嫌われるのが怖くて……。 付き合えて、側に居られるだけでも幸福なんだと考えようとしたけど。 それをどうしても許さないモノが俺にはある。 傷付けたくないけど、真実を打ち明ける決心を付けて今日は来たんだ。 だから聞くだけ聞いて欲しいんです。 お願いします、彩香様」
「分かったから。 とにかく向こうへ行こうよ。 そのまんまじゃ首が痛いでしょ、私もこの態勢キツイのよね」
やっと口に出せたのがこんなセリフじゃ、女王様失格よね。
足を解放され、ホッとして奥へと進む後ろで、私が脱いだサンダルを透は大切そうに揃えていた。
その背中は喜々としていて、可愛かった。
一人掛けのソファーに座わると、彼は足元に腰を下ろそうとして、慌てて左のラブチェアーに座るよう促した。 彼はこれに素直に従った。
その顔からは虚ろさが消えとても嬉しそうで。 いつもの屈託のない透に戻った様だった。
「で、何が私を傷付けるって言うの?」
恥ずかしさを打ち消して、少し意地悪っぽく言った問いに彼が一瞬、硬直して喉をゴクリと鳴らした。
「何か飲む?」
立とうとした私を制止して、彼が話し始めた。
「俺……僕だけの女王様になって欲しい。 この身が朽ち果てるまでずっと従い続けます。 全てを捧げたい。 だからお願いを聞いて下さい。 僕を奴隷にしてください」
(泣きそうな声だ)
「私はそういうの分からないし……」
慌てて縋り付くように彼が言う。
「貴女は気付いてはいないだろうけど、初めて貴女を見たのは三年も前なんだよ」
(三年前? 私達が知り合ったのは去年の冬なのに、それ以前から知ってたってこと?)
私は予想外の事を聞かされ、ちょっとしたパニックに落ちた。
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