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第十四章 Gospelzeit
祈り、委ね、叶う――観覧車にて
しおりを挟む僕は毎日朝と夕方の2回メールを送る。
大抵、返事は直ぐに送られてくる。
内容は到って当たり障りの無い日常の過ごし方や最近興味を持っている事等であったが、僕はそれの一つ一つを宝箱を開ける様に心躍らせ開き、何度も読み返す。
書いてある言葉の凡てを暗記出来る程に何度もだ。
そこには彼女の息遣いがあり、僕だけに微笑みを向け、話し掛けてくる。 待ち望んだ女神からの福音。
密やかに含まれる得てして壊れやすく脆いものも、僅かも零すことの無いよう丹念に掬い上げるのは、僕しか出来ない事で僕に与えられた使命である筈。
僕は掬い上げたそれを一滴残らず飲み干し、女神が求める総てを言葉にして、行動に変えて捧げると誓ったのだ。
あの日から。 否、きっと生まれる依然からずっと。 こうすると願い続けて来た。
この想いはまだ彼女には告げられないが、何か形にして贈りたい。
クリスマスの贈り物、そして僕には再会を感謝する意味もあって、スワロフスキークリスタルガラスで天使を模ったデスクウォッチを選んだ。
目にした瞬間、僕の中の彼女を映していると感じさせ虹色に煌めき僕を見詰めている様だったんだ。
あの日の僕を包むような笑顔と似た透き通る眼差しで。
そして今その天使を両手に掲げ女神の応えるのを待っている。
(―――聖霊の御名により赦しを与え給え、願わくは女神の唇から甘露なる言葉を……神が本当にいるならどうか言わせて)
「駄目かな……俺だと思って貴女の側に置けないかな……貴女を守らせて欲しいんだ。子供っぽいかい?気に入らなかったの?」
不安で、声が震えそうになるのを抑えようとすると何故か言葉がきつく為る。
「無理強いはしないよ。だが正直に言ってくれ、黙って無いでくれ」
「……違うの」
彼女の頬に涙がつたい一瞬僕をたじろがせる。
「透さん違うの嬉しくて……だから言葉が……出なかった」
「OKと理解していいのか?」
「はい、私も貴方を好きでいます。いつも側に居て欲しい」
夜風が吹き付けているだろう窓硝子に、か細い10本の指で被い隠した彼女の姿が映っている。
天使の微笑みを彼女の膝の上に置き、窓に映った顔に手を触れながら彼女の前に立ち、もう一方の手で指に絡む髪を一本ずつ自由にしてやる。
香りは付けない主義の彼女だが、髪からはフローラル系の香りがしとやかに漂って来ている。
「キスしない?」
心臓が口から飛び出しそうだ。 いきなり大胆過ぎるだろうか?
「して欲しい……」
ゆっくりと上げた顔は睫毛も唇も涙に濡れ。
そうでなくても綺麗なそれは艶めきを与えられていて、僕の次の行動を無防備に待っていた。
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