70 / 99
第十三章 熟慮の後の失策
読み違えて知る己の愚
しおりを挟む店の外には、彩香さんがいる訳も無く、またマユミの姿も見えない。
(思い過ごしであれば良いけど)
不安を振り払うように頭を振って、来た方に戻る。
「おい中嶋、マユミは今こっちに向かっている」
店の奥から大きな声がして客が一斉にマスターを見、次にこちらに視線を向けた。
客達に会釈を送りながらゆっくりとそちらに戻り「何故わかったんです?」と尋ねた。
「マユミは家中パーティーに合うのを探してたんです、けど無くって……代わりに料理を用意したから持込みOKか?と。もう少ししたらここを出られそう……じゃない家をもう出られるからって。始めるまでに間に合わないかもしれないから先に始めといてってね、って。そんな感じでメールが来てて」
先程、僕達を睨みつけていたマユミが親しくしているらしい女の一人が携帯を握りしめ、取次筋斗に告げる。 その携帯で、僕とマスターのやり取りを窺いながら居ない間起こったことを逐一報告してたのだろう。 マユミが何をしに出て行ったのか、も知る筈。
「持込みはいいけど今出て間に合わないって、まだ半前だぞ?予定時刻まで未だ30分以上ある。中嶋、そんなに遠い家に取りに帰ったの?」
「俺がマユミの家をしるわけが無いですよね?」
「ああそうか、それもそうだ。でもな、あいつが幹事役で兼、主役みたいなもんだからなぁ、どうしたもんか」
「遠いというか、道が混んでてって事じゃないかと。というか透さん、あなた。言うに事欠いて知るわけないですって?でもマユミはあなたの家を知ってるわよね」
女が眼つきを変えて噛み付いてきた
「まあまあ。俺が言いたいのはだね。居ないのに始めてしまってそれで納得してるの?友達は皆、文句言わないの?ってことだ」 マスターが収拾にかかる。
「それは大丈夫です。みんな分かってるから」
「何を?」
横から口を挟んだ僕を、今度は見下す眼つきに変えた女が刺々しく言う。
「知りたい?何でも、よ。言わないけどね。何も知らないくせに、言い訳したいならマユミにすれば?要はそのマユミはまだ家ってこと、わかった?」
別段この女やマユミの何を知りたいなどは考えてもいない。 マユミが居ようが居まいが、そんな事はどうでも良い。
確か家から店まで40分掛かると言っていた。
僕はマユミが店を出て戻るまでを演算する。
(先程まで家に居たなら彩香さんと居合わせる可能性はほぼ無いってことだ)
最悪読みに間違いが生じていたとして、あの女の所見通り問い質す相手が今居ない。 取り敢えず僕は仕事に集中することにした。
行動を考慮するに当たり条件を書き出すのは必須。
だが当人の〝 僕への思い入れ・固執 〟という概念が理解の外であった為、洩れていた。
否、片隅で在った、まさかという形で。
今まで知り合った女達に共通して見られる条件、がその内に殊マユミは入らないように感じていた。
携帯を使い状況を知ることも出来るが、し無かった。
確認するなら直にとその時は思った。
面倒とは別の、厄介な思いが浮かんだかも痴れない。
下手に女神のことを話した為の、シンパシーの様なものを―――。
途中で合流した同じグループの女達に抱えられて、したたか酔ってもいて化粧も剥がれ落ちきったマユミが、中華料理の重箱を手土産にパーティーに加わったのは20時を過ぎた頃であった。
後日、電話越しに問い詰めたがマユミは取り決めてある台詞を吐く以外、何をしていたかについてシラを切り黙りを通した。
該当者の言質が取れないのに、彩香さんへ聴くことは尚早で諦めるしかあるまい。
最初から条件の欠落した設問を解こうとしていたのだ。
結果は見る迄もなくで僕の読み違えは特異と言えないし、落胆したのはこれについてで無かった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる