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序章 透の告白
刻みつけていたその日 消してきたあの日
しおりを挟む「アノヒトに捨てられて公園にいたんだ、僕は」
(公園? えっ、ええ!)
「孤児院で育ったとは聞いていたけど、あの人って」
「親にも捨てられたさ、でも違う。 愛してたアノヒトにさえ、捨てられた」
(彼に『愛された』人)
彼の口から出たワードが胸に引っ掛かり息苦しくなった。 これも嫉妬のなせることだろうか。
「雨に打たれて泣いてた僕に、あの日、傘を差し掛けてくれたのが貴女で。 ずっと探していて、あの喫茶店でやっと逢えた時には、これは自分の思い込みではなく貴女こそがそうなのだと確信した」
彼が何を言い出したか分からなかったが何とはなく、ある場面が思い出された。 公園とは、私達が出逢ったあの喫茶店から見えるあの公園のことだろう。
ベンチに座りずぶ濡れになっていた青年に、私が持っていた傘を手渡し、一緒にいた上司の傘に飛び込んだ事があった。
(あの時の私達には傘は一つで良かった、そうだったわ前は)
「ちょっとだけ。思い出した」
(思い出したくはない出来るなら抹殺したい記憶もだけど)
「でも、ならどうして……」
言いかけて止めたのは透が哀しい目をしたから。
「酷い目に遭わされたけど、それ迄は優しくされてもいたんだ。 愛されてると思っていたし従順にしてきた。 なのに『新しい子を拾った』ってポイされた。 犬っころ捨てるみたいにだよ!」
(なんて痛々しいの、愛したヒトにそんなこと言われたら壊れてしまうわ!)
「六年も傍にいた。 僕だけを必要としてるからだと思っていた。 それで、それで……」
「もうイイよ、話さなくていい」
私は彼の頭を宥めるように抱きしめた。
「僕の女王様は彩香しかいないんだ。 嫌いにならないで。 お願いだから」
服を伝わって彼の涙が滲みてきた。
「嫌う訳が無いでしょ? 私、透の事大好きだもん、ずっと一緒に居るから。何でもしてあげる」
私も涙が溢れた。
「本当に嫌いにならない?」
「うん」
「女王様になってくれる? 彩香様って呼んで良い?」
「抵抗があるけど。 二人きりの時だけね」
「じゃぁ、改めてキスをさせて下さい。彩香様」
そう言って彼は、再び私の足元に傅いた。
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