タブー的幻想録

ももいろ珊瑚

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第十章 ひとすじの光が差し照らす

手紙

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 数週間後、一通の封書が届いた。 差出人は『金田かねだ裕子ゆうこ』。


 アノヒトからの手紙。 裕子ゆうこさんから送られて来たメッセージ。
 思いも拠らぬこと。 嬉しい、だが何が書かれているのか皆目判らない。

 (僕の留守電を聞いて貰えたのか?怒ってる?だったら手紙など寄越すか?)

 ペーパーナイフで封を切り、息を送って封筒を膨らませ、気持ちを抑えず取出した便箋を勢い広げた。 果たして吉と出るか凶と出るか。
 罫線が引いてあるだけの飾り気のない便箋が二枚。 外側の一枚は白紙で、内側の一枚だけに言葉が綴られている。



『お久しぶりね、伝言を聞きました。

 そうですか 新しい恋が芽生えたのですね。 声も元気そうだし安心しました。
 その女性をきっと探し出しなさい。
 もし再び見つけたら、必ず主になって貰いなさい。
 この意味、貴方は判るよね。 そして全てを委ねるのです。

 そうすれば貴方が大人に成れた事を
 認めてあげます。


 一度だけ 親代わりとしてその人と貴方の二人に会う事を約束しましょう。
 それが私が貴方へ表すことの出来る せめてもの情です。



 それまでは連絡を寄越さないように。   かしこ』



 読み終えて、僕は涙が止まらず声をあげ泣いた。
 それは切なさや悲しみでない。 心に巣くっていた憎悪が消え、恨みを持ち続けていた事から解放され、そうしていた自分を赦せる喜びと安堵を感じたからだ。
 裕子さんには今、感謝の気持ちが溢れるばかりだ。
 僕は時間を忘れ泣いた。



 それは後々鑑みれば、メールなどというものを使わないあの人からの最初で最後の手紙。
 届いた日から幾度も綴られている文字を目で追った。
 言葉を繰り返し反芻したところで、その行間を読み解けなかったし、今もって何も理解し得ない。
 裕子先生が手紙を書きながら何を考えてたかも……この後どうなるのかという事も。
 否、あの人は最後まで僕に理解させ様としなかったのだ。 これだけは確信している。


 その時の僕は手紙を貰えた事がただ嬉しく、女神を連れだって敷居をくぐる画を無邪気に夢想していた。

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