タブー的幻想録

ももいろ珊瑚

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第十一章 懇ろな図りこと

意識の外へ添えた手

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 安川さんと吉冨さんに連れて行かれたのは、繁華街外縁の公園に面した喫茶店。
 “ K-POPアイドル因子分析家 ”を自称する安川さん曰く、『一般人なのが不思議でならない無双の推しメン君』がバイトしていて、顔馴染みになった最近は足繁く通っているらしい。

 前々から一緒に行こうと誘われてはいたけれど、年端もいかない、然も学生さんとのこと。 さして興味がわかない。
 それを物見遊山に連れ立って行く、なんて御免こうむりたいのが正直なところ。
 でも、その男の子のことを楽しそうに話す安川さんの興を削いでしまうのは躊躇いがあった。 なのでそうと言わず “某氏とのいわく付きのホテル街の近くで私には鬼門だから” と無理からなこじつけをつけては、やんわり断り続けてきた。

 だったのだが。 通常営業は夜8時までのその店が、先月からは終電を乗り過ごした客の要望に応えべく、週末の金曜日、土曜日は翌朝始発の時間まで夜間営業を開始したとのことで……。

「……で、今日はその金曜日でしょ?ホント眼福なんだから~♪百聞は一見に如かず!だから行くべし!今日は逃がさないよ!見て損はない、否、絶対に後悔させないから!」

 と、お酒の助けもありモチベーションが上がる一方の彼女に、根負けした形で私は強制連行されたのだった。



 随分昔から在ったと聞いていたので、さぞ年季の入った古めかしい造りの店構えだと思っていたのが、実際に訪れてみれば流行りのレストラン風だったのは意外。
 硝子製の扉にブロンズ像を想像させる取手。 重厚な我が身が開かれん時の訪れを待っているかの様だ。
 それを押し開くと、ゆったりした洋楽の調べと暖かな温度と、甘い珈琲の薫りが夜風に冷たくなった身を抱擁した。
 間口はそれ程ではないと感じるが、奥行きと天井高は結構なもの。
 通りに面するフロント部分には、レジとカウンターを挟んでおひとり様用テーブルが三組。 今はそのカウンターでドロッパーに湯が注がれていて、甘い薫りがするのはそこから。
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