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第八章 雑多
バイトという待ち場所
しおりを挟む呪縛から解き放たれ、新たに生活を始めることにした僕は、その週末にはあの女神を捜す為、あの公園近くの深夜営業をする喫茶店でのバイトを決め、講義が終わるとほぼ毎日そこで働いた。
しかし、女神との再会を果たせないまま二年が経とうとする頃、ひたすら待つことが惰性に思われ、ここを選んだのは希望的観測に過ぎなかったのでは? と考えるように為っていた。
店はビジネス街とホテル街の境に位置していて、様々な人間が行き交う道を挟みあの公園を望めた。
バイトを決めるにあたり立地条件は当然であったが、落ち着いた外観と重厚なドアの組み合わせや、複合的にも使用可能な屋内構造に興味を惹かれていた。
店内は人の声が騒音のように響いて、憩うという意味での居心地は良いとも思えないのだが、とかく繁盛していた。 週末深夜は特に。
日中は女性従業員、夕刻からはバイト加わり接客を担当する。
僕の他、四人いるバイトは皆、男子大学生だ。 女性従業員が帰ってしまう夜間は、曜日毎にこのバイトが二人、交代で入る様シフトされる。
毎度店長が加わるとしても、客が多い日にはキツい人数だ。
営業時間は9時から24時とある。 が、客が居る間は閉めないのがオーナーの方針らしく週末は、ほぼ3時頃が閉店時間。
駅の向こう側で酒に呑まれ、終電を過ぎたのに気付きタクシーは使いたくないがハシゴするにも開く店は無く、カプセルホテルは大層だしカラオケ屋も空が無い。
そういったケチ臭い連中の中に、此処のきとを知る輩がいて提案協議した結果、始発迄の時間潰しに押し寄せる、という訳。
早い時刻に女性従業員を帰してしまうのも、駅から離れていることと、この客層と場所柄からだ。
繁盛していても儲けは薄い。 しかも客達の声がどうしてだか甲高くて五月蝿い。
割増の時給を受けていて何だが『早く帰れ』と、口にしないが常に念じている。
同じくバイトの身である奴がこれを愚痴っているが、無視する。 つまらない蛇足をも聞かない為。
店長が嘆くのには頷いて、無言の同意のサインは送る。
この人も雇われであるが、必要以上には口を開かない。 物言う時には相応な意味を含む。
「お前さ、もっと愛想よくしろよな」
上場企業に内定を貰えた哲哉が、また先輩風を吹かせている。
「そうすりゃ顔が良いんだからモテモテになるのによぉ」
「別にモテたきゃないよ」
「つまらね~奴だな」
「オイ!今度は絶対来いよ。透に会わせるって約束で来てくれる女達に悪いだろ!」
大西が横からしゃしゃり出てきた。
(コイツ年下の癖にタメ口を使うから嫌いだ)
「何故そんなものに行かなきゃいけないの。お前たちが勝手に段取ってるだけだろ」
「頼むよぉー!俺のカノジョ作るの助けると思って。奢るから。なっ頼む!透ちゃ~ん」
「うおっ、抱き着くな!気持ち悪い」
「なら俺のお願い聞いてくれるか~」
「分かったからとにかく放せ!本当に気持ち悪いんだ!」
大西がどっかの女子大生と合コンをセッティングしてきたらしい。
気が進まなかったが、何度も断っているので行かざるを得ない嵌めとなった。
マンションからひと駅離れた居酒屋が会場だ、ということなので早々に抜け出し、帰途につくことを二人に了解させた。
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